とと姉ちゃん (第81回・7/6) 感想

NHK総合・連続テレビ小説『とと姉ちゃん』(公式)
第14週『常子、出版社を起こす』『第81回』の感想。
なお、本作のモチーフで、大橋鎭子著『「暮しの手帖」とわたし』は既読。
綾(阿部純子)の元を訪ねる常子(高畑充希)。惨めな暮らしを目の当たりにする。日々のつらい気持ちを支えてるのは大切にしまわれた「青鞜(せいとう)」だった。いつの日か私も太陽となって明るさを取り戻したいという綾の言葉に常子は一つの決意を固める。それは「女の人の役に立つ雑誌」を作ること。戦争が終わっても毎日の生活に困窮する女性たちのため手助けとなる雑誌を作りたいと常子は谷(山口智充)に辞職を願い出るが…
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
主人公に「差分比較で有意差を描く手法」は止めよう
今回は、言いたいことが山ほどあるからサクサクと書いていく。さて、冒頭の綾(阿部純子)の元を訪ねる常子(高畑充希)のくだり。もう、当blogでは散々言っている、主人公の周囲を不幸に描くことで、主人公を幸せに見せる「差分比較で有意差を描く手法」は何とかならないものか。
脚本と演出がこれをやる度に、私の中の主人公の好感度が急落していく。特にアバンタイトルの最初の、綾が一番バツの悪い場面を常子が覗き見してるってシーン、どうしてあんなのを書くんだろう?せめて、玄関が開けっ放しで見えちゃったで良かったのに。
僅か4分強で、こんなに主人公への好感度を下げるか
綾の母・登志子(中村久美)が常子の顔を見ずに「お変わり無さそうで何よりです」と近づいてくるのに対して、常子は「ありがとうございます」と答える。また、母が白湯を差し出すのに対して「すみません。頂きます」と返答する。これ、普通は「お構いなく」で良いのでは?何気ない台詞のやり取りだが、常子が傲慢に見えてしまうではないか。
また、綾が登志子を人払いをした時の常子の反応は軽く会釈するだけ。ここは普通に「いえ、私たちが出ます。良いわよね、綾さん」でしょ。僅か5分に満たないシーンで、どれだけ主人公を “他人の気持ちを察しない鈍感オンナ” に描くか、不思議でならない。
だって、この主人公は、のちに日本中の主婦たちの心を掴み、日本中の家庭を楽しく幸せにしていく雑誌の創刊をする出版社の創立メンバーの重要な1人のはず。そんな人を、ここまで普通と違うニブくて不作法な女性に仕上げていけば、更に物語の現実味が失われることなど容易に判断できると思うのだが…
正直、脇役の身の上話などどうでも良いの
さて、上では綾のシーンに触れたが、本音を言えば脇役の身の上話などどうでも良いのだ。もちろん、綾が今後の常子に重要な人物であることは前回の感想で書いた通りで、それでも敢えて「どうでも良い」と言いたい。なぜなら、私が観たいのは、今がどんなに感じが悪く感情移入できなくても “主人公でありその家族” なのだ。
とにかくもっと “主人公とその家族” を描くべき。それもちゃんと感情移入ができ、共感できる程度にしっかりと描く。主人公の周囲をどれだけ描いても主人公を描いたことになるはずがない。こうなれば、主人公が裕福だとかもどうでもいい。とにかく、主人公の内面、心を変化を描ないと話が進まないはずなのだ。
ついに、主人公が拝金主義者に映っちゃったぞ
それをしないで、今回の終盤のような今後の物語を左右する「重要発言」を主人公にさせるから、またまた主人公への不信感が倍増する。唐突なあの物言いでは、主人公が拝金主義(金銭を無上のものとして崇拝する)者に映ってしまったではないか。
起業のために貯蓄をしていた素振りもなく、編集や出版取次のことも教わった風もなく、「人々を笑顔にする雑誌は金になる」と言うことを確信にしてもらった甲東出版の人たちを捨てて、「儲かるネタはあるから、利益は独占させてもらいます」と言ったようなもの。これ、ダメでしょ?
どうせフィクションなんだら、この位はやろうよ
どうせモチーフの大橋鎭子さんとはどんどんかけ離れて行くのだから、ここはフィクションらしく一旦は「皆さんと一緒に売れる雑誌を作って会社を大きくしませんか」としておいて、脚本家お得意の時間経過と語りで、「あらから5年、常子の企画した雑誌が大人気になり、起業資金も貯まったようです」くらいは入れてフォローしないと。
その間にいろんな努力と勉強をしたと、これまたチラリとで良いからインサートカットと語りで補完すれば、今回の「退職届」のシーンに至っても違和感も不思議もだいぶ緩和されるはず。本当は、このくだりを常子と綾のシーンを丸ごと差し替えるべきだったと思う。そうすれば、どれだけ『常子、出版社を起こす』が意味を持っただろうか。
あとがき
常子がつくりたいのが「人々を笑顔にする雑誌」から「女の人の役に立つ雑誌」に変化したのも、ただ戦後の苦しい女性たちのインサートカットを入れただけで、常子の心の変化は一切描写されていません。字が読めない竜子(志田未来)の存在も無視。
常子や高畑充希の好感度が下がるのは自業自得として、モデルになっている大橋鎭子さんとモチーフになっている自伝に失礼じゃないですかね。かなり好意的に脳内補完しなければ、運の良さだけが頼りの努力知らずの銭ゲバな女性に映ってしまっています。ラストの「皆さんに教わったことを糧にして」にも、「何を教わったの?」と突っ込むしかありませんでしたね。
さて最後に今さらですが、史実は終戦の翌年 昭和 1946年に大橋さんは『衣装研究所』を設立しますが、『暮しの手帖社』への社名変更は 昭和 1951年。本作も戦後5~6年後のドサクサが落ち着いた時代設定の方が良かったかもしれません。
【修正 2016/7/6 12:56】
Auさんらのご指摘で、文中の「昭和」を「19」に修正致しました。
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【これまでの感想】
[読書] 「暮しの手帖」とわたし (大橋 鎭子/著・花森 安治/イラスト・暮しの手帖社) 感想 ※平成28年度前期 NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』モチーフ,大橋鎭子の自伝
第1週『常子、父と約束する』
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第2週『常子、妹のために走る』
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第3週『常子、はじめて祖母と対面す』
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第4週『常子、編入試験に挑む』
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第5週『常子、新種を発見する』
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第6週『常子、竹蔵の思いを知る』
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第7週『常子、ビジネスに挑戦する』
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第8週『常子、職業婦人になる』
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第9週『常子、初任給をもらう』
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第10週『常子、プロポーズされる』
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第11週『常子、失業する』
61 62 63 64 65 66
第12週『常子、花山伊佐次と出会う』
67 68 69 70 71 72
第13週『常子、防空演習にいそしむ』
73 74 75 76 77 78
第14週『常子、出版社を起こす』
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