妻、小学生になる。 (第10話/最終回・後編・2022/3/25) 感想

TBS系・金曜ドラマ『妻、小学生になる。』
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第10話/最終回・後編『しあわせな結婚記念日』、EPG欄『スぺシャル最終回~愛と笑いの最後の夜』の感想。
なお、原作となった漫画・漫画・村田椰融『妻、小学生になる。』は、第1巻~第11巻(最新刊)まで既読。
妻・貴恵(石田ゆり子)が、「生まれ変わった」と万理華(毎田暖乃)の体を借りて戻ってきた奇跡を経た圭介(堤真一)と娘の麻衣(蒔田彩珠)。これからの人生は貴恵がくれたものを見て、前を向いて歩いて行こうと決めた2人だったが…。
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
原作:漫画・村田椰融『妻、小学生になる。』
脚本:大島里美(過去作/花燃ゆ、凪のお暇、おカネの切れ目が恋のはじまり)
演出:坪井敏雄(過去作/凪のお暇、カルテット、わたナギ、恋あた、リコカツ) 第1,2,5,8,最終話
山本剛義(過去作/凪のお暇、コウノドリ2、わたナキ、オー!マイ・ボス!、最愛) 第3,6,9話
大内舞子(過去作/「凪のお暇」AD、恋あた、TOKYO MER) 第4話
加藤尚樹(過去作/コウノドリ1,2、ホワイト・ラボ、MIU404、にぶんのいち夫婦) 第7話
音楽:パスカルズ
主題歌:優河「灯火」
前々回から、ず~っとモヤモヤしていたのだ…
最終回の冒頭で申し訳ないが、私は原作の既刊既読のため、意識して原作と実写ドラマ版を比較しないようにはしているつもりだが、「だって人間だもの…」悲しいかな比較してしまうのだ。その意味で、詳しく比較結果は書かないが、前々回からず~っとモヤモヤしていたのだ。そして、原作は最終回の放送時点で完結していない。
冒頭の圭介のモノローグを「過去形」にしたのは上手い脚本
だから、アバンタイトルでの圭介(堤真一)の次のモノローグを聞いてホッとしたのだ。
圭介(M)「その日は 僕と娘が 妻と過ごした最後の一日だった」
そう、「過去形」になっていたのだ。これで、今作が、原作と一定の距離をおいて、実写ドラマ版としての結末を用意していることが分かったから。原作とドラマ版を比較することに、何の意味もないことは十分承知している。
しかし、昨今では月9『ミステリと言うこと勿れ』に代表されるように、作り手も原作人気にあやかるし、視聴者が比較することも前提に話題性を加味して作り込んでいるのだ。その意味で、本作の原作も大人気作品だから、当然に両方楽しんでいる人はいるわけで。
それを考えると、冒頭の主人公のモノローグを「過去形」にして、きちんと結末を用意していると暗示させるのは、脚本の上手い作戦だと思う。
今作の演出には、大きく2つの派閥がある
さて、これまでも今作の演出について、あれこれ述べて来た。その中でも、メイン監督である坪井敏雄氏の一派と、山本剛義氏の一派の演出に大きな違いがあることも。
その一つが、万理華(毎田暖乃)と貴恵(石田ゆり子)が一つのシーン内で “切り替わる” 場合の違いで。坪井氏派は「オーバーラップ」を使わないが、山本氏派は使う。私は、毎田暖乃さんと石田ゆり子さんの “演じ分け” が絶妙だから「オーバーラップ」は必要ないと思っているが。
2つの演出の派閥が、一か所だけ統一し続けた部分がある
このように、演出家によって、多少の違いがあるのだが。今作の全ての演出家が統一していることがあるのにお気付きだろうか?
それは、例えば13分頃の愛川蓮司(杉野遥亮)がプロポーズをするシーンだ。
蓮司は最初、万理華に話し掛けている。当然に蓮司の方が万理華より座高が高いから、蓮司は万理華を “見下ろす目線” で話し掛ける。しかし、カットが変わると万理華が貴恵に。貴恵は万理華より座高が高いから、蓮司は “平行な目線” で貴恵に話し掛ける。そう、おかしいことにお気付きだろうか?
本来は、蓮司はずっと「外見が万理華の貴恵」に話し続けているはずなのだ。でも、視聴者には「万理華を貴恵に見せているだけ」なのだから、現実(には有り得ないが)的に考えると、貴恵の胸あたりを見ながら語り掛ける、手をついて話すなら見上げないで語り掛けるべきなのだ。もちろん、貴恵も蓮司を見下ろすような視線は本来なら不自然なのだ。
これは、前回の山本氏が演出した、カフェのシーンで守屋好美(森田望智)が万理華に話し掛けるシーンでも同じだった。
各演出家の個性を生かす部分と、連ドラとしての統一性をしっかりと担保する姿勢が見応えのある映像を創り出す
もちろん、映像的にも、演技的にも、「万理華と貴恵」と「話し掛ける人」の目線の角度は一定の方が見やすいし、演じやすい。しかし、理論的に考えるとおかしいのだ。でも、今作では、そこは統一した。「切り替え」は統一していないのに。なぜなのか?
