特集ドラマ「ももさんと7人のパパゲーノ」 (2022/8/20) 感想

NHK総合・特集ドラマ『ももさんと7人のパパゲーノ』
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『伊藤沙莉主演の特集ドラマ▽「死にたい」気持ちを抱える主人公ももさんは、ある夏、旅に出た。旅先で出会った“パパゲーノ”とは?「死ぬ」以外の道を探す、1週間の物語。』の感想。
ももさん(25)には友達もいる。少し離れた所に住む両親とは時々ご飯を食べるし、特に付き合いたくないゾーンではない彼氏とデートを重ね宅飲みをする。職場で理不尽な得意先の電話にちゃんと謝るし、飲み会では社会人としてのスルー力が毎分毎秒試される。そんな“一般的”な日々の中で、ももさんは自分が「死にたい」気持ちを抱えているなんて気付きもしなかった。ももさんにとって「死にたい」は、自分なんかが言ってはいけない言葉だった。
ある夏。月曜日の朝が来ることが耐えきれず、会社を休んだももさんは、SNSで繋がった“死にたい”気持ちを抱えながら生きる人=「パパゲーノ」たちを訪ねて旅に出る。彼らと出会い“死ぬ以外”の選択肢を知っていくももさん。しかし、あるパパゲーノの言葉をきっかけに、ももさんの心に再びざわめきが生まれー。
---上記のあらすじは[公式サイト]より引用---
原作:なし
脚本:加藤拓也(過去作/俺のスカート,どこ行った?、死にたい夜にかぎって、きれいのくに)
演出:後藤怜亜(過去作/テレビドラマ初監督)
音楽:田中文久(過去作/思考力を育てる知育アプリ「Think!Think!」サントラ)
制作統括:渡辺由裕(過去作/NHKスペシャル ルポ「中高年ひきこもり 親亡き後の現実」)
尾崎裕和(過去作/ここは今から倫理です。、恋せぬふたり)
※敬称略
"死にたい"主人公が"自分の生き方"を肯定していく1週間の物語
“死にたい” 気持ちを言葉にできない、都内で働く25歳の女性・もも(伊藤沙莉)が、生きづらさを感じつつも日常と折り合いをつけて生きている7人と、次々出会う中で “今の自分の生き方” を肯定していく1週間の “ライフストーリー” だ。
正直、この作品をいつものように “ドラマ” として、脚本や演出を考えるのは、ちょっと違う気がする。
それは、今作が単純に一人の女性が立ち直るヒューマンドラマではないからだ。
従って、今作が作られた “背景” を知ってから見るのと、知らないで見るのでは、かなり作品への印象や感想も違うと思う。
制作意図を知ってから見た方が良いと思う。
ちなみに、私は前者で、今作の制作意図のようなことは事前に知っていたが、もしも、まだ見ていなくて、この投稿を読んで知った人は、ここから先を読んでから見た方が良いと思う。
まず、タイトル中にある「もも」という主人公の名前について。
これは、NHKが運営するサイト『自殺と向き合う 生き心地のよい社会のために』に寄せられる「死にたい」、「生きるのがつらい」という日々の投稿で “最も多く使われるハンドルネーム” から引用されたとのこと。
また、もう一つの「パパゲーノ」は、オペラ『魔笛』に登場するキャラクターの名前で、“死にたい” 気持ちを抱えつつ、その人の考えや理由によって “死ぬ以外” の選択をして生きている人のことの総称である。
また、メディア研究や心理学研究の間では、“死にたい” と考える人が “死ぬ以外” の生き方を選択した経験談を様々な方法で伝えることが、自殺を思いとどまらせる抑止力になるとの研究結果があり、そのことを「パパゲーノ効果」と呼んでいる。
従って、今作は、前述のサイト『自殺と向き合う』に投稿された実際の体験談や経験談を基にして、主人公や7人のパパゲーノたちのキャラクターが作られているそうだ。
今作を放送する "意味も価値" もある
この制作意図を知ると、見る人それぞれの置かれた環境で今作への評価や感想はおのずと変わって来るのは当然だ。
私は、以前に当ブログでも書いた通り、令和3年(2021年)の夏に芯が取コロナ感染拡大による緊急事態宣言等の影響をもろに受けて、次々と仕事がキャンセルになっていく絶望感と閉塞感で “死にたい” と思ったことがある。
