【脚本プチ講座 第4弾】誤信念課題の「アイスクリーム課題」と、ドラマを「好意的な脳内補完」することの意外な関係 ※改訂版
2022/08/03 08:00 記事更新
2000/08/03 08:45 記事改定

ネット上では、昨年3月頃に一度話題になったそうですが…
ネット上では、2021年3月頃に一度話題になったそうですが(ツイッターのまとめ記事リンク)、私は先日、下記の動画を見て初めて知りました。
※なお、下記の動画は、課題の答えが出て来てしまうので、この記事を読んでから見るのをお勧めします。
この問題がわからなかったらASD?サリーアン課題とアイスクリーム課題【発達障害/アスペルガー症候群/自閉症スペクトラム】-YouTube-
なお、上記の動画の公式チャンネルは下記です。
興味をお持ちになったら、ご訪問をおすすめいたします。
【女性ASD】NINOちゃんねる /毎週金曜19時更新
更に、「アイスクリーム問題」について掘り下げたい方は、下記のDaimyoshiboさまが運営されているブログ『Die Webpage von Fursten Tod~討死館~』の『アイスクリーム・トラック問題』を読んでいただけると、私も参考になりましたので、理解が深まると思います。
当ブログの人気シリーズ?『プチ〇○講座』の第4弾!
この投稿では、当ブログが日常的に行っている「テレビドラマや映画の登場人物の心理や状況設定に対しての様々な考察」に、ちょっと関係がありそうなので…
その部分に関連付けて、当ブログの人気シリーズ?『プチ〇○講座』の第4弾として、書いてみようと思います。
アイスクリーム課題とは?
「アイスクリーム課題」とは、「心の理論(他者の心を類推し、理解する能力)」の理解度を見る「誤信念課題」の一例です。
「誤信念課題」とは、「サリーとアン課題」が有名な「一次的誤信念課題」と、今回の「アイスクリーム課題」のような「二次的誤信念課題」があります。
「一時的誤信念課題」は、「Aさんは○○と思っている」という自分以外の他者の状況理解を問う課題。
「二次的誤信念課題」は、「Aさんは○○と思っている… とBさんは思っている」という “入れ子構造” の状況理解を問う課題。
従って、「二次的誤信念課題」は「一次的誤信念課題」よりも、難易度が高いとされています。
アイスクリーム課題の内容
1985年に考案された課題のため、研究者によって微妙に名前や言い回しが異なるが、概ね下記のような内容になります。
なお、実際に実験する際には、わかりやすいように、誤解のないように、細かく説明をつけながら行います。(参考リンク)
【登場人物・設定・状況など】
1.ジョンとメアリーは公園にいます。
2.公園にはアイスクリーム屋さんの車が来ています。
3.メアリーはアイスクリームを買いたかったのですが、お金を持っていません。
4.アイスクリーム屋さんは「午後も同じ公園にいる」と二人に言います。
5.メアリーはお金を取りに家に帰りました。
6.しばらくして、アイスクリーム屋さんはジョンに「ここは売れないから、教会に行く」と伝えて、移動しました。
7.その途中、メアリーの家の前を通り掛かったアイスクリーム屋さんは、メアリーに「これから教会へ行く」と伝えて去りました。
8.しばらくして自宅に帰ったジョンは、宿題のわからない所を聞くために、メアリーの家に行きました。
9.メアリーは既に留守で、メアリーのママは「メアリーはアイスクリームを買いに出かけたわよ」と教えました。
10.ジョンは、メアリーを追いかけて行きました。
【問い】
ジョンは、メアリーがどこに行ったと思っているか?
【答え】
ジョンは、メアリーがアイスクリーム屋さんから「教会へ移動する」と聞いたことを知らないのですから、「公園に行ったと思っている」が正解になります。
従って、この物語では、ジョンはメアリーを公園に探しに行きます。
でも、実際のメアリーはアイスクリームを買いに教会へ行っています。
そのため、ジョンが公園に着いた時には、公園にはメアリーはいないことが予想できます。
私たちは、何歳くらいから他者の心的状態を理解できるのか
私たちは、何歳くらいから、どのようにして、他者の心的状態(信念や欲求など)を理解できるようになるのか? の研究が、先述の「心の理論」の研究の原点です。
そして、アイスクリーム課題のような二次的誤信念課題は、「Aさんは○○と思っている… とBさんは思っている」という “入れ子構造” になっているのは既に書いた通り。