それは、論理的な辻褄よりも、映像や演技の観点から自然な方を選択したからだと思う。このような、各演出家の個性を生かす部分と、連ドラとしての統一性をしっかりと担保する姿勢が、今作のような見応えのある映像を創り出すのだと思う。
最終回で最も秀逸だったのが、自家農園での屋外ロケシーン
ストーリーについては、あちこちで大いに語られているだろうから、当ブログでは引き続き、演出について語ろうと思う。
最終回では幾つもの映像ならではの秀逸なシーンがあったが。その中で、どうしても触れておきたいのが、終盤の40分ごろからの「自家農園」でのシーンだ。
蓮司はいるものの、新島家でもなく、寺カフェでもない場面で、更に「昼間ではない夜から早朝に掛けての屋外ロケ」は時間的にも大変だったと容易に想像できるが。秀逸なのは、ワンカットも「石田ゆり子さん」が登場しないこと。
新島家の再生を描くのに、敢えて「石田ゆり子さん」を登場させない斬新で効果的な演出技法
漏れ伝わる情報では、監督の坪井氏が今企画が立ち上がった約2年前から、毎田暖乃さんに出演オファーして、2年かけて口説き落としたとされている。それだけ、坪井氏は毎田さんに賭けていたのだろう。本来なら、石田ゆり子さんを登場させて(大人の事情でロケに参加できなかった可能性もあるが)描いた方が圧倒的に分かり易い。
しかし、そこを敢えて万理華の姿のまま貴恵の台詞で会話劇を成立させたことで、視聴者が脳内で自由に映像を想像して編集する “余地” を残したと思う。その “余地” こそが、視聴者がドラマに、いや劇中の登場人物それぞれに “感情移入” させる隙間なのだ。ここを映像で埋め尽くしてしまうと、視聴者は提供されたものを見るしかない。
だが、余地があると、自由に解釈できるし、それが感情移入に、そして共感へ繋がっていくと思う。この辺の巧みな計算が施されて演出には脱帽だ。そしてそして、“目覚め” の表情一つで「貴恵から万理華へ」の切り替えを演じてしまった毎田暖乃さんの演技力も素晴らしいのは間違いない…
すべての人たちの人生に"新しい光"が差し込んで… が重要
さて、最終回のストーリーにも触れておこう。原作とは比較しない。
最終回は、貴恵が生前にやりたかったこと、やり残したことを「最後の一日」に、たくさん盛り込んだ。詰め込んだと言った方が正しいだろうか。そして、貴恵がやり残したことに関わった、夫の圭介(堤真一)と娘の麻衣(蒔田彩珠)を始め、すべての人たちの人生に “新しい光” が差し込んで、明るい未来が垣間見られるような展開だったように思う。
この「すべての人たちに…」と言うのが、とても重要で、これこそが、貴恵が思い残すことなく成仏できる大きな要素だったのではないだろうか。
<明日>と言う一日は、誰にも確約されていないと言う<平等な現実>
前回を見終えた時には、前々回、もしくは前回で終わった方が、スッキリしたのではないかと感想に書いた。しかし、やはり、今作が描くべきは「貴恵の成仏」と言う “スピリチュアル” な要素ではなく、あくまでも「新島家の再生物語」だったと思う。
その中に、「圭介の次の人生」と「麻衣の独り立ち」と「貴恵の成仏」が内包されていた… と解釈すれば、今回の最終回が無くては、連ドラとして締まらない。
そして、「一日の大切さ」、「朝から始まる一日をどう生きるか?」、そして拡大解釈すれば「<明日>と言う一日は、誰にも確約されていないと言う<平等な現実>」が身に染みた最終回であり、全10話だった…
あとがき(その1)
約4年前、母が急逝した際に私が遺影を選んだことを思い出しました。先日の彼岸の入りにお墓参りにも行きましたが、「あの写真で良かったのかなぁ」と今も、遺影を見ながら書いています。
結局、「生まれ変わり」と言うファンタジーよりも、「魂の成仏」と言う仏教的なところに帰着したわけですが、意外と宗教の匂いは薄めにして、程よい感じの「癒しのドラマ」に仕上がったと思います。
あとがき(その2)
また、『妻、小学生になる。』と言うタイトルにも、いろいろな意味があると思います。まず、文語体であること。「妻が小学生になりました」では無いのですよ。日記のタイトルのようで、どこか、醒(覚・冷)めていると言うか、達観(真理や道理を悟り、何事にも動じない状態のこと)的と言いましょうか。
そして、「妻、小学生になる。」に続く文章は、何なのかを想像させてくれます。それが、どんな文章なのかは、視聴者一人ひとりが考えることだと思います。でも、私は、更に「悔いのないように、その一日を生きていこう!」と思い、「亡くなった人たちへ、改めて温かい想いを馳せたい」と思いました。やはり、素敵なドラマだったと思います。
★本家の記事のURL → https://director.blog.shinobi.jp/Entry/16693/
【これまでの感想】
第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話
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