100万回 言えばよかった (第10話/最終回・2023/3/17) 感想

TBS系・金曜ドラマ『100万回 言えばよかった』
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第10話/最終回『今が奇跡のとき』の感想。
事件の全貌が判明し、直木(佐藤健)を殺した英介(荒川良々)と多くの犯罪に関与した千代(神野三鈴)が逮捕された。譲(松山ケンイチ)の計らいで悠依(井上真央)と直木は最後の時間を過ごすが、本当に伝えたいことは伝えられず、別れの時間が来る。その後、直木のいない世界を生きる覚悟を決めた悠依の前に、直木が現れる。どういうことかと混乱する悠依に、直木が告げたのは…。
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
原作:なし
脚本:安達奈緒子(過去作/透明なゆりかご、コード・ブルー3、きのう何食べた?、朝ドラ「おかえりモネ」)
演出:金子文紀(過去作/恋つづ、逃げ恥、俺の家の話) 第1,2,5,最終話
山室大輔(過去作/天皇の料理番、グランメゾン東京、テセウスの船、アトムの童) 第3,6,8話
古林淳太郎(過去作/理想ノカレシ) 第4,9話
渡部篤史(過去作/チア☆ダン、レンタルの恋) 第7話
音楽:河野伸(過去作/おっさんずラブ、恋つづ、知ってるワイフ、俺の家の話)
主題歌:マカロニえんぴつ「リンジュー・ラヴ」
※敬称略
"連ドラ" としては、かなり真新しさを感じる描写の数々…
今作が、やや複雑になることを承知の上での映像的な「過去と現在の時間軸を常に行き来する構成」が存分にいきた最終回だ。
なにせ直木(佐藤健)の死から始まった今作であるから、当然のことながら前回までの直木は “幽霊” であり、「生身(なまみ)の直木がいないこの世」だったわけだ。
しかし最終回は、一種の「生身の直木がいるこの世」が描かれたのだから、“連ドラ” としてはかなり真新しさを感じる描写の数々だった。
「生身の直木がいるこの世」には"映像的な統一性"があった
というわけで、当ブログらしく脚本や演出について言及しながら、最終回特別編って感じで “分かる人だけ分かる解説” なるのもをやってみようと思う(笑)
まず、前段で語ったように今回の映像的な見どころは、「生身の直木がいるこの世」の描き方にあったと思う。
気づいた人もいるかもしれないが、「生身の直木がいるこの世」には “映像的な統一性” があったのだ。
それは、特に 3人が映り込む “3ショット” の画面では、ほぼ中央に「赤色」か「オレンジ色」のモノがあるってこと。
下記の 5つの代表的な “3ショット” を見れば分かると思う。
これが偶然ではなく意図的な “演出” であることは、悠依(井上真央)と莉桜(香里奈)と宋夏英(シム・ウンギョン)の “3ショット” だけ、敢えて「青色」を配置していることからも明らかだ。
このような「気づく人だけ気付く演出」も、実は意識していないだけで視覚情報として無意識に “統一性” としてインプットされる。
更に、赤色には熟した果実などから豊かさ、血液の色から洗礼や心臓、また暖色系を代表する色として炎のイメージがある。
一方のオレンジ色は赤色と黄色の中間色であることから太陽や炎を感じ、更に温もりや陽気さや活力のイメージがある。
だから、今回の “生身の直木” を象徴する色、アイテムとして抜群の効果があるのだ。
なお、説明するまでもないが、「オムライス」が赤色と黄色で構成されていたのも、偶然ではない…

