リバーサルオーケストラ (第7話・2023/2/22) 感想

日本テレビ系・水曜ドラマ『リバーサルオーケストラ』
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第7話『天才、完全復活へ!!幼なじみと直接対決!』、ラテ欄『天才、完全復活へ!!幼なじみと直接対決!』の感想。
初音(門脇麦)は玉響のため三島(永山絢斗)と一緒にテレビに出ることを決意。小野田(岡部たかし)からは市役所を辞めて玉響に正式入団してほしいと誘われ、プロの演奏家になる覚悟を問われる初音。しかし初音の過去がネットに晒され始め…。追い込まれた初音は、玉響メンバーとも衝突。朝陽(田中圭)は初めて初音に激怒し…!?初音と三島の過去が明らかに!生放送で直接対決、天才・谷岡初音は完全復活なるか!?
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
原作:なし
脚本:清水友佳子(過去作/夜行観覧車、わたし、定時で帰ります、朝ドラ「エール」、最愛)
演出:猪股隆一(過去作/家売るオンナシリーズ、35歳の少女、コントが始まる) 第1~3,6話
小室直子(過去作/怪盗 山猫、3年A組、ニッポンノワール、真犯人フラグ) 第4話
鈴木勇馬(過去作/東京タラレバ娘、今日から俺は!、俺の話は長い) 第5,7話
チーフプロデューサー:三上絵里子(過去作/逃亡医F、ダマせない男、受付のジョー)
音楽:清塚信也(過去作/コウノドリ1,2)
啼鵬(バンドネオン奏者・過去作/朝ドラ「ファイト」編曲)
※敬称略
今作をオッサンでも楽しめる理由を考えてみた
当初から今作の感想を読んでくださっている読者様はご存知だと思うが、私は一度「第5話」の内容で “離脱寸前” にまでなった。
しかし、映像における演出としては、その「第5話」を担当した鈴木勇馬氏の演出が最も好みに合う。
その理由は、鈴木氏の過去の担当作品はいずれも「ホームドラマ」、「会話劇」として秀作ばかりだからだ。
そして今作も、表面上は「サクセスストーリー」や「再起・再生の物語」であると同時に、根っこの部分)には…
先生と生徒が一丸となって… 的な部分は、日テレを代表する『ゆうひが丘の総理大臣』(日テレ/1978-79)、『熱中時代』(日テレ/1978-81)、『ごくせん シリーズ』(日テレ/2002,2005,2008)などの学園ドラマや…
きょうだいや家族やご近所さんが協力する部分は『池中玄太80キロ シリーズ』(日テレ/1980,81,86,92)、『パパと呼ばないで』(日テレ/1972-73)といった、日テレを代表する名作ドラマ(若い人は知らないと思うが)をオマージュしている節がある。
そう感じるのは、いつも書いていることだが特にこの日本テレビ系・水曜ドラマは提供スポンサー群を見てもお分かりのように、13歳から49歳くらいの購買意欲の高い女性をターゲットに制作されている。
要するに、私のような「基本的に馴染みの店で馴染みのモノを買うオッサン」は基本的には対象外なのだ(笑)
しかし、そんなオッサンでも楽しめるのは、やはり土台の部分が時代に左右されない “ベタな学園ドラマ” や “ベタなホームドラマ” を見据えて丁寧に作り込んでいるからだと思う。
注目したカメラアングルによる心理描写
それが分かる演出をちょっとだけ解説してみる。
今作は基本的にどの演出家も共通はしているが、特に今回の鈴木氏の演出では巧みなカメラアングルによる心理描写がよくできていた。
例えば、下記の日本屈指の人気ヴァイオリニスト・三島彰一郎(永山絢斗)が初音(門脇麦)との子ども時代を思い出して部屋を出て行くシーン。

©日本テレビ
古い写真を見てから、ヴァイオリンのケースを閉じるカットをテーブル面の高さのカメラで下から煽って白い天井を入れ込んで撮っている。
彼の背後にパキラ(観葉植物)があるが緑色を強調せずに全体をモノトーンのシックな色調にしている。
そして次の引きのアングルは更にカメラを低くして、天井や屋外の白色を多めのモノトーンにして、下手(画面右)に上手(画面左)向きにミニチュア・ヴァイオリンが二挺ある。
このミニ・ヴァイオリンと彰一郎の位置と向きが実に素晴らしい演出をしているのだ。
詳細な説明は書きの投稿を読んでいただくとして…
[演出プチ講座] 映像の掟~画面内の人物の位置や視線(目線)の向きには意味がある~
更に、ヴァイオリンの赤いニスの色と背後のキッチンにあるオレンジと黄色が呼応し合って、“子どもの頃の仲良き二人” を彷彿させている。
西さいたま市役所内の階段のシーンにも注目
もう一つは他の演出家もやっているが、西さいたま市役所内の階段のシーン。
4人を同一カットに収める構図はいろいろ考えられるが、今作では階段をうまく利用している。
特に「4人の上下関係」を、上の立場のキャラが下の立場を見上げて、その逆も効果的に使って、面白おかしく描いている。

