ドラマスペシャル「東野圭吾 手紙」 (2018/12/19) 感想

テレビ東京系ドラマスペシャル『東野圭吾 手紙』(公式サイト)
『「これがあなたへ送る最後の手紙です」13年間届き続ける兄の手紙の謎…坂本九の名曲に隠された涙の“秘密”とは!?250万部突破・東野圭吾の名作を初ドラマ化!』の感想。
なお、原作小説の東野圭吾 『手紙』(文春文庫刊)は未読だが、同小説を原作とした2006年に劇場公開された生野慈朗監督の映画『手紙』も劇場鑑賞済み。
武島直貴(亀梨和也)の兄・剛志(佐藤隆太)は、直貴を大学に入れてやりたい一心から、盗みに入った家で思いもかけず人を殺めてしまい、強盗殺人の罪で逮捕。懲役20年の判決が下された。それ以来、獄中から月に一度、直貴のもとへ手紙を送り続けている。
働きながら定時制高校へ通う直貴は「順調だから心配いらない」と兄へ手紙で報告するが、現実はアルバイトを次々と変え、住む場所も転々とせざるを得なかった。SNS社会の現代。進学、恋愛、就職…掴もうとした人生の幸福すべてが「強盗殺人犯の弟」というレッテルによって、その手をすり抜けていく。
次第に直貴は剛志からの手紙を無視するようになり、やがて兄弟にとって大きな選択をすることになる。差別はあって当然ーー犯罪加害者の弟という運命を背負いながら、周囲の人々と関わり合い懸命に生きていく直貴が見つけた絆とは…?
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
原作:東野圭吾 『手紙』(文春文庫刊)
脚本:池田奈津子(過去作/砂の塔~知りすぎた隣人、アルジャーノンに花束を2015)
演出:深川栄洋(過去作/偽装の夫婦、破獄、僕とシッポと神楽坂)
音楽:福廣秀一朗(過去作/未来日記-ANOTHER:WORLD-、破獄)
東野圭吾氏の『手紙』は既読、映画『手紙』も劇場鑑賞済み
東野圭吾氏の『手紙』は既読、2006年に劇場公開された生野慈朗監督の映画『手紙』も劇場鑑賞済みだ。従って今回の感想も、原作や過去の映像作品とは基本的に比較しない、いつもの立場を貫こうとは思う。
この平野社長の言葉や考え方や思いが、本作が伝えたいこと
ドラマの中盤の 58分頃、真芝電機の家電売り場働いていた主人公・武島直貴(亀梨和也)が、職場で起きた窃盗事件の濡れ衣で売り場担当から倉庫番に配置転換になった。
そこへ、真犯人が捕まったことを伝えに来た真芝電機の社長・平野宗一郎(小日向文世)が手に煎餅が何枚も入っている袋を持って、これまで差別をされて苦しんで来た直貴を労いつつ、こんなことを言い出す…
平野「今回の人事部の処置は間違っていないと思う。
差別というものは あって 当然なんだ。
差別は いわば 人間の本能だからね」
直貴「どういう意味ですか?」
平野「例えば このせんべいの中に1枚の毒せんべいがあったとする。
その1枚の毒せんべいを取り除いたとしよう。
ほら…こうだ。残ったせんべいに毒はない。
さて 君は これらのせんべいを見て どう思う?
食う気になれるか? 嫌だろう?