©TBS

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直木の弟の登場と、樋口と涼香の恋バナも、いい味付けに
さて、映像から脚本の話に移ろう。
最終回にも様々な工夫があったが、以前には子役の森田湊斗くんが演じた直木の弟・鳥野拓海(青木柚)が登場したのには驚いた。
やはり、数々の “回収” をさり気なく盛り込んできた今作で、唯一の “回収残し” が骨髄ドナーの一件だったし…
直木が亡くなっていることを知らない “ほぼ唯一のキャラ” だからそこ “生身の直木” に再会できる展開は、流石にベテラン脚本家らしい仕掛けだと思う。
また、成仏できず現世に留まっている幽霊・樋口(板倉俊之(インパルス))と高原涼香(近藤千尋)の “幽霊同士の恋バナ” も、今作の “ファンタジーラブストーリー” らしさを強めた意味では、意外性と柔和性があってよかったと思う。
オレンジ色やみかんを積み重ねてきたからこその演出
まとめに進む前に、もう一つこだわりの演出を紹介したい。
これは先述の「オレンジ色」のモノに関連する演出、というかこだわりだ。
下図を見ると分かるように、魚住譲(松山ケンイチ)の実家のお寺のシーンで、ちゃぶ台の上に不自然にみかんが山積みになっている(笑)
しかし、この “みかんの山積み” がカメラの位置やアングルを変えても、 “3ショット” の時は必ずチラッと写り込んでいるのだ。
でも、1カットだけ “みかん” がないカットがある。
それが一番下。
そう、樋口がこのシーンの後に登場することになる涼香のことを話し終えて「ごめん もういいよ」という時だけ。
このワンカットによって、‘幽霊の魂’を象徴する “色” がないことから、逆に “幽霊の魂” の話になることが推測できるし、予感させる演出になっているわけだ。
ここまで、オレンジ色やみかんをワンカットワンカット積み重ねてきたからこその演出だと思う。

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‘やり残し’の‘やり直し’を"フィクション"らしく映像化
さて、まとめよう。
当ブログでは、第1話の感想から、今作は基本的に若年層向けな “胸キュン” 路線ではない… と言い続けている。
更に、残された時間を考えるようになる(なった)世代の人たちに向けて、「“やり残したこと” をどうするのか?」を問う作品であり、「人生の応援歌」でもある…) と主張してきた。
今回は、前回で悠依が言った「ちゃんとしたお別れなんて ないのかも」に、ちゃんとケリをつけた結末になっていた通り、現実世界ではほとんど不可能な‘やり残し’の‘やり直し’を “フィクション” だからこそ映像化した。
今期は他局で‘やり直し’を描いた作品はあったが、今作は ‘やり残し’にフォーカスを当てた点が新鮮だった。
ただし、昨今のコア視聴率重視の作風ではなかったから、ティーンエージャーを始めとしたアラサー世代くらいまでの視聴者には少々響かなかったかもしれない。
でも、子育て中、子育てにひと段落世代以上の人たちには、人生を振りかえる良い機会を与えた作品になったと思う。
やはり、世の中の連ドラが軒並み「胸キュンのラブコメ」、「事情アリの恋バナ」ばかりになったら、つまらないと思う。
久し振りに満足度の高い秀作ドラマだった
最後の最後に言っておきたいのは…
最近の “ドラマ” を見れば “ファンタジー” と “ラブストーリー” を合体させるだけでも、今作が伝えたかった「‘やり残し’の‘やり直し’は簡単にできないからこその余生の生き方の大切さ」みたいなものは、ある程度は描けたと思う。
しかし、今作はそこに “サスペンス” を盛り込んできた。
当然、最近の詰め込み過ぎの連ドラに食傷気味だったから、当初は不安があった。
でも終わってみれば、「幽霊+謎解き+恋バナ」の 3つのドラマの面白さを見事に融合させた。
更に「脚本+演出+俳優」のそれぞれの役割が的確に果たされることで、今期では稀な “秀作ドラマ” に仕上がった。
やはり、これくらいの高い完成度があると、満足度が高いし、応援した甲斐もあるってものだ… お見事!
あとがき
いやぁ、ラストにも感動しましたよ。
今作は婚約者って関係でしたけど、「100万回 言えばよかった」はパートナー、親、きょうだい、大切な人にも共通しますよね。
来週、両親やご先祖様のお墓参りに行く予定ですが、きっと墓前で手を合わせる時の気持ちがこれまでと変わるような気がします…
お知らせ
今作の「Blu-ray & DVD BOX」が発売されますが、Amazonと楽天市場で限定特典が異なりますので購入の際はご注意ください。
サントラ盤、めっちゃおすすめです。
特に、悠依と直木が海に行くシーンい流れたメインテーマの他、スローなアレンジもあってよいですよ。

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★本家の記事のURL → https://director.blog.shinobi.jp/Entry/17775/
【これまでの感想】
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