[読書] 母乳がいいって絶対ですか? (田房 永子/著・朝日新聞出版) 感想

著者が体現した「子育て」の窮屈さをぶちまけた本
まず書いておきたいのは、全5章のうち、
・第1~3章は星★4つ
・第4章と第5章の中盤までが星★2つ
・第5章の最後の部分は星★5つ
で、平均して星★3つの評価。従って、「漫画家である著者の妊娠・出産・育児を通して体現した「子育て」の窮屈さをここぞとばかりにぶちまけた本」と言うのは第1~3章まで。
第4章以降は、幼き頃からの著者と実母との確執の違いによる戦いが綴られている。また、読んでから知ったのだが、この実母との戦いは『母がしんどい』に書かれているようで、そちらは未読。
従って、タイトルの『母乳がいいって絶対ですか?』に該当するのは、全体の3/4。但し、第5章の最後の『火野正平と聖人』で全体を何となく締め括ってはいると思う。
子育て中のいろいろな問題を鋭く世間に問う
とにかく、著者の鋭い洞察力とパワフルな妄想力には脱帽だ。それが著者の女性や母親同士でも言えないような恥ずかし過ぎる葛藤をユーモアたっぷりに表現出来るのだと思う。
特に、「母乳じゃなきゃダメ」等の育児の常識や、電車やレストランでの子どもへの冷たい視線、「母親なんだから」と言う世間の決め付けなど、子育てをしていく上でのいろいろな問題を鋭く世間に問うてるのには好感が持てる。例えば、こんな “いいこと” が書いてある。
●世の中はもっと、母親が子供を殺す可能性に目を向けるべきだと思う。(P.41)
●育児と言うのはいつも「ギリギリ」だと言う認識(P.48)
●母乳やミルクの話をする前に、「母乳をあげ続けると胸が垂れたり、形の変化があったりします。それを踏まえて、完全母乳にするか、ミルクと混合で育てるのか、ミルクだけで育てるのか、を選択しましょう」と行政や病院が言ってもいいと思う。(P.54)
●助産師さんや保健婦さんなど「初めてのアソコ(=女の子の性器)」を扱う場面にいる人たちがタブー感を漂わせずに「おまんまんちゃんをちゃんと洗いましょう。お母さん、ホラ恥ずかしがらないで!」と先陣切って欲しい。(P.73)
「勿体ないから見ておく」と「受け入れられる幸せ」
第5章の『神輿男のケツ』も面白い。偶然目の当たりにした神輿を担ぐ若い男性に釘付けになり、お尻を発見して興奮したが、フンドシでないから生尻が見られなくてガッカリしたと言う自信の行動を、中年細胞が誕生した事実を表現。オッサンが女子高生の生足やOLの胸元を見てしまう心理と同じで、「もったいないから見ておく」と悟りの境地のような言い回しも実に楽しい。
楽しいと言えば、同じく第5章の『火野正平と聖人』では、女性に対して偏見や先入観のない火野正平さんの個性的な女性観に感動した著者が、訪れる人、一人ひとりを抱きしめるという行為で、世界中の人から「アンマ(お母さん)」と慕われる慈善活動家を例に挙げ、受け入れられることの幸せに繋がっていくのも良かった。
あとがき
『火野正平と聖人』の終盤にこんな一文があります。
『私は、育児の中で親としての一番の仕事は、子供に「生きていていいんだよ」という念を送り続けることだけだと日々思っている』(P.252)
この「生きていていいんだよ」は育児だけでなく、どんな仕事でも人間関係でも、相手に対して思うべきことだと思います。「念を送り続ける」と言うのも実にいろんなことを根に持つ?著者らしい愛情表現で良かったです。
妊娠前の人でも、男性でも、もちろん子育て中の人も、今の育児事情を知るのに読み易くて楽しくて最適な1冊だと思います。
【追伸】
我が家の周産期の現場で働くベテラン医療従事者によりますと、上で書いた “いいこと” は殆どの現在の病院で実施されているとのこと。
また、少なくとも大学病院や救命救急、大きな総合病院では、母乳をあげると胸のカタチが変わると言うことだけでなく、事前事後のケア方法まで教えたり、子どもの性器の扱いについても新生児科や小児科で説明しているとのことです。
各病院や保健所単位で、現状はだいぶ違うかもしれません。
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