[読書]竹鶴とリタの夢 余市とニッカウヰスキー創業物語 (千石涼太郎/著・双葉社) 感想

これは、竹鶴夫妻を愛する作家による「現地報告書」
朝ドラ『マッサン』人気の便乗本が多い中、本書がそれらと一線を画しているのはノンフィクション作家のルポルタージュ的なスタンスで、史実が客観的に調査され書かれている点と、小樽生まれ札幌在住で北海道に造詣が深い著者の「北海道愛」「ニッカ愛」に溢れている点の、2つが見事に読み物として調和し完成されていることだ。
史実をドラマチックに読みたい人には他がある
ただ、ルポルタージュだから、創作物的なドラマチックな表現やくだりは少ない。物語的な面白さを求めるなら、他の本を探した方が良い。ただ、私が読んだ類似本の内の2冊は、取材者が見てきたようにモノを書き的なものが多かったから、私は本書で満足だが…
朝ドラ「マッサン」と、史実からの “印象” の違い
当blogの読者さまは朝ドラ『マッサン』の視聴者が多いと思われるため、少し『マッサン』との違いなどにも触れてみる。まず、本書は「竹鶴政孝とリタ夫婦の生涯」について書かれている。
従って、ドラマではバッサリカットされてスタートした、政孝とリタの生まれから紐解き、2人がどのような交際を経て国際結婚に至り、どんな思いで日本に帰国したのかが詳細に書かれている。
中でも、数年の間政孝は自らの手でヨーロッパ中の大学入学やウイスキー工場での実習を探し遂行し、決して会社のお金で順風満帆な優雅な留学生活を過ごしていた訳でないこと。また、リタは母国や家族との関係と政孝への思い、そして病弱な自分に悩んだ末の日本行きだったことは、ドラマではほぼ描かれない。
「マッサン全150話」の構成の破たんの予感…
また、本書の構成は以下の配分となる。
1.政孝とリタの生い立ちから、留学、結婚して帰国まで(約45%)
2.鳥井信治郎との出会いから、壽屋退社まで(約15%)
3.ニッカ創業からリタと政孝の死まで(約30%)
これからも解るように、「竹鶴政孝とリタ夫婦の生涯」を語るには帰国までの要素が半分近くを占める。私も本書を読んでやっと、どう言う経緯で夫婦が夢を共有し、リタが政孝を支えたのか理解できた。やはり、帰国後にチラチラと留学以前のエピソードを語る今の『マッサン』の構成は大きな無理があることは間違いなさそうだ。
ついでに書くと、第77話(12/25放送)では壽屋退社にも至っておらず、全体の10%ほどを3か月かけてドラマで描いていたになる。
今のまま肝心の45%を小出しにしながら、残り3か月間で最後の30%を描くなら、かなりの台詞や語りでの補足と、視聴者の脳内補完に頼らなければ、私が本書で知った「夫婦の物語」は見えず仕舞いになる可能性が多いような気がしてならない。
あとがき
本書を読んで最も強く感じたのは、竹鶴政孝氏は信念が強く行動力があって何よりブレイクスルー(問題解決)能力にたけた人であったこと。
リタさんは病弱ながら必死に「日本人の女房」になろうと努力し、夢に向かって突き進む夫を最後まで励まし応援し続けて、愛する地・余市で大阪のおばちゃんとして生涯を閉じたこと…です。
この記事は、朝ドラ『マッサン』との比較が大半を占めてしまいました。ドラマはフィクションですから史実を完全コピーする必要なんてありません。作者の創作で面白いドラマを創り上げてくれれば良いと思います。
ただ、朝ドラ『マッサン』が、「日本初の国産ウイスキーを誕生させた夫婦の物語」を描くなら、もっとマッサンを描き、その上でエリーを描かなければ、決して「夫婦の夢」は描けないと思いました。
下記では、本書内で引用されていたり、私が読んで面白かった作品です。
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ウイスキーと私 竹鶴 政孝 (著)
ヒゲのウヰスキー誕生す 川又 一英 (著)
「マッサン」と呼ばれた男 竹鶴政孝物語 (NIKKO MOOK)
ウイスキーとダンディズム 祖父・竹鶴政孝の美意識と暮らし方 竹鶴 孝太郎 (著)
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