僕らは奇跡でできている (第7話・2018/11/20) 感想

関西テレビ制作・フジテレビ系・『僕らは奇跡でできている』(公式)
第7話『カメは昔、ウサギだった』の感想。
学生に一輝(高橋一生)のゼミを要望され喜ぶ鮫島(小林薫)だが、樫野木(要潤)は複雑な心境。一方、勉強をさぼって涼子(松本若菜)に画帳と色鉛筆を取り上げられた虹一(川口和空)は、腹痛を訴えて学校を休んだ揚げ句、黙って家を抜け出して大学に行き、一輝に家にいたくないと訴える。虹一を自宅に招いた一輝は、育実(榮倉奈々)に伴われ迎えに来た涼子が虹一を否定する様子を見て、彼にはすごい所が100個あると口にする。
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
原作:なし
脚本:橋部敦子(過去作/フラジャイル、A LIFE~愛しき人~)
演出:河野圭太(過去作/HOPE~期待ゼロの新入社員~) 第1,2,5話
星野和成(過去作/あいの結婚相談所、ハゲタカ) 第3,4,6話
坂本栄隆(過去作/脳にスマホが埋められた!) 第7話
音楽:兼松衆、田渕夏海、中村巴奈重、櫻井美希
オープニングテーマ:Shiggy Jr.「ピュアなソルジャー」
主題歌:SUPER BEAVER「予感」
序盤の「授業での一輝の言葉」の構成が素晴らしい!
さて、私が本作を称賛する理由は幾つも存在するのだが、その中の1つが序盤の構成だ。本作は序盤で一輝の授業風景が描かれることが多い。そして、その一輝の言葉の中に、その放送回で描かれる本質部分(テーマや主題みたいなもの)に強く関連する台詞が込められる。例えば、今回であれば、一輝のこの台詞↓が、それに当たると思う。
一輝「生き物の分類は 人間がしましたが
わかりにくいものも たくさんあります。
もちろん 生き物たちにとっては
分類されても されなくても どっちでもいいことですし
そもそも分類するということには無理があるんです」
この手法は決して本作固有のものでもないし、脚本の構成上よくある手法ではある。しかし、本作が他と違うのは、この後の展開が視聴者の多くが想像するものを遥かに超えたものになること。
そして、全部を観終えた時に、序盤の一輝の台詞を思い出して、本作が1時間で言おうとしたことが、一輝の授業に集約されていること気付き、更に内容を深く読み解くことが出来る点だ。
そう、1時間の内容そのものが、序盤で描かれる一輝の授業の解説と証明になっているのだ。だから、私が一輝の生徒の気持ちになり、作品の世界に入り込め、共感と感動がし易くなる…と、思っている。
13分間の長尺アバンだけでも、良く出来たドラマなのが分かる…
そして、本編。仮病で学校を休んで家を抜け出した虹一が、家族以外は入室させない一輝の部屋へ招き入れられる “ある意味で衝撃的なシーン” をきっかけに、まず今回の物語の1つの車輪である “一輝と虹一の絆” が動き出す予感。
因みに、今回のストーリーは「三輪車」だ。3つの車輪が上手く動かないと、とんでもない方向に進んでしまう(残りの2つの車輪については後述する。そして、水本歯科クリニックで居なくなった息子を探しに来た虹一の母・涼子と一輝が出会う。心配する涼子に対して、「会えるなんて すごいです」と奇跡を笑顔で喜ぶ一輝。ここまでがアバンタイトル。
13分間の長尺アバンだが、少なくとも今回が本作初見の視聴者でも、アバンに登場した人物らの特徴や不可思議な関係は見て取れる様に工夫されている。視聴率では苦戦している本作だが、評判を聞いて観に来る視聴者への配慮も忘れずに、常連さんへの期待の高揚感も創出した13分間。ここだけでも、良く出来たドラマであることが分かる…
虹一の心が動くカットは手持ちのカメラで撮影され…
オープニングが終わると、虹一の心が動くカットは手持ちのカメラで撮影され、その他の三脚に固定されて撮影されたカットとは明らかに異なる演出が強調される。
これまでも似たような演出は本作にあったが、今回は特に強調されている。と思ったら、演出家が既出の河野圭太氏、星野和成氏に次いで3人目の坂本栄隆氏が第7話の担当になっていた。恐らくこれも彼の “個性” の表現だろう。
車輪の1つ "一輝と虹一の絆" が前半20分で見事に描かれた
育実に伴われて息子を迎えに来た涼子が虹一を否定する様子を見て、一輝が突然こんなこと↓を言い出す。
一輝「僕 虹一君のすごいところ知ってます。100個知ってます」
涼子「100個って」
一輝「100個あります」
涼子「虹一のことは私が一番よくわかっていますから」
すごいところを伝えるのに、1つ5秒として 500秒。8分20秒間も掛かる。もし、あの場面で涼子が「言ってみなさいよ」と問い詰めたら、きっと一輝はスラスラと涼子の目を見て、8分20秒間喋ったに違いない。
そして、息子のダメな一面ばかりを注視してきた涼子にとって、相当な驚きと同時に自分の息子にすごいところが100個もあることが嬉しかったに違いない。しかし、本作では敢えて涼子がきつい言葉で反論する表情と、それを残念なものを見るような目の一輝の表情だけで、このシーンを終わらせた。