©日本テレビ
特にカメラが下向きや上向きになると、先の解説のように演者の背景がスッキリするため、俳優さんの表情が見やすくなるから、演技を堪能できるという効果もある。
今回は、あちこちにカメラが下向きや上向きになるカットがあるから、そこでの俳優さんたちの演技を楽しめると思う。
ドラマと劇伴が見事にシンクロしている
演出の話はこれ位にして… と。
総話数は不明だが最終章へ向けて、オーボエ首席の穂刈(平田満)のネタ振りと、主人公・初音のトラウマを強調し、一気に進めたという感じだ。
とはいえ、中盤での穂刈の使い方がよかった。
朝陽(田中圭)が穂刈の演奏にダメ出しをして、第2オーボエ・河野(紺野菜実子)と交代するように告げたシーンの劇伴が、ドヴォルザーク作曲の『交響曲第9番 《新世界より》 第2楽章 Largo』だったのが印象的だ。
一般的には、『家路』、『遠き山に日は落ちて』などに編曲されている愛唱歌として有名だと思う。
オーボエの仲間であるコール・アングレ(別名:イングリッシュ・ホルン)のオーボエよりも暖かな音色が、この次のシーンでの穂刈の台詞と重なる…
穂刈「気をつかわなくても大丈夫ですよ。
世代交代は当然のことです。
その時々の宿命を受け入れていかないと。
プロを志した時から その覚悟はできています」
細かい引用は避けるが、『遠き山に火が落ちて』の堀内敬三さんの歌詞ととてもリンクするのだ。
例えば、1番の「今日の業(わざ)」は「今日やるべき所業」のことで、要は「今日の仕事」という意味。
また、「まどいせん」は、「人々がまるく居並ぶこと」の意味で、歌詞としては囲炉裏や焚き火を囲んで団らんする様子が思い浮かぶが、今作的には「特に親しい者同士が集まって楽しむこと」で良いと思う。
結局、この劇伴を起点にして、主人公と団員たちとの大げんかが始まり、穂刈の健気さや朝陽の本気が主人公の音楽魂に火がついて、その火がやがて大きな炎になって一致団結していくのだ。
各キャラの役割が明瞭で的確
とにかく、各登場人物たちの劇中の役割が明瞭な上に、性別や年齢や生まれなどの設定が実にピッタリ。
まあ、これらは今回で始まったことではないが、今回は全体が「初音のエピソード」だから、脇役が埋没せずに役割を果たすのは大切なことだ。
惜しいのは、初音の妹・奏奈(恒松祐里)の「SNSの広報担当」の役割がなかったこと。
でも、「谷岡家の一員」、「初音の同居人」としての役割が描かれたから悪いとは思わないが。
朝陽「伝えるって 難しいですね」
最後に。
中盤と終盤で朝陽が次の台詞をいう…
朝陽「資格があるかどうかを決めるのは君じゃ ない。
君の音楽に触れた聴衆だけです」
※ ※ ※
朝陽「伝えるって 難しいですね」
“テレビドラマ” や “連ドラ” で、劇中で描かれる音楽や演奏で「演奏技術の変化」や「演奏内容の違い」を視聴者に “伝える” のは本当に難しいことだと思う。
しかし、今作はその難しいことを俳優の芝居、演技力で乗り越えている。
一部の厳しい音楽ファンは別にして、多忙な撮影スケジュールの中でやってのけている。
特に、テレビ番組「マッシュ」 での初音の演奏シーンは門脇麦さんの “当て振り” の完璧さの賜物ではあるが、その演奏に聞き入る永山絢斗さんや田中圭さん、恋多きチェロ首席・佐々木玲緒 役の瀧内公美さんらの演技力、そう顔の表情で伝えているのだ。
敢えていうなら “演奏をしてない人の映像” が “演奏自体” を表現しているってことだ。
これ、雰囲気で押し切ることが多い最近のドラマの中では、一つ大きく秀でていると思う。
あとがき
今回は、脚本、演出、俳優の三位一体のスゴさを見せつけてくれました。
離脱しなくてよかった…
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【これまでの感想】
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