映画「この世界の片隅に」 [Blu-ray鑑賞] 感想と採点 ※ネタバレなし
なお、原作の こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社)は未読、2018年7~9月に TBS『日曜劇場』で放送の実写ドラマ版は観賞中(投稿時)。
採点は、★★★★☆☆(最高5つ星で、4つ)。100点満点なら80点にします。
【私の評価基準:映画用】
★★★★★ 傑作! これを待っていた。Blu-rayで永久保存確定。
★★★★☆ 秀作! 私が太鼓判を押せる作品。
★★★☆☆ まあまあ。お金を払って映画館で観ても悪くない。
★★☆☆☆ 好き嫌いの分岐点。無理して映画館で観る必要なし。
★☆☆☆☆ 他の時間とお金の有意義な使い方を模索すべし。
ディレクター目線のざっくりストーリー
昭和19年(1944)、18歳のすずは、突然の縁談で、生まれ故郷の広島市から軍港の町・呉市に嫁いできた。すずの新しい家族は、夫・周作、夫の両親、義姉と姪。すずは、一家の主婦として、貧しい配給生活の中で食事に工夫をしたり、服を縫ったり、大好きな絵を描いたりしながら、日々を生きていた。
昭和20年(1845)、乏しい配給の中で工夫を凝らして食事を作り、衣服を繕ったり、時には大好きな絵を描いたりしながら、日々の生活を積み重ねていった。そんな暮らしを送る中で、日本海軍の根拠地である呉は大空襲に遭い、町は破壊され、すずが大切にしているものが次々と奪われて行く…
戦中は特別でない、1つの時間軸上に存在した継続する時間
日本海軍の根拠地である広島・呉を舞台に、絵を描くのが好きな少女・すずが結婚し、大切なものを失いつつも懸命に生き抜く姿を描いた長編アニメーション映画が『この世界の片隅に』だ。
戦争や広島と聞けば、容易に物語に悲劇が襲い掛かり主人公が追い詰められると想像しがちだが、本作は戦争の悲惨さや怖さや暗さを観客に押し付けない。
終始、本作が徹底して描くのは、主人公・すずの視点を通して、戦中と言う時代が特別なものでなく、戦前も戦後も1つの時間軸上に存在する継続した時間に過ぎないと言う、誰もが決して忘れることも逃げ出すことも出来ない明白な真理だ。
硬軟、強弱のさじ加減が絶妙だから飽きさせない
だが、本作は一切小難しい手法は使わない。おっとりとして明るい性格の主人公は、結婚して主婦になっても絵を描くのが好きで夢見る少女のままだ。でも、主婦としては家族や衣食住をこよなく大切にする真面目さも併せ持つ。
が、買い物に行けば迷子になるし、軍事機密である軍港の風家をスケッチして憲兵に叱られもする。空襲の描写も、恐ろしい非日常が次第に日常になってしまうユーモラスな部分もある。硬軟、強弱のさじ加減が絶妙だから飽きさせない。
すずと周作が思いを通わせ合い、本当の夫婦になる愛の物語
さて。物語は、少女時代のすずに偶然出会って心を奪われた少年の周作が、大人になって彼女を探し出し結婚するのだが、それに気付かないすずが、少しずつ周作との距離を縮めて行く過程が描かれる。そう、本作は、すずと周作が互いの思いを通わせ合って、本当の夫婦になって行く「1組の夫婦の愛の物語」だ。
そんな “すず” たちと同じような市中の一般の人たちの細やかな幸せを、容赦なく破壊するのが戦争に於ける圧倒的な暴力だ。本作は、主人公を中心とした登場人物たちの日常を恐怖心だけでなく可笑しさも合わせて丁寧に優しく描くことで、主人公の心身を傷つけ痛めつけた戦争の非があからさまになった。
アニメーションでしか再現できない特異な世界観を創出
映像的には、水彩画のような柔らかなグラデーションを活かし、輪郭を描かぬことで自然界をほんかとした世界に描いた背景画と、人や物は輪郭を描き、色彩数は限りなく少なくして、背景と人物の描き分けがしっかりしており、アニメーションでしか再現できない特異な世界観を創出した。
また、1シーン1シーンが独立しているにも拘らず、まるで 1枚1枚の連続した紙芝居のような一体感もある。更に、水彩画の紙芝居のような語り口と、主人公の絵心が見事に重なって、正にアニメーションの醍醐味が味わえた。
悲しみや辛さが押し寄せて来るが、鑑賞後には希望が残る
本作の主人公・すずの声を演じたのは、能年玲奈から改名したのん。彼女独特な優しくヌケた声と、いつまでも生き生きと瑞々しい演技が無ければ、本作の完成度はここまで高まったかどうかと思ってしまう程だ。
とにかく、観客は “のん” が演じる “すずさん” と一緒に戦争の時代を生きているような感覚に陥ると思う。そして、悲しみや辛さがこちらに押し寄せて来る。しかし、本作の鑑賞後には希望が残る。それは、本作の中に生きることの喜びや素晴らしさが詰め込まれているから。
7/22に Blu-rayが届いて、毎日観ているが、観る度に、まるで層をめくるように、新たな発見と感動があるアニメーション映画。劇場で観るべきだった…
あとがき
主人公・すずの視点を通して、戦中と言う時代が特別なものでなく、戦前も戦後も1つの時間軸上に存在する継続した時間に過ぎないと言う、誰もが決して忘れることも逃げ出すことも出来ない明白な真理を徹底的に描き込んだことで、私たちが生きる今も戦争と地続きであることを実感出来る作品です。
減点理由は、少し登場人物が多過ぎる点と一部の説明不足、そして中盤までの展開が平坦なこと。
とは言え、全体的には、少女のすずにとっての日常が、結婚と戦争によって非日常になり、それがやがて日常になり、その日常が終わって元の日常に戻って行き、それが現代とも繋がっていると言う “地続きの時間の解釈” が見事な作品でした。未見の方は、是非ご覧になるのをお勧めします。
【追記 2018/07/27 10:35】
2018年12月、新たな場面を約30分付け足した別バージョンが劇場公開されることが決定!
劇場用長編アニメ「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」公式サイト
映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』特報(YouTube)
『この世界の片隅に』に新場面を追加した『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の公開が決定 / すずが出会う遊郭の女性リンとの交流を描きます
https://youpouch.com/2018/07/26/521706/
2018年12月、この作品に新たな場面を約30分付け足した別バージョン『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が劇場公開されることが決定! 本日7月26日にサイトがオープンしたほか、YouTubeには特報映像も公開されています。
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劇場アニメ「この世界の片隅に」オリジナルサウンドトラック
★本家の記事のURL → http://director.blog.shinobi.jp/Entry/11646/
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