更に攻め込む涼子も反論する一輝も描かずに、一輝の部屋で小さくうずくまって泣いている虹一の背中のカットに直結させ、涼子がお泊まりを了承した映像も入れずに話を進めた。正に、前半の20分間は、今回の物語の1つの車輪である “一輝と虹一の絆” が順調に進んでいることだけに集中して描いた。お見事。
並木道を歩く育実と涼子で三輪車の後輪2つが描かれ始めた
そして、その直後のシーンは紅葉にはまだ早い並木道を歩く育実と涼子。
育実「意外と自分で勝手に思い込んでることってありますよね。
こう思われるんじゃないかとか ああ思われるんじゃないかって」
このシーンから、“一輝の存在のお蔭で、自分自身を変え始めている育実” と “一輝と育実の存在のお蔭で、自分と息子を再認識し始めている涼子” と言う、本作の「三輪車」の残りの2つの車輪が描かれ始める。
既婚者と未婚者、母とそうでない女性と言う立場の涼子と育実を単純に対比させて、どっちだどうだとかステレオタイプに描かずに、「迷う人」と言う括りで優しく描いた、この短いシーンが良かったし重要なシーンだったと思う。
"1人では生きられない" "家族の大切さ" "相手を思う尊さ"
前夜に一輝から「自分のすごいところ100個」を聞いた虹一が自身に満ち溢れた表情で、一輝と一緒にリスの森にやって来る。そして、泥だらけになって一輝の家に虹一も帰って来ると、育実と涼子が迎えに来ていた。涼子は、もう虹一と関係を持たないで欲しいと訴える。
しかし、その内容は表面的には一輝の “やり方” を全否定しているように描かれるが、言葉の1つ1つは涼子自身の母親としての子育ての苦悩であり、虹一の将来を心配しての言葉ばかりだ。そんな涼子に「虹一の100個のすごいところ」を見つけた一輝が、少し悲しそうな表情でこんなことをポツリと喋る。
涼子「やればできるってことを 教えてあげたいんです」
一輝「やれないのかもしれません。
教科書を読んでると 頭が痛くなったり まばたきをしたりします。
絵を描くときはしてません」
涼子「やりたくないからですよ」
涼子の虹一の個性を認めようとしない杓子定規な言葉に一瞬落胆した一輝が、切々と自身の子供の頃の話を語り出す。
一輝「僕の祖父は やりたいならやればいい
やらなきゃって思うなら やめればいいって言いました。
笑って言いました。
理科ができても できなくても 僕は…。
いてもいいんだなあって思いました」
この告白で、“一輝の存在のお蔭で、自分自身を変え始めている育実” と “一輝と育実の存在のお蔭で、自分と息子を再認識し始めている涼子” が、また少し前に動き出した。そんなことを知らない虹一は、一輝に自分の存在を認めて貰ったのが嬉しかったのか、同じ一輝の家族である家政婦の妙子に「自宅へ帰る」と伝える。
僅か4人の登場人物しかいないのに、4人それぞれの人生に関わった多くの人たちの姿がハッキリと見え、人間は1人では生きてはいけないことや、家族の大切さや、相手を真剣に思う気持ちの尊さを、登場人物の体験と経験だけで押し付けずに描いた秀逸なシーンだった。
"すごいところ100個" の持つ凄い力に、ウルっと来てしまった
一輝が虹一を丁寧に優しい眼差しで “観察” したお蔭で気付いた虹一の “まばたき” が、母・涼子の心を入れ替えさせ、また虹一も自分を叱ってばかりの母親を丁寧に優しい眼差しで “信じた” からこそ、母のすごいところを100個言えたに違いない。
そして、今度は一輝が育実のすごいところを100個言えると語り出す。すごいところが、段々育実特有のものでない内容になって行くのに対して、育実がこんなこと↓を言うと…
育実「それって 誰でもできることなんじゃないんですか?」
一輝「誰でもできることは できても すごくないんですか?」
このあとから、育実自身が自分のすごいところを話し出すくだりで、恥ずかしながらちょっとウルっと来てしまった。
あとがき
今回のストーリーは「三輪車」だと冒頭で書きました。前の舵を取り動力源となる前輪が “一輝と虹一の絆” で、“一輝の存在のお蔭で、自分自身を変え始めている育実” と “一輝と育実の存在のお蔭で、自分と息子を再認識し始めている涼子” と言う2つの後輪が一体となって、進んだ距離は短いかも知れませんが、大きな前進をしたのは間違いないと思います。
今回は、本作が描くべき部分を前面に押し出し、更に一輝の存在感も際立って、ドラマとしてまた昇格したように思います。「すごいところ100個」…って、実生活でも使えますね。自分自身にも相手にも。我が人生を変えてくれるようなドラマに出会った気がします。今回の衝撃のラスト! 次回にも大いに期待します。
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【これまでの感想】
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