特集ドラマ「生理のおじさんとその娘」 (2023/3/24)

NHK総合・特集ドラマ「生理のおじさんとその娘」
公式リンク:Website、Twitter
『生理用品メーカー社員の幸男は「生理のおじさん」として人気だったがTVで娘の生理について語り炎上。果たして娘に許してもらえるのか?幸男が生理に情熱を燃やす理由は―』の感想。
主人公は、生理用品メーカーの情熱的な広報マン、光橋幸男(ひかりばし・ゆきお)。高校生の娘と中学生の息子を育てるシングルファーザーだ。半年前、「生理についてよく知ろう!」と幸男が呼びかける動画が「バズ」ったことをきっかけに、「生理のおじさん」として活動している。一躍SNSとお茶の間の人気者となった父親に、思春期の娘・花は、複雑な思いを抱いていた。
生放送の情報バラエティで幸男と共演するコメンテーターの北城うららもまた、幸男の言動が気に食わない。ある日、うららの「あなたは女性のことを全然分かってない」という挑発に興奮した幸男は思わず「僕は娘の生理周期も把握している!」と発言。幸男の会社にはクレームが殺到する。学校でもうわさになった花は家出してしまう。激しく落ち込む幸男。彼は炎上を乗り切り、愛娘と仲直りできるのか。生理を巡る親子のスレ違いを、二人はどう乗り越えるのか。
---上記のあらすじは[公式サイト]より引用---
原作:なし
脚本:吉田恵里香(過去作/:恋せぬふたり、君の花になる)
演出:橋本万葉(過去作/とと姉ちゃん)
音楽:macaroom(過去作/星とレモンの部屋※macaroomと知久寿焼)
※敬称略
見た人は好みも評価も分かれるテーマ、作風、作家性の作品
きっと、見た人は好みも評価も分かれるテーマ、作風、作家性の作品だと思う。
私も中盤まで何度も見るのをやめようと思ったことか。
しかし、私が見続けたポイントは?、次の3つ。
●演出担当・橋本万葉氏の映像作家としての作家性はどうなのか?
●脚本担当・吉田恵里香氏の脚本家としての作風はどうなのか?
●NHKが受信料を使って描くべき作品なのか?
中でも、地上波ドラマの演出で目立った作品は朝ドラ『とと姉ちゃん』(NHK/2016年度前期)がある橋本氏の作家性と、2024年前期放送予定の女性弁護士のちに裁判官となった三淵嘉子をモデルにした、伊藤沙莉主演の朝ドラ『虎に翼』の脚本担当の吉田氏の腕前だ。
毎度のことだが、根拠なき上から目線になってしまって恐縮だが、「ドラマ好き」としては “テレビドラマ” がもっともっと面白くなるためには、新しいエネルギーが必要だと思っているから、ついつい期待してしまうのだ。
チャレンジ精神は評価するが、正直、作品としては微妙…
さて、演出の橋本氏が今作のほぼメインの企画提案者であり、どんな理由で今作を作ろうと思ったのかは、 生理やPMS、セクシャル分野まで女性のカラダの悩みを解決する情報メディアサイト「フェムテック tv」の下記を読んでいただければわかると思うが、ここではほんの一部だけ抜粋する。
生理×男性の組み合わせが話題! NHK特集ドラマ『生理のおじさんとその娘』演出・橋本万葉さんの挑戦
https://femtech.tv/news345/
今回のドラマで一番描きたかったことは、生理のある当事者と生理のない非当事者の間にあるコミュニケーションです。
生理には、女性の中でもいろいろな考え方があり、女性同士でも分かり合えない部分があると思います。
だからこそ、少し複雑にキャラクターを構築していくということも意識して考えました。
生理のコミュニケーションというところにおいて、どういう状況になると私自身が幸せなのかなと考えた時に、ただオープンに話せることがいいとは思っていないです。でも、生理で困っていて助けを求めたい時に、それを話したせいでトラウマになってしまうような反応をされてしまうのは、けっこう深刻なことだと思っています。なので、話したいと思った時に、家族や仲のいい友人にきちんと話せる関係性、雰囲気があって、その話を聞いた人も理解ができる、対応ができる知識を持っていてほしいと思います。
これを読んでから見るのと、見てから読むのではドラマとしての印象が大きく変わってくると思うから、基本的に「見てから読んだ人」を前提に書いていく。
今作の私の評価は、最後まで離脱せずに見せてくれた点については合格点をつけたい。
ただ、金曜夜に放送する “単発ドラマ” として、ちょっと首を傾げたくなった。
あそこまで"ラップ"を前面に押し出す必要があったのか?
