[読書] “町内会”は義務ですか? ~コミュニティーと自由の実践~ (紙屋 高雪/著・小学館) 感想

最小限の機能しか持たない「ミニマム町内会」を目指す
冒頭の長くてくどい「はじめに」と「序章」を読めば、著者が本気で真摯に町内会長を務めたのは一目瞭然だ。実にロジカルに丁寧に自分の意見の骨子を読者に伝えようとする姿勢は、様々な価値観の住民が集う町会会員への説明と似ているからだ。
そんな真面目な著者が辿り着いた、最小限の機能しか持たない「ミニマム町内会」と言う組織の在り方は、実に現代的で無駄が無く理に適っている。今、運営に悩むすべての自治会や町内会の解決策とは言えないが、「町内会」とは何か?改めてその存在意義を考えるには、ちょうど良い読み物になっている。
自己責任と行政サービス以外は、ボランティアで
私は、「私的なことは所有者が管理。公のことは税金で。それ以外のことはボランティアで」という原則が大事だと思います。
※第4章 町内会は今後どうしたらいい?(P.191より引用)
私は、この意見に大賛成だ。確かに自治会は行政から補助金が出ており、本来行政が税金で行うべきこと(例えば街路灯の保守管理など)を自治会にやらせている。しかし、本来は自分の家の周りのことは所有者が管理し、道路、公園、河原などの公の場所は行政が税金で行うべき。
そして、祭りや親睦を兼ねた地域清掃などはボランティアがやれば良い。ここに、全員加入(の建前)と任意加入(という本音)との矛盾を抱えた町内会や自治会が登場するから、話が複雑になる。だから役員を引き受ける人もいないし、加入者もいなくなる。至極当然なことだと思う。
「あった方が良いが、無くても仕方がない」組織でOK
任意加入組織である町内会は、所詮ボランティアの範囲を出ず、やれることは「あった方がいいけど、なくても仕方がない領域」と言う考えを集約したのが、著者が訴える「ミニマム町内会」と言う組織。要は、必要だと思った人がやり、不要だと思う人を巻き込まない、自由参加型の組織形態。これはいい。
「自分はこのまちの一員だ」という気持ちをつくる
自由参加型だとフリーライダーが増えて町内会が成立しないのではと考えたくなる。しかし、毎日のゴミ出しや回覧板で隣近所とは嫌でも付き合いは出てくる。結局、まちに住んでいる限り天涯孤独ではいられない。ゴミ置き場の輪番制の清掃や回覧板回しだって、ボランティア、自由参加しているのだ。
そう言う日常的な近所付き合いを、無理なく増やしていければ、「自分はこのまちの一員だ」という気持ちをつくることは可能だと思う。例えそのまちに骨を埋める覚悟は無くても、日常生活の中で「今住んでいるまちの一員」と言う意識を持たせること、それがこれからの町内会の在り方かもしれないと思った。
あとがき
私は2000年頃、分譲マンションの管理組合で数回に亘り副理事長を務めました。建築施工の瑕疵問題や管理会社の契約違反など数々の問題を、約5年を費やしてすべて解決しました。当時は、毎週「理事会通信」を発行し、住民たちの意思統一と一致団結に日夜奔走したのを今でも思い出します。
そして、妻の仕事の都合で8年ほど前に今のこの地に引っ越してきました。築30年以上の戸建が約300戸集まる、いわゆる千葉都民が住む古い住宅街です。そんな一見のどかな自治会で今大事件が起きています。長年会計担当していた人が自治会費一千万円を着服していたのです。横領事件として立件化を目指していますが多分無理でしょう。たぶんお金も戻ってきません。
30年以上も近所に住んでいた人が、みんなの積立金一千万円を横領する、そんな殺伐とした時代なんです。だからこそ、本書にある最小限の機能しか持たない「ミニマム町内会」が良いのです。そして、一から「自分はこのまちの一員だ」という気持ちをつくる、それが大事だと思います。
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