逃げるは恥だが役に立つ (第6話・2016/11/16) 感想

TBS系・火曜ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(公式)
第6話『温泉一泊旅行にまつわるエトセトラ』の感想。
なお、原作:海野つなみ氏の漫画『逃げるは恥だが役に立つ』は未読。
みくり(新垣結衣)と津崎(星野源)は百合(石田ゆり子)の計らいで、新婚旅行として温泉地へ行くことになった。女性と同じ部屋で寝た経験がない津崎は先行きに不安を覚えるが、‘社員旅行’だと自分に言い聞かせる。旅行当日。旅館に到着した2人は、宿泊する部屋を見て驚く。百合が気を回して、ツインからダブルベッドの部屋に予約が変更されていたのだ。そんな中、みくりは旅館のロビーで偶然、高校時代の恋人に会う。
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
最後の1秒まで面白さがぎゅうぎゅうに詰まった1時間
まあ、今回もパロディー、小ネタ、胸キュン、爆笑、サプライズと予告編の最後の1秒まで面白さがぎゅうぎゅうに詰まった1時間。演出が第1,2話担当の金子文紀氏に戻っても、前回以上のパワーを感じる演出で完全に第1,2話を超えた仕上がり。やはり、野木亜紀子氏の脚本が、どっしりとブレないからこその芸当だ。
本作らしさを醸し出す"モノローグ"について考える
さて、前回の感想に「60」以上のWeb拍手を頂き、ホント嬉しい。そこで、今回も長文にはなるが、本作の面白さの秘密や私がグッと来たシーンを思うがままに書いてみる。
前回の感想では、本作の “個性的なカット割り” と “細かいカット割りでも、自然な流れを魅せる俳優の演技力” について書いた。今回は、本作らしさを醸し出すのにとても効果的に利用されている “モノローグ” について書いてみる。
モノローグは諸刃の剣 「動く紙芝居」にする可能性も
ドラマの脚本には、「N」と記される「ナレーション」と、「M」と記される「モノローグ」がある。「N」は「語り」で画面の状態を、「M」はその登場人物の心情を語る台詞だ。簡単に言うと、台詞は「生の声」、モノローグはその人物自身の「心の声」、ナレーションは物語自体を案内する「天の声」だ。
モノローグが全く無い恋愛ドラマはあまり見かけないが、ヒロインだけモノローグがあって、男性には台詞だけと言う作品は多い。この方が、女性視聴者はヒロインと自分の気持ちを比べたり、自分もヒロインと一緒に相手の気持ちを想像する楽しみが得やすいから。
本作は、みくり(新垣結衣)も平匡(星野源)も、モノローグがあるタイプ。本作では、2人ともモノローグで、自分の甲斐性のなさを責める情けなさや、それで良いと割り切ることが出来ないやりきれない気持ちを、次々と視聴者だけに伝えてくる。だから、私たちは2人に共感し応援したくなる。
しかし、モノローグは、長ければ長いほど視聴者は、ドラマの世界から後退していく。理由は、その間、映像でのその人物は黙っているだけになるため、興味自体が薄れていくから。だから、使用頻度が多ければ多い程、視聴者は映像的な面白みを感じにくくなる。まるで「動く紙芝居」を見ているのと同じだから。
要は、モノローグは諸刃の剣だ。視聴者に心情を伝える簡単な手法だが、映像的な面白さを感じづらい。例えば、主人公が海辺で遠くを見て立っている映像があるとして、「私は悲しい」と言えば悲しいシーンだし、「私には未来がある」と言えば前向きなシーンにって、俳優が小さな存在になってしまうから。
冒頭2分間のみくりの"モノローグ"が秀逸過ぎる
なぜ、冒頭からこんなことを長々と書いたのかと言うと、今回の冒頭の火曜の朝のシーンでのみくりのモノローグがとても秀逸だったから。最初は、ナレーション風にみくり自身が火曜日や日常の仕事の説明をする。しかし、「おはようございます」の台詞の直後から、いつもの妄想モノローグに切り替わる。
そして、平匡がごみ収集箱を見るカットの後は、またナレーション風に戻り、今回初めて観る視聴者向けにさらりと説明。平匡がテレビを見ているカットまでちょうど2分。2人がどう言う関係でそれぞれがどんな人間なのかを、みくりのモノローグだけですべて表現してしまっている。
それだけでも秀逸なのに、中盤に、本当は相手に言いたいけれど言えないことを言う “妄想モノローグ” が入れることで、登場人物と “秘密” を共有したような気分にさせつつ、俳優の存在感まで失わせず魅せた。こう言う脚本はなかなか見たことがない。本当に良く出来てる。
「ハグの前借り」と「何と言う平和」