でも、心のどこかで “死にたい” を止めて欲しいと願って「#いのちSOS」に電話を掛け、その時の電話口の女性の声に救われて思い留まって今に至る経験がある。
だから、ちょっとした “きっかけ” で気持ちが変わることを実体験しているから、今作で主人公が変化していく過程も理解できる。
だから、今作を放送する意味も価値もあると思う。
随所に"三脚を使用した固定カメラのカット"があったら…
しかし、これだけでは “当ブログらしさ” がないから、少しだけ “ドラマ” として気づいたことも書いておく。
まず、気になったのは「全編が手持ち(ハンディ)のカメラワーク」だったこと。
演出家が、不安感を創出するためや、ドキュメンタリー風の味付けをするためなどの意図があったかもしれない。
しかし、明らかにカメラマンが揺れない(ブレない)ように撮影しているカットがあったから、それなら適材適所で三脚を使用したら良かったと思う。
三脚を使用した方が良いと思う理由は、やはり “画が安定する” からだ。
今作は、気持ちが不安定の人に向けて放送するドラマの位置づけがあるのだから、せめて終盤に向けて “安定した画” を見せることで、視聴者にもストーリーそのものの “安定感” が伝わり、それが “安堵感” にもなると思うし。
まあ、三脚を使用した撮影は、手盛りカメラよりも時間を要するから、撮影スケジュール的に無理だった可能性もあるが、それでも、随所に固定カメラのカットを入れるだけで、印象はガラリと変わったと思う。
"ドラマ"の訴求力として、少々ストーリーが単調だったかも
もう一つは “ドラマ” としての訴求力として、ちょっとストーリーが単調かなぁと。
今作は投稿を基に取材をした体験談がベースになっているから、どこまでそこから外れるのが許されるのかがわからないが。
それでも、今作は “ドキュメンタリードラマ” ではなく、あくまでもフィクションとノンフィクションの中間地点あたりに存在する作品を目指しただろうから、もう少し7人のパパゲーノの生き方や考え方にメリハリがあっても良かったと思う。
もちろん、やり過ぎちゃうと一瞬で “作りモノの臭さ” が漂ってしまうから難しいところだが、今作がドラマ初監督作品なら、思い切って冒険して欲しかった。
やはり、経験を重ねていくと、期待の方が大きくなって、なかなか冒険したくてもできなくなると思うから、今後の作品に期待したい。
その意味では、私が大好きで評価も高いドラマ『俺のスカート、どこ行った?』(2019年・全話脚本)や『死にたい夜にかぎって』(2020年・全話脚本)を手掛けた脚本家・加藤拓也氏にも、もっと挑戦して欲しかった。
あとがき
誰でも大小の違いはあれど、日頃 “生きづらい” と思うことはあると思います。
そんな時、「なに変なことを考えているんだ!?」とか「今、頑張らないでいつ頑張る!?」みたいに励ますのではなく、ただ寄り添ってくれて “自分だけじゃない” と思えたら、少しは気持ちが楽になると思うんです。
この作品が、“生きづらさ” を感じている人に、一人でも多く届くといいなって思います。
悩んでいる方の相談窓口があります
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・SNS:生きづらびっと(LINEから相談できます)
https://yorisoi-chat.jp/
・いのちと暮らしの相談ナビ(相談窓口検索サイト)
http://lifelink-db.org/
【番組関連】
自殺と向き合う 生き心地のよい社会のために - NHK
http://www6.nhk.or.jp/heart-net/mukiau/
わたしはパパゲーノ~死にたい、でも、生きてる人の物語 - NHK
https://www.nhk.or.jp/heart-net/papageno/
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