とと姉ちゃん (第80回・7/5) 感想

NHK総合・連続テレビ小説『とと姉ちゃん』(公式)
第14週『常子、出版社を起こす』『第80回』の感想。
なお、本作のモチーフで、大橋鎭子著『「暮しの手帖」とわたし』は既読。
甲東出版に谷(山口智充)や五反田(及川光博)が戻ってきた。雑誌作りを再開する常子(高畑充希)たちだが、鉄郎(向井理)に自分で雑誌を作ればもっともうかると言われてしまう。そんな折、綾(阿部純子)が常子を訪ねてくる。聞けば戦争中に夫を亡くし、実母と息子と3人で何とか暮らしているという。何もしてやれず、常子は落ち込む。そんな常子を鉄郎は闇市に連れだし、女性でもやりたいことができる時代が来たとはげます。
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
綾は “通りすがりキャラ” で無いはずなのに…
先週のお竜(志田未来)に続いて、今週は綾(阿部純子)が常子(高畑充希)を訪ねてきた。お竜の時は川崎に行くと言うのに不自然に路地に入ってきて偶然常子に出会った。今度の綾は自ら訪ねてきた。出会う方法は違うが、いずれも本作の上では “通りすがりキャラ” の一員だ。
ただ、お竜と綾には脚本上の決定的な違いがある。それは、綾には実在したモデルがいること。「中野家子」と言う大橋鎭子さんが創刊したファッション雑誌の初期メンバーで、裁縫の腕を買われて鎭子さんの会社に誘われた人。80歳過ぎまで鎭子さんと「暮しの手帖」を支えた人物である。
女学校時代の「親友」エピを埋没させた罪は重い
多分、この先の物語にも登場してくる常子の雑誌づくりの上でも人生の「親友」と言う意味でも重要な人物なのだ。しかし、実際の本作での “扱い” はどうだろうか?9年ほど前に女学校で一緒になり、再試験の勉強を教えてもらったことを機に友情が芽生えると言う1エピソードだけと言う印象しかない。
いや、本当は常子の担任で国語教師の東堂チヨ(片桐はいり)から、常子と一緒に女性の自由と平等や雑誌「青鞜」を教わり、共に将来を感じ合った「親友」の設定なのだ。しかし、「騒動至上主義」の脚本によって、次々と意味不明でヒロイン無関係の “騒動” の連発のによって、この「親友」のエピソードが埋没してしまったのだ。
これが、プロの脚本家の仕事と言えるのか。全156話のすべてを想定して書き始めろとは言わないが、せめてヒロインの人生に大きく関わる主要な登場人物の数名くらいは、出会いと最初の関係性をきっちり描いて視聴者に植え付けるべき。正直、既に且つまたもや花山(唐沢寿明)と五反田(及川光博)が失敗している。
周囲を “不幸” に描いちゃダメなのに…
それにしても、今回の描写でも解せないのは、鉄郎(向井理)が登場しただけで、戦後の小橋家の生活水準が想像以上に良くなってること。彼女らの態度を見ても明らかに余裕を感じる上から目線。特に、君子(木村多江)の大きな態度と鞠子(相楽樹)の変貌ぶりが半端無い。
実はこれ、ヒロインら小橋家を “善” に見せるために、周囲を “悪” に描くと言う本作がずっとやってきたことの「変形」による弊害、失敗なのだ。周囲を “不幸” にばかり描くから、どうしても小橋家が “幸せ” で “裕福” に見えてしまっているのだ。
常子を描かないツケを鉄郎で補完するのは止めて欲しい
そして、究極の “通りすがりキャラ” である鉄郎に触れておく。鉄郎の脚本上の役目は「強引な水先案内人」だ。
ある日突然やってきては、小橋家の米を全部食べてしまい、常子たちに運動会で米一俵を勝ち取ることを命じ、食べていくことの厳しさを教えて去って行った。またある時は常子に事業家に興味を持たせ、「練り歯磨き」の製造販売をやらせて売り上げを盗んで逃げて言った。
そして、今回の終盤では明確に常子に次にやるべきことを提案した。鉄郎が何かのカリスマなのか知らないが、こう何度も都合良く登場してはヒロインの心を強引に動かして物語を方向を決めていくやり方に疑問を持つ。それを隠すかのように大量の語りで物語の進路を暗示させる作戦も同じ。
全く常子の内面、心の変化が描かれていないから、鉄郎と語りで一気にまとめて表現しなければいけない状態になっている本作。もう、連続ドラマとしてほぼ破綻しているようなもの。それにアップの過剰な多用で映像的にも面白味が無くなってきている。もっと映像的に主人公たちを描いて欲しいのだが、もう無理か…
あとがき
突然ですが、今日は本作を初めて見た視聴者の気分になってみようと思います。するとどうですか。
ヒロインの常子は出版社で働いていて収入があるように見えますが、仕事には何やら欲求不満でやる気が無さそう。また、常子と常子以外の服装を見ると、どうやら、お金は君子と鞠子の内職で、物資は鉄郎が闇市で調達。常子は以前と同様に自分の稼いだお金は自分が…みたいに見えました。
その結果、本作は苦労は家族に押し付けて、周囲は不幸ばかりだけど自分だけは強運で人生の覇者になる道をまっしぐらなお話に見えます。脚本の西田征史さん、こんなんでいいの?
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【これまでの感想】
[読書] 「暮しの手帖」とわたし (大橋 鎭子/著・花森 安治/イラスト・暮しの手帖社) 感想 ※平成28年度前期 NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』モチーフ,大橋鎭子の自伝
第1週『常子、父と約束する』
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第2週『常子、妹のために走る』
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第3週『常子、はじめて祖母と対面す』
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第4週『常子、編入試験に挑む』
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第5週『常子、新種を発見する』
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第6週『常子、竹蔵の思いを知る』
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第7週『常子、ビジネスに挑戦する』
37 38 39 40 41 42
第8週『常子、職業婦人になる』
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第9週『常子、初任給をもらう』
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第10週『常子、プロポーズされる』
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第11週『常子、失業する』
61 62 63 64 65 66
第12週『常子、花山伊佐次と出会う』
67 68 69 70 71 72
第13週『常子、防空演習にいそしむ』
73 74 75 76 77 78
第14週『常子、出版社を起こす』
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