いくら 毒はないと言われても 体が拒否する。
それが 人間と言うもんだ。君への差別も同じ。
誰だって 犯罪に近しいものからは
遠いところに身を置いておきたい。
たとえ 害がないと言われてもね」
直貴「じゃあ 私は差別されて当然だと?」
平野「ある意味では そうだ」
直貴「そんな…」
平野「これは 善悪の話じゃない。人間の本性の話だ。野蛮な我々のね。
お兄さんは罪を犯す前に 覚悟をしなければいけなかったんだ。
罪を犯すと 大切な自分の家族まで差別されて 苦しむ。
自分が刑務所に入れば済むという問題じゃない。
君が受けている苦しみも含めて お兄さんが犯した罪の刑なんだ。
差別はなくならない。いつの時代にも どこの社会でも。
問題は そこからだ。そこから 君がどう生きるか だ」
この平野社長の言葉や考え方や思いが、本作が伝えたいことだと思う。直貴にとっては、とても辛く厳しい現実だが、綺麗事を抜きにすれば、多くの人間がこう考えるのではないだろか。自分とは無関係の差別によって苦しむ相手の気持ちよりも、「だから 法を犯すべきでない!」と。
でも、本当にそれが犯罪抑止になるのか? 家族はずっと罪を背負って日陰で生きて行かざるを得ないのか? ドラマは、ここから、自分も悲しい過去を抱え生き、直貴を精神的に支え続け、のちに妻となる白石由実子(本田翼)と直樹の物語へ移行していく…
兄への最後の手紙を投函する映像がとても印象的だった
後半で、直貴の娘が一生残ってしまう顔の傷を負ってしまう ひったくり事件が発生する。犯人の両親が直貴のもとへ謝罪にやって来て、直貴が初めて被害者家族と加害者家族の両方の立場を経験し、何もやっていない自分は正々堂々を生きてさえいれば良いと言う考えが間違っていたことに気付く。
そして、「強盗殺人犯の弟」として生きて来た 13年間を刑務所にいる兄・剛志(佐藤隆太)宛ての手紙に綴る。その手紙を坂の上にあるポストに投函するまで、直貴が夕方近くの住宅街の坂を下ったり上ったりする映像と、家で直貴を心配する由実子が、直貴の手紙のナレーションを背景にカットバックで描かれたのが、とても印象的だった。
当事者らの心を変えるのに必要な「13年間」の描写が曖昧
放送尺 2時間9分で、16にブツ切れにしたCMを省くと正味約1時間46分で決してCMが長い訳でない。むしろブツ切れしたことが、13年間の時間を流れを丁寧に描くべき物語全体を、箇条書きに見せてしまったと思う。また、脚本も「起承転結」が曖昧な上に、演出もラストは歌に頼り過ぎた印象も強い。
本作は、「13年間」と言う時間が当事者の心を変えるのに必要だった時間であることを丁寧に描くべきなのに、時間経過の描写、特に直貴自身と周囲の変化をもっとしっかりと描くべきではなかったろうか。ただ、亀梨和也さんの感情を抑えた演技と、『わにとかげぎす』から俄然と良くなった本田翼さんの演技に救われたとは思う。
もっと、直貴と由実子の関係性と、獄中の兄を見たかった
残念だったこともある。まず、亀梨さんの顔がもう少し痩せていても良かったかなってこと。確かにストレスで暴飲暴食に走ってしまうケースは現実にはあると思うが、映像的にはゲッソリしている位が丁度良いような。
また、妻の由実子との前の、一流企業の令嬢で直貴の恋人・中条朝美(広瀬アリス)との親密性の描写が不足していたこと。そのために、富豪・中条家のくだりが “客寄せ” と “おまけ” に見えてしまった。もっと直貴と由実子の関係性も掘り下げて欲しかった。そして、獄中の兄の存在が殆ど映像化されなかったのも、ちょっと物足りなかった。
今、南青山に建設予定の児童施設反対派の立場を連想した
本作は、「差別とは何か?」「差別にどう立ち向うべきか?」と言う重厚で深い人間性をテーマした作品だ。これを見て、早速連想したのが、今世間を賑わせている「東京・南青山に建設予定の児童施設をめぐる反対派の動向」だ。ご存じない方は、「南青山 児童施設 反対派」と検索ワードを入力すれば、ずら~っと結果が並ぶはず。
要約すれば、高級ブティックに囲まれる超一等地「南青山五丁目」に、児童虐待防止の相談機能があったり、触法少年(刑罰法令に触れる行為をして警察に補導された14歳未満の者)が送致されたりするような施設は、「南青山ブランド」に相応しくないし、それによって治安の悪化や不動産価値が下がることを懸念している反対派が多数おり、建設が進まないと言う問題だ。
昔は「金持ち喧嘩せず」と言ったものだが、今や「にわかセレブに品無し」と言わざるを得ないと思う。反対派の頭の中には「子どもは社会全体で育てる」と言う考えは無いのだろうか。なお、反対派は青山の不動産会社「グリーンシード」に焚き付けられていると言う噂もあるが、執筆時点で公式サイトは閉鎖されており事実は分からない。
あとがき
原作と劇場版が素晴らしいので、テレビドラマ版にはそれ程の期待はしていませんでしたが、期待よりは良かったです。ただ、劇場版の上映時間が 121分であることを考えると、もっとやれたかなと思いますが。本作に興味を持った方には、是非とも劇場版を観て欲しいです。山田孝之さんと玉山鉄二さんの名演技に惚れ込むはずです…
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