17才の帝国〔全5回〕 (第3話・2022/5/21) 感想

NHK・土曜ドラマ『17才の帝国』
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第3話〔全5回〕『夢見る街』の感想。
なお、本作は、2022年春に全話をクランクアップ(撮影終了)しているため、感想には要望などは基本的に書かずに、単純な感想のみとします。
「ウーア」実施地の市長だった保坂(田中泯)は市議会復活を訴えるが、真木(神尾楓珠)は権威に屈せず、街で住民の声を聴き始める。そして、商店街の再開発に反対する住民の「一度失われた風景は取り戻せない」という言葉に心を動かされ、ウーアの未来を住民投票で問うことに。純粋な真木に徐々にひかれていく平(星野源)。真木の志の原点には、‘社会への怒り’があった。
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
原作:なし
脚本:吉田玲子(過去作/サトラレ、帰ってきた時効警察、モザイコ100)
脚本協力:鈴木貴昭(過去作/ハイスクール・フリート、マブラヴ オリタネイティヴ)
演出:西村武五郎(過去作/あまちゃん、リモートドラマ・Living、きれいのくに) 第1,2話
桑野智宏(過去作/ウェルかめ、梅ちゃん先生、あまちゃ、おかえりモネ) 第3話
音楽:坂東祐大(過去作/美食探偵 明智五郎、大豆田とわ子と三人の元夫)
Tomggg(とむぐぐぐ)(過去作/音楽ゲームアプリ"DEEMO2"、オンゲキ)
前久保諒(過去作/Dragon Night / SEKAI NO OWARI編曲)
網守将平(過去作/NHK Etレ「ムジカ・ピッコリーノ」(シーズン10)楽曲提供)
主題歌坂東祐大 feat. 塩塚モエカ(羊文学)「声よ」
プロデューサー:佐野亜裕美(カルテット、大豆田とわ子と三人の元夫)
ほかの様々な意見も取り入れてください
まえがき
まさか、今作の感想で、政治の話題に触れることになるとは思わなかったから、僭越ながら冒頭でお断りを入れさせていただきました。「政治の話なんて読みたくない」という人は、すぐにここから離れた方が、きっとステキな日曜日を過ごせます…
このドラマの"企画"について…
ご存知の方には飛ばして欲しいが…
今作の企画は、NHKが「ドラマで日本の文化を世界に発信できないか?」の発想のもと、世界のNHK各局にアンケートを取り、日本のドラマで「AI」、「アニメ」、「SF」が見たいという意見が多かったそうだ。
更に、2022年5月からNHKが展開した青少年福祉のためのキャンペーン「君の声が聴きたい」の参加番組であり…
同年4月には成人年齢が18歳に引き下げられたことを受けて、日本の若者に政治参加を促し、更にドラマを通じて世界に日本のカルチャーを広めたいという壮大な企画でつくられたのだ。
また、世界各地で若者や少数の人たちの声が政権を奪取する傾向が強まっている最近の世界情勢も、企画を後押ししたのは恐らく間違いない。
こんなことを、頭の隅っこに置いて、この先の感想を読んで頂けると嬉しい…
最大の問題点は"一貫性の無さ"と"ダブル・スタンダード"
まず、本作は「全5回」の “連ドラ” だから、言いたいことがある。
それは、第1話と第3話は、実験都市プロジェクト「ウーア」の実施地「青波市」の “人口減少による影響” を描いていた。
しかし、思い出して欲しいのは、第2話は “人口減少による影響” でコンパクトシティをつくろ! という話だったこと。
プロジェクト予算などを考えると、“人口が減っているから” ではなく、“今住んでいる人の夢や希望を叶える” お話になっており、冷静に考えれば “ほぼ真逆” のことを描いているのだ。
だから、第1話と第3話が本作が描く “政治” として “正解” なら、第2話は成立しない。逆に、第2話を “正解” とするなら、第1話と第3話は “連ドラとして破綻” しているのだ。
ここが、今作の最大の問題点である “一貫性の無さ” なのだ。ダブル・スタンダードになっているのだ。
なぜ、SFドラマの感想で政治の話をせざるを得ないのか?
今作の “一貫性の無さ” を少し掘り下げてみる。学生時代に社会が大の苦手だった私が政治学を述べるなんて、おこがましいし、間違っていることもあると思う。が、お許しいただけるなら少しだけお付き合いを。
さて、なぜ、SFドラマの感想で政治の話をせざるを得ないのか? それは、本作が「ポピュリズム」を描こうとしている作品だと判断したからだ。
「ポピュリズム」には、様々な解釈が存在する。
誤解を恐れずに書くと。ポピュリズムとは、基本的に “多数決の原理” で、過半数のプラス1票を取ったら、その人が “総取り” して良いという発想で、簡単に言えば「数は正義」なのだ。
一方、本当の民主主義は、多数派の意見を押し通さずに、少数派の意見も最後まで尊重して議論しようという姿勢。
別に、どっちが正しいとか良いとか、そういう話をするつもりはない。
もちろん、「ポピュリズム VS 民主主義」でもない。
なぜなら、ポピュリズムには、政治から排除された人々を政治参加へ促したり、特権階級のエリート層に対する、小市民たちの力を反映させる機能があり、実は民主主義と矛盾しないのだ。
しかし、ポピュリズムには、“市民” の意思(夢や希望を含む)を重視し過ぎて、政党や議会や司法機関などの “統治機能” を無視して、市民側の都合のよい統治につながっていく危険性があるのだ。
今作で最もやって欲しくなかった"ご都合主義"とは…
上記のことを踏まえて、第3話のエピソードを再考すれば、違った見方ができるのではないだろうか?