二次的誤信念課題は、想像以上に難しい…
このような入り組んだ人間関係の中の人の意思や考え方に対して理解が目覚めるのは、6~7歳頃と言われています。
しかし、上記のアイスクリーム課題を読んでもわかるように、二次的誤信念課題は “登場人物たちの意思や意図” だけでなく、文章の構造や言い回しが難しいことが多いのです。
そのため、二次的誤信念課題は、“登場人物たちの意思や意図” をわかる、わからない以前に。問題文そのものが理解できずに間違って答えてしまうケースが多々あります。
このような背景のため、二次的誤信念が芽生え始めるのは6~7歳ですが、現実にアイスクリーム課題に正答できるのは9~10歳と言われています。
「"好意的な脳内補完"に頼る作品は面白くない」を深掘り!
「アイスクリーム課題」が、私がドラマの感想でよく話す 「“好意的な脳内補完” に頼る作品は面白くない」に繋がるのです。では、解説します。
この課題では、実際にアイスクリーム屋さんがどこにいるのかは関係ありません。実際にメアリーがどこへ向かったのかも関係ありません。ジョンがどこへ向かえば、メアリーに会える可能性が高いのかも関係ありません。
最終的にジョンがどこでメアリーに会うかどうかも関係ない。時間が午前か午後かも関係ない。結果的にジョンが公園で出会えないことも、どうでも良いのです。
この課題で重要なのは、次の一点!
この課題で重要なのは、「ジョンが、ジョン自身が知っている情報からメアリーの行き先をどう推理するか?」の一点です。
そして、「ジョン自身が知っている情報は何のか?」だけが解答に影響するのです。
ですから、ジョンは、「メアリーはアイスクリーム屋さんが公園にいる」ことしか知らないのですから、「ジョンはメアリーが公園に行ったと思っている」に辿り着くのです。
行間を読むより先に、文意を汲み取れ!
このような課題を解くときに大切なのは、「行間を読むより先に、文意(文章の表現しようとしている趣旨)を汲み取れ」ということです。
要するに、文意を汲み取るためには、捨象(物事や概念を抽象化していく過程で、本質から関係のないことを切り捨てていくこと)できるかどうかが、ある種の決め手になるわけです。
まず、文書の枝葉的な行間は無視して、文意を読み解く。文意を読み解いてから、行間に書かれたことを推測して、全体で表現したいことを受け止めるのです。
"ドラマが言いたいこと"を追及する作業とは?
もう、お分かりでしょうか。私の感想の投稿で、常日頃やっている「脚本や演出の分析」で、“ドラマが言いたいこと” を追及するのは、上記のことをひたすら、やり続けているのです。
1.枝葉のような行間で表現したいことは、一旦無視する
2.ドラマが本当に言いたいことだけを抽出して、読み解く
3.雰囲気や、過去や未来との繋がりを推測して、全体で言いたいことを考える
でも、意外と多いのが、「3」を先にやってしまう人ではないでしょうか? いや、普通は「3」だけを行うのだって、ドラマを解釈しようとする意味では素晴らしいことだと思います。
それに、テレビドラマや映画を観ながら、それこそ小説や漫画を読みながら「1」と「2」をやる人、やれる人は少ないと思います。そもそも、いつも「1」と「2」をやりながら見ると正直疲れますし…
先に「全体で言いたいこと」を考えてしまうと…
それでも、「3」を先にやってしまうと、作り手の本意(文意)を見逃す(読み逃す)可能性があります。
なぜなら、先に「全体で言いたいこと」を考えてしまうから、自分で都合の良いように “頭の中で辻褄合わせ” をしてしまうのです。そう、これを当ブログでは「好意的な脳内補完」と呼んでいるのです。
「好意的な脳内補完」は、次の仕組みで積もり積もっていく
例えば、あなたがドラマや映画を観ているとします。で、今のシーンが少し前のシーンと内容的に “繋がらない” とします。
でも、先に「全体で言いたいこと」を考えてしまうから、“繋がらない” という事実を認めたくないし、認めるのが面倒になる。
だから、「こう考えれば繋がる」と、自分に都合の良いように “知らず知らずのうちに” 作り手の本意(文意)を書き換えてしまうのです。そして、それが、積もり積もれば… 手に負えなくなるのは、想像できると思います。
「アイスクリーム課題」を"短編のテレビドラマ"風に考える
では、前述の「アイスクリーム課題」を “短編のテレビドラマ” だとして、次の4枚の絵を順番に見て頂けますか?