話を進めよう。紅茶を飲んでるくだりで、「ハグの前借り」の話が登場する。2人が真面目で頭が良くて融通が利くタイプと言うのを、初めて観る視聴者には丁寧に、お馴染の人には微笑ましく描いた。労働時間外のシーンでこれを入れるから、みくりの「何と言う平和」の台詞が効いてくる。そう、徐々に2人の距離は縮まっているってことだ。
百合の会社を織り込んだのは、秀逸な仕掛け
そして、今回で何気なく脚本のスゴさを魅せたのが、百合(石田ゆり子)の会社のくだりを織り込んだこと。ここで重要なのはセクハラ問題で無く、上司と部下の関係。今回で言えば、沼田(古田新太)と平匡、平匡とみくりの関係との対比になってる。
以前も書いたが、兎角この物語は “2人だけの小さな世界のお話” になりやすさがある。それを百合の会社のことを混ぜることで、世界が広がって更なる面白みが出る。沼田や日野(藤井隆)の存在も世界観を広げる係。そんな重要な役柄の百合に、林先生からの金八先生をやらせちゃうんだから、面白いったらありゃしない。
ワクワクさせるエンターテインメント性が実に素晴らしい
メインタイトルまで約8分の長さだが、ちっとも長くは感じない。だって、タイトル映像の中に「新婚旅行???社員旅行」なんて抜群のセンスの良い文字を見つけたし、予告編でも見せたみくりのセーラー服を見るまでは、って気分だから。こう言うワクワクさせる表現(エンターテインメント性)が実に素晴らしい。
"器の小さい男"を"デミタスカップ"で描く抜群のセンス
そして、ダブルベッドとツインルームの話に「こう言うのあるある」とホテルマンの対応の正しさと平匡の対応の良さをのんびり見ていたら、突然にみくりのセーラー服が登場。前置き無しでのサプライズ。こう言う演出が実に楽しい。
それも “器の小さい男” である元カレ・カヲル(小柳友)をデミタスカップで描くと言う抜群のセンスの良さに感激&爆笑してしまった。更に絶妙なタイミングでの「妄想ですら平和…」のモノローグ。
ある意味衝撃的な映像の中に、脚本と演出と俳優のセンスの良さが詰め込まれれていた。過去に残る名シーンになるに違いない。
「とぐろターボ3本セット」だけで、こんなに楽しくなる
また、『痛快TV スカッとジャパン』の『ケチケチ母ちゃんシリーズ』に出演中の宍戸美和公さんが演じる仲居さんが登場したのも意外。こちらはケチケチ母ちゃんのイメージがあるから、きっと何か仕出かすに違いないと思いきや、「とぐろターボ3本セット」を風呂敷で包んで平匡に直接手渡すナイスプレー。
「仕事プラスアルファの気遣いが出来る素晴らしい仲居さんです」の台詞も、いつも平匡がみくりを褒めるようなテンションよりも高めに言うから、みくりもちょっと怪訝な顔。実に細かい芝居を仲居さん役含めてやっている。「全くもう、みくりさんもすぐに突拍子もないことを言い出す」も面白すぎる。
「プロの独身」と自信満々のモノローグのあとに、みくりが「とぐろターボ3本セット」を見つけてしまい、今度は「プロの家政婦」が “備え” をするが、平匡が湯当たりしておじゃんなのも面白いが、みくりの「平匡さんの心のテリトリーに入らせてもらえるんだろうか」にじーんと来てしまった良いシーンだった。
もう完璧と言うしかない ラストのラストのタイミング
これ以上、細かい部分を拾っていったらキリがないから、ちょっと端折るが。とにかくバーのマスターもいいこと言うし、「プロの独身、やり切りました」も楽しいし、みくりの「いつもいつも私から。疲れた」「変わったんじゃないよ。気付いただけだよ」もよーくわかる。平匡のホテルの廊下を歩く後姿もいい感じ。
とにかく、妄想ネタを効果的に使いつつ、毎回右上がりにみくりと平匡の個性を際立たせてる。そして、微妙な内面の変化をモノローグを巧みに使って丁寧に描写している。これ、脚本、演出、俳優の三位一体の完成度が高すぎる。
そして、今回のエンディングのつくりこみの見事。帰路の電車中で電車の音もせず、ピアノ曲に「あと一駅」のモノローグが感涙モノ。そして、ラストのラストでのタイミングで…。もう完璧と言うしかない。
あとがき
これでも書きたいことを全部書いてません。読むのも大変でしょうし。とにかく面白かった。笑えて泣けて感動して。そして、またもや意味深な予告編でしたね。ハグ、キスと徐々に関係を深めていく「契約結婚」の夫婦がどうなるのか?当然、目が離せません。次回にも大いに期待します。
下記の記事を新規に投稿しました。(2016/11/16 16:20)
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