既に、今作の実施地では、市議会の廃止、市長と市議会議員の廃止になっている。そこで、今回は “市の職員” というわけだが。
これ、市議会議員と市の職員で “人数” は違うが、既に市議会議員の関係者たちも “気の毒” な状況になっているのでは? 「皆さんの気持ちを じかに…」と主張するなら、市議会の議員や家族などの関係者の声も聞いたのか? な。
まあ、今作では、元市長の “怒りの反旗” を強調して、前述のポピュリズムの考え方を利用して、市民を焚きつけて… になっているが、なんかモヤモヤする。
なぜなら、実施地では既に “人口減少による影響” が出ているのだ。要するに、“働く場所” がどうのこうの以前の話として、“働く人” が減っているのだ。
そう、その時点で、このまま「青波市」では先々も安泰に 《生活ができない》 と思うのだ。
だから、劇中の市民たちが、「このまま続けて生活していくことができる」と考えていることが不自然と言うか…
これが、私が期待していた今作で、最もやって欲しくなかった “ご都合主義” なのだ。
真木が好き勝手にできる時点で、AIの必要性が薄いような…
そもそも。第2話のように、総理大臣となる17才の高校生・真木(神尾楓珠)が、少数派の意見をくみ取って、説明し、市民を煽って、広報して、既存の「狸穴商店街の再開発」の内容が変更する案が、容易に成立してしまうなら…
政治AIソロンが選んだという設定がある割に、結局、ソロンを含めたシステム全体を真木が支配しているのと同じだから、AIの存在意義がないのだ。
言い換えれば、真木が好き勝手にできるってこと。もう、こうなると、AIが正しいとか暴走するとか、人間が制御する以前の話。
もちろん、おバカなAIをつくって政治を任せちゃうと、17歳の高校生がやり放題にやっちゃうよ! という恐怖社会を描くSFなら納得するが…
首長とAIで統治できるなら、閣僚も要らないような…
前述のご都合主義に話を戻せば。
繰り返しになるが。そもそも… 真木という “首長” とソロンという “AI” で、実施地の統治が成立しているのだから、“閣僚” は要らないのだ。だから、市議会廃止や職員削減の前に、閣僚こそが無駄だと思うが(失笑)
それだとドラマらしくないから、それこそご都合主義で必要性を描いてはいるが、やはり無駄は無駄なのだ。
まあ、ドラマとしての無駄を徹底的に考えれば。政治が、市民の投票と真木の一存で決まるのなら、AIすら必要ないのだが(苦笑)
逆の論理で、政治AIのソロンが無敵なら、市議会はおろか、総理大臣も不要なのだが…
あとがき(その1)
今作の最大の問題は、ポピュリズムを歪んで解釈し、劇中に落とし込んでいることだと思います。
で、もっと簡単に申しますと、政治AIがやるのは、政策の提案と業務の効率化だけで、最終決定権は、市民… とすればポピュリズム、総理… とすれば独裁政治、両方のいいとこどりを描けば民主政治になるのです。
でも、3つ目の選択肢だと、斜陽国となった日本の改革を担う若手の人材を育成する、政治AIを活用した「ウーア構想」自体を根本的に設定から見直す必要があると思いますけれど(困)
あとがき(その2)
国民を味方につけて、数の論理で改革を推し進め高支持率だった「小泉純一郎内閣の構造改革」を思い出しますね。内政重視で外交軽視が仇になって終焉しましたが。
あとがき(その3)
これ、最初から、「ウーア構想」で実施地に “真木首相” と “政治AI” が投入されて、議会廃止についてだけ、統治側と、既得権益に癒着する側や市民がバトルするSFの方が、ドラマとして面白くなったような気がするのですが…
あとがき(その4)
今作って、世界中のジャパン・カルチャー大好きな人たち向けのドラマとして見た方が納得できるかもしれませんね。
私は、主演の神尾楓珠さん、環境開発大臣・鷲田役の染谷将太さん、そして、前・青波市長・保坂役の田中泯さんがお目当てなので、それなりに楽しめています。
あとがき(その5)
それと、当ブログを読んでくださっているドラマファンの皆さんへ。鷲田総理(柄本明)の息子で、環境開発大臣の鷲田照の父親・鷲田光を演じている岡部たかしさんを今期は毎週見ていますよね。
先日放送された『インジビジブル』第6話では中根沢建設会社社長。でも、今期で一番のハマリ役は、ドラマ『明日、私は誰かのカノジョ』の第5,6話に登場した、レンタル彼女での彩(宇垣美里)の客「涼ちゃん」役ですね。
同じ俳優さんとは思えません。名バイプレーヤーです。
★本家の記事のURL → https://director.blog.shinobi.jp/Entry/16877/
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