[演出プチ講座] 映像の掟~画面内の人物の位置や視線(目線)の向きには意味がある~
まえがき
読者の皆さん、いつも当blogをご愛読ありがとうございます。さて、今回は、当blogでよく話題にあがる、“ある演出技法”について書いてみます。
登場人物の顔や歩く向きには意味(意図)がある
当blogでは、以前から映像に於ける演出の中で、カメラワークやカット割り、編集で表現される「登場人物の位置や、視線(目線)や歩く向きには意味(意図)がある」と書いてきたし、数々のテレビドラマで、(あくまでも私の私見ですが)説明してきた。
何か "人体科学的な理由" があるのでは?
●視線(目線)や歩く向きが上手(画面右向き)だと、ポジティブや前向きな気持ち、未来を考えているように見える
●視線(目線)や歩く向きが下手(画面左向き)だど、ネガティブや後ろ向きな気持ち、過去を振り返っているように見える
しかし、登場人物の視線(目線)や歩く向きから上記のように感じる具体的な理由は、書いていなかった。なぜなら、私自身が映像学校の演出の授業でそう教わったし、実際の撮影現場でもそうだったし、事実テレビドラマや映画のシーンでもそうなっていたため、殆どの人が自然身に付いており、書くまでもないと思っていたのだ。
私たちの脳は、"左から右への動きを好む"
しかし、きっと何か“人体科学的な理由”があるのでは?と思っていたら、こんな記事を見つけた。結論から言うと “脳の好み” なんだそうだ。
【参考リンク】Super Mario Runs Left to Right Because Our Brains Say So | GIZMODO
http://gizmodo.com/super-mario-runs-left-to-right-because-our-brains-say-s-1691562331
私たちの脳は "左から右への動きを好む" 傾向にある
そう語るのは、ランカスター大学の物理学者Peter Walker氏。私たちの脳は左から右への動きを好む傾向にあると。
様々な世界で通ずる「左から右バイアス」の原理
更に、そのWalker氏のレボートでは、アートの世界の慣習にも注目している。例えば、(ここでは、映像的な左右の向きは無関係で考えて)普通の人間は前進する時に前屈みと言う姿勢になり、より速いスピードで進もうとすると更に前屈みの体勢になる。
これと同様に、人間の動きを描くとき、左から右に描くことが習慣の1つだというのが最近のリサーチでわかってきたそうなのだ。
例えば、ロールプレイングゲームの主人公は大抵は左から右へ走る。この「左から右バイアス」は、ゲームだけでない。
オリンピックのフィールド競技の中継映像も競馬中継も、ゴールの映像は下手から上手。要は、脳のバイアスに合わせて競技場のメインの観客席すら作られていると言う訳だ。
また、タイポグラフィーの世界では、文字自体に躍動感のあるイタリック体(斜体文字)は、上部が右方向に傾いている。これは、右から左へと読むヘ言語社会でも同じで、斜体は右方向へ傾いているそうだ。
つまりは、視線は左から右へと流れている、と先のWalker氏の記事でも書かれている。従って、私たち人間の脳みそには、“動くもの=左から右へ” と言うバイアスが、初めからかかっていると言うのだ。
上手(画面右側)から登場した方が、強く見えやすい
この「左から右バイアス」に似た感覚で、強いものは上手(画面右側)から登場した方が強く見えやすい、と言うのもある。普通の感覚では、上に見える(存在する)ものは大きいし、“上位”と感じることもできる。だから、上から降りてくる(見えてくる)ものは、“強いもの”とも感じられる。
従って、下からくる(上がってくる)ものは、その逆の“下位”と印象付けが出来る。これも、脳のバイアスの一種。だから、右と左ではどちらが“上位か下位か?”と言う問題も簡単に想像がつくはずだ。そう。右に見えるものが上位で、左に見えるものが下位となる。
強いものは、右から出して左に動いているように描く
ヒーローもの、例えばウルトラマン。ウルトラマンが登場する時は、大体怪獣が下手でウルトラマンが上手から登場する。要は、つくり手の立場で考えれば、強いものは、右から出して、右から左に動いているように描いたほうが強さは伝わりやすいってこと。ゴジラもこの例に漏れない。
【必見!】私が書いた映像の掟を総合的に図に示してみる
因みに、上手から下手に動く方が、下手から上手に動く方が速く感じると言うのもある。このバイアスについては、また今度。では、今回、私が書いた映像の掟を総合的に図にしたのが↓これ。映画やテレビドラマを観る時に、思い出すと演出家の気持ちを察することが出来るかも?
似ている2枚の写真、被写体の気持ちはどう見えるか?
最後に実践的な問題を1つ。↓の2枚の写真は、2人の登場人物が画面の上手にいる。体の向きはどちらも下手(画面左)方向に動こうとしているが、視線(目線)の方向が逆。では問題。被写体の表情は無視すると、あなたはにはどちらの老人と看護師が患者の将来について明るく前向きに見えるだろうか?
上の写真は「今は安心・安定しているが、将来に不安がある」。一方の下の写真は「今は安心・安定しており、将来にも希望がある」と言うように感じないか?これが演出に於ける『映像の掟』と言う訳だ。
あとがき
今回は、ちょっと映像演出について専門的な内容になりました。出来るだけ皆さんにわかって頂けるように租借したつもりですが、いかがでしたか?この他にも、いろんな映像の仕掛けがあります。私はそれらを「掟(おきて)」と呼んで、映像制作に於いて、とても大切にしています。また、機会があれば第2弾を書いてみます。
今回の記事の内容を、2016年に放送された連ドラ『逃げるは恥だが役に立つ』の第8話の映像を使って、具体的に演出法を図解した記事です。『逃げ恥』をご覧になった方なら、より理解が深まると思います。
「逃げ恥」第8話の感想で書いた "秀逸な演出" をわかりやすく図解しました
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