[読書]あの歌詞は、なぜ心に残るのか─Jポップの日本語力 (山田敏弘/著・祥伝社) 感想

タイトルに若干の違和感を覚える…
著者の山田敏弘氏は、岐阜大教育学部の教授であり日本語教育の専門家。だから本書は、学生たちに文法へ興味関心を持ってもらう入口的な教材として、“Jポップの歌詞”が引用されている真面目な国語の本と思えば間違いない。
従って、私がタイトルから期待した“心に残る歌詞そのもののの分析論”については積極性に欠けたのが残念(著者の経歴からすれば当然だが)。だから、プロの作詞家がヒット作を生み出すテクニック集や、作詞家の視点からの作詞論を読みたければ他の本を探した方が良い。
切り口が工夫で解り易い初歩の文法の教科書だ!
上記を承知で読めば、本書の価値はガラリと変わる。私が学生時代に敬遠していた国語の文法の本来の面白さや、時に時代を敏感に反映したり逆に時代は移っても不変な日本語の歌詞の奥深さが見えてくる。切り口の工夫で国語に興味が持てた訳だ。30年前に本書があったら私の駄文も、少しはマシになったかもしれない…
5つのコラムが面白い!
まず、それらコラムのタイトルはこんな感じ。
・聴かれなくなった鼻濁音
・ちょいと古風な表現
・当て字
・進化した活用
・ああ聴き間違い
いずれも専門的な文法の話から少し脱線して、著者の音楽好きの視点が中心となり、時代と共に変わってきた“Jポップの歌詞”の解説が面白い。特に私が興味深く読んだのが次のコラムだ。
コラム『ちょいと古風な表現』の中の桑田佳祐論。
コラム『ちょいと古風な表現』の中で、私が敬愛する桑田佳祐論が語られている。
サザンオールスターズ『思い過ごしも恋のうち』では、「忘れようにも忘らりょか」と歌われる。こちらも同じく「忘れる」という動詞と自発・可能の「る」を含み、さらに推量が付く。現代語では、「忘れられようか」となる。実はサザンのファンの間では、サザンのデビュー当時、ザ・ドリフターズのいかりや長介さんが脱退を希望していた高木ブーさんの後任に桑田佳祐さんに打診をしたのは有名な話。いかりやさんはサザンが『勝手にシンドバッド』の一発屋で終わると踏んだらしい。
『タバコ・ロードにセクシーばあちゃん』などにも登場するこの「忘らりょか」は、ザ・ドリフターズの『ドリフのズンドコ節』で「甘いキッスが忘らりょか」と使われている。『勝手にシンドバッド』以来、サザンは案外ドリフの影響を受けているのかもしれない。※コラム『ちょいと古風な表現(P.104)』より
また、桑田さん自身はドリフのメンバー全員の名付け親であるハナ肇さんが所属していた『ハナ肇とクレージーキャッツ』(特に植木等さん)に多大な影響を受けているから、著者の推論は強ち間違いではない。
更に、シングル『君にサヨナラを(2009)』に収録されている『声に出して歌いたい日本文学』は、近代の日本文学10作品の文章にオリジナルの曲をつけた楽曲。正に“ちょいと古風な表現”がふんだんに聴くことが出来る18分42秒の大作だ。一度聴かれたし。なお、こちらのライヴDVD
にも収録されている。
あとがき
引用されている“Jポップ”のジャンルや年代が幅広いのが良いです(若干“いきものがかり”が多いですが)。お蔭で、最近のアイドルのヒット曲での言葉の選び方の特徴や、昭和時代のプロの作詞家たちの技なども読み取れます。
とにかく作詞の解説本で無いと言うことを踏まえた上で読めば、全5章の内の第3章までは少々専門的で読みづらいですが、後半の2章と5つのコラムは読み易く解り易いですし、日本語の文法とJポップの歌詞の両方に興味を持てる本です。
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桑田佳祐言の葉大全集 やっぱり、ただの歌詩じゃねえか、こんなもん
山口百恵→AKB48 ア・イ・ド・ル論 (宝島社新書)
作詞入門―阿久式ヒット・ソングの技法 (岩波現代文庫)
すべてのJ-POPはパクリである (~現代ポップス論考)
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