まず、第一の理由は、作品の存在意義的なことを考えると、あそこまで “ラップ” を前面に押し出す必要があったのか? だ。
放送前からエレクトロニカ芸術集団「macaroom」が音楽担当と知っていたから、ある程度は盛り込んで来ると想像はしたが、終盤のクライマックス的な部分の台詞は、登場人物全員のラップ合戦で‘約7分間’も描き切った。
もちろん、幕開け直後からラップが入って、中盤も、そして終盤も、という構成だった。
民放の深夜ドラマならこのくらいは当たり前だが、「多くの人に…」という志があるなら、もう少し減らして、音量も落として、分かりやすい描写を選択してもよかったかなと。
ただ、「ラップは口喧嘩じゃない!」なら、そこを序盤でもう少し丁寧に補強したらよかったとは思う。亡妻・楓のナレーションはピンポイントで使ったほうが…
もう一つの?と思った理由は、大量のナレーションだ。
今作は、「1時間15分の単発ドラマ」の割に、登場人物もシチュエーションも決して少なくない。
だから、75分間に詰め込もうとすると、それなりの解説・補完・補強が必要なのは分かる。
しかし、今作のナレーションは、声だけで誰が演じているのか分かる個性的な声の持ち主である麻生久美子さんで、更に主人公の亡き妻という設定がある。
従って、「天国のお母さんが…」という仕掛けになる話だけが、とにかく大量。 私の感覚だと、ほぼ全編が “麻生久美子節” って感じ。
終盤まで見れば、楓(麻生久美子)が生前に娘・花(上坂樹里)に対して主人公・光橋幸男(原田泰造)とはケンカしないで仲良くするようにお願いしていたから、常に見守っているのは納得できる。
でも、流石にそこまで40分以上はあるから、やはりここは、普通にアナウンサーのナレーション処理で、ファンタジー要素的に楓を登場させたほうが今作らしかったと思う。
これが吉田氏のアイデアだとすると、私は基本的に「ナレーション不要派」だから賛成しかねる。
朝ドラに早くもうっすらと暗雲… である。
そもそも、企画自体が中途半端だったと思う
ただ、NHKが作って放送すべき作品だったのか? について、微妙な感想だ。
その理由は、「誰に向けて作って放送したの?」が曖昧にしか伝わってこなかったからに他ならない。
私を含めた中高年の一般的に “古い考え方” の人たちへの意識改革的な目的があるなら、もう少し保守的な人たちが見やすいような作風のほうがよかったと思う。
逆に、今、日本のジェンダー・ギャップの遅れを嘆く年齢問わず多くの女性たちに寄り添う作品なら、これくらいに尖っていてもいいと思うし。
まだ、“生理のおじさんの娘” 世代の若い人たちに向けるなら、そもそも春休み中の金曜夜に見るかな? とも思うし。
やはり、放送番組として欲張り過ぎというよりも、企画が中途半端だったのが否めなかった。
それこそ、「45分×前後編」くらいにして、劇中設定、リアルな現実社会などを含めて、丁寧に描いたら、印象も違ったと思う、惜しい…
あとがき
私が地方発ドラマを含めて NHKの単発ドラマを見る楽しみに、初見の俳優さんたちが見られる… というのがあるんですよね。
今作では、主人公の息子・嵐(齋藤潤)が憧れるラッパー・柚子葉 役の MANONさんがよかったです。
3年ほど前にデビューして、国内外のアーティストが彼女の音楽やライフスタイルに共感して話題になりました。
ドラマでの演技を見るのは初めてでしたが、ただならぬオーラを解き放っていたのが印象的でした。
あとがき(その2)
「このタイミングでのドロリ」なんて描写は、中年のオッサンには「そういう感じなのか…」と思ったり。
助産師の妻は、「今は、生理はコントロールする時代だから、もう少しオープンになってもいいかもね」と話していました。
最後に、40分我慢すれば、主人公の家での「ラップ合戦」以降は楽しめます(苦笑)
★本家の記事のURL → https://director.blog.shinobi.jp/Entry/17789/
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