【S#-1】公園(1)
・ジョンとメアリーが遊んでいる。
・移動販売のアイスクリーム屋さんもいる。
・アイスクリーム屋さんの店員が話しかける。
店員「午後も同じ公園にいるよ」

【S#-2】公園(2)
・ジョンはいるが、メアリーはいない。
・アイスクリーム屋さんの店員がジョン話しかける。
店員「ここは売れないから、教会に行くね」
・アイスクリーム屋さんが移動していなくなる。

【S#-3】メアリーの家の前(1)
・アイスクリーム屋さんが、メアリーの家の前で止まる。
・店員が家の中のメアリーに大声で話しかける。
店員「これから教会に行くね」
・アイスクリーム屋さんが移動していなくなる。

【S#-4】メアリーの家の前(2)
・ジョンがメアリーの家にやって来て、大声でいう。
ジョン「メアリー、いる?」
・メアリーは外出して留守。
・メアリーのママがジョンに…
ママ「メアリーはアイスクリームを買いに出かけたわよ」
・ジョンは、メアリーを捜しに行く。
もしも「アイスクリーム課題」の結末が違っていたら…?
そして、もしも、5枚目の絵があったとして、それが下図のように、ジョンとメアリーが教会の前のアイスクリーム屋さんで合流したという結末だったら、どうでしょう?

「1」から順に考えた人は、次のように思うのでは?
「おいおい、いつジョンはメアリーが教会に向かったのを知ったんだよ?」って。
「せめて、メアリーのママが “メアリーは教会へ向かったわよ” とジョンに教えるカットがないと繋がらないよ」って。
そう、その通り。でも、好意的な脳内補完を “いつも” やっている人は、恐らく全く気にならないか、気にも留めないと思います。
「多分、どこかでジョンは知ったんでしょ?」、「ドラマとして、大きな問題じゃあないでしょ?」程度の感覚で、気にしないのですから…
「好意的な脳内補完」を否定はしません
私は、「好意的な脳内補完」を否定はしません。でも、それを他の人にも押し付けるのは筋ではないと思います。なぜなら、他の人は「1」から順に考察しているかも知れないのですから…
「好意的な脳内補完」は、本当に厄介…
この「好意的な脳内補完」が厄介なのは、ドラマの脚本を書いている脚本家本人、演出している演出家本人も “知らず知らずのうちに” やってしまうことがあることです。自分の中で勝手に “辻褄合わせ” をしたことを忘れて、進めてしまうのです。
これが本当に厄介。だって、場合によって、「好意的な脳内補完」の二重、三重にもなってしまうから、もう作り手の本意(文意)なんて、どこかへ行ってしまっている可能性あるのですから…
これが起こり易いのが、連ドラで脚本家や演出家が複数人体制の場合です。「第1話のAさん担当の時に、描写があったはず…」と思い込んで、話を進めちゃう。
でも、実は、第1話にそんな描写が一切ないから、視聴者は置いてけぼりを食らってしまう。きっと、具体的な作品のシーンを思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。
「好意的な脳内補完」が、本当に厄介で怖いこととは…
また、厄介の他に、怖いことでもあります。それは、このように書いている “私自身” が知らず知らずのうちに「好意的な脳内補完」をして、論理構築してしまっている可能性があることです。
ただ、このまま「自分が間違える」ことに恐怖を抱いて、発信しないのはどうかと思うのです。
やはり、少なくともイベントの進行台本を書いたり、映像制作の指示書など書くのを生業としている端くれとしては、できるだけ「自分は間違えない」、「間違えたら、すぐに正す」ように気を付けて努力するしかないと思っています。
あとがき(その1)
ドラマを “より深く正しく” 理解する時には、「好意的な脳内補完」が邪魔になることがおわかりいただけたでしょうか。
でも、「アイスクリーム課題」のような「二次的誤信念課題」に正解できないから、ドラマや映画が楽しめないと言うわけではないと思います。
解釈なんて、そもそも人それぞれですし、ドラマや映画の楽しみ方だって、人それぞれだと思うからです。
あとがき(その2)
でも、現実として、二次的信念以上の理解が難しくて、苦しんでいる方がいます。
そして、リアルな社会では、二次的信念以上の理解によって、はじめて人間の行動の洗練された理解が成立するので(※出典)、そのような方を理解して、助ける努力も必要だと、改めて考えました。
※『「心の理論」の二次的信念に関わる再帰的な心的状態の理解とその機能』著者:林 創(2001-03-31)
最後の最後に。脚本関連の書籍でおすすめの一冊です。「更に、脚本を掘り下げてみたい方」や「脚本家が、どんなことを考えて “ウケる脚本” を書いているのか知りたい方」におすすめです。
本当は、実際の脚本や映像を見ながら解説すると分かり易いのですが、今回は、脚本を書く立場と、視聴者の立場の両方から、伏線と回収を掘り下げて解説しました。皆さんの、ドラマ鑑賞ライフのお役に立てれば幸いです。
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★本家の記事のURL → https://director.blog.shinobi.jp/Entry/16871/
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