[読書] 物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術 (クリストファー・ボグラー/著, デイビッド・マッケナ/著, 府川由美恵/翻訳・アスキー・メディアワークス) 感想

「強い物語」と「魅力的なキャラクター」の創り方
本書は、ディズニーやピクサー映画のような冒険活劇の物語の描き方を通して、「解かり易くて強い物語」と「魅力的なキャラクター」の創り方を、ハリウッド式脚本術によく見られる “リスト” や “類型”や “方程式”を用いて、講義スタイルの文体で丁寧にプロ意識を植え付けるように指導してくれる本だ。
シーンはキャラクター同士、物語は作者と観客の契約
まず、『第4章 観客との契約』が面白い。前章で、「シーンの内容とは、新たなビジネスの取引に到達するための交渉であり、取引が成立すればシーンもそこで終わりだ」とある。要は、シーンとは物語上無くてはならない重要な力の交換であり、シーンはキャラクター同士の契約行為だと。だから、話の説明のためだけに新たなシーンを創ってはならないのだ。
さて、シーンによってキャラクター同士が契約(取引)をし、相手を利用したり自信が罠に嵌ったりして心理的・身体的に戦いながら、ストトーリーが構成されていくだが、では、そのストーリーは何なのか。著者は、物語の作者と観客との契約だと言う。観客をエンディングまで飽きさせないと言う契約と言えるかもしれない。
契約条件はこうだ――観客は物語の作者に対し、価値あるものを与えることに同意する。つまり、金銭、そしてそれ以上に価値のあるもの、時間を与えるということだ。(中略)
ひとつのことに注意を払うことは、この世におけるもっとも貴重で価値ある商品のひとつであり、とりわけ人の注意を惹くものがたくさんある現代では、そrはなおさらのことだ。(中略)
だからこそ、こちら(作者)から本当に良質なものを提供し、契約をまっとうする必要がある。
※P.51より引用
これを忘れている脚本家が実に多い。とくに映画のチケット台のように金銭的価値が見え難い民放のテレビドラマや、中でもたちが悪いのが受信料の上に成り立っているのを忘れているNHKのドラマの一部の脚本家だ。今一度、この原点に立ち返って欲しい。
観客を楽しませビジネスを成功させる “方程式”
『第24章 ショーマンシップ』もプロの脚本家として、ボードビル(米国においては舞台での踊り、歌、手品、漫才などのショー・ビジネス)での観客を楽しませビジネスを成功させる “アーコフの方程式”を挙げている。
A・R・K・O・F・Fの方程式
A アクション(動き)スリリングで目を奪うドラマ
R レボリューション(革命)新しい大胆なテーマや題材
K キリング(殺し)悪趣味にならない程度の暴力
O オラトリー(弁舌)良質の会話、耳に残る台詞
F ファンタジー(夢想)観客の願いや夢想の実現
F フォーニケイション(密通)セクシーさ、特にヤングアダルトに訴えるもの
※P.350より引用
誰もが何かを楽しめるプログラムづくりがショーマンシップの原点。こうして改めて列記してみると、面白いプログラム(映画やショーやテレビドラマなど)にはすべての要素が含まれている。このA・R・K・O・F・Fの方程式を覚えておくと、連ドラの第1話を観ただけで、アタリハズレが見分けられるようになるかもしれない。
例えば、『日テレの小杉専務に伝えたい。私の独断と偏見の “2015年夏期の連続ドラマ全局低調” のワケ』でも触れたが、面白くない連ドラの多くは、このA・R・K・O・F・Fの方程式の幾つかの項目だけを “力づく” で強調したり押し付けてきてやしないだろうか。連ドラ好きな方なら、すぐにドラマ名が浮かんでくると思う。
あとがき
今回はつくり手側の意識に焦点を当てて感想を書きましたが、本書の大部分は脚本術に於ける「解かり易くて強い物語」と「魅力的なキャラクター」の創り方です。この部分はとても細かく体系化されて述べられているので、是非実際に読んだ方が解かり易いです。ただ、物語が浮かばないとか、上手く結末まで書けない人は、もう少し入門書を読んだ方が良いと思います。
また、本書は、脚本術からマーケティングまで、如何に観客を自然に楽しませるかが解かり易く書かれた中級以上向けの解説書です。映像作品の脚本に限らず、小説や漫画を書いている人、評論をしている人にもお薦めです。
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