【脚本プチ講座 第2弾】伏線と回収とは?「ご都合主義」や「予定調和」になる理由を解説!

まえがき
こんにちは。『ディレクター目線blog』の管理人・みっきーです。
今回の投稿は、最近のドラマに関するブログや SNS で良く見掛ける「伏線と回収」について、私の拙い知識と僅かな経験から「一般的な用法」について少し書こうと思います。また、私の誤解、例外な用法もありますので、あくまでも参考程度に読んで頂ければ幸いです。
少し長い文章ですが、上から順番に読んで頂けると嬉しいです(謝)
伏線と回収とは? 《見出し》
- ドラマや脚本に於ける "伏線と回収" は如何なるものか?
- 「伏線」と「回収」の単純な構造や仕掛けについて
- 「伏線」は、主に"起承転結"に於ける"転"のために張る
- 良い"伏線"には、視聴者が受け入れやすい"理由"が必要
- 「伏線の張り方」には、大きく分けて"2つ"ある
- 「気付かせるタイプ」の伏線とは?
- 「気付かせないタイプ」の伏線とは?
- 両方の伏線に使える"修正の仕方"を伝授します
- イレギュラーな伏線をご紹介
- 「伏線が思い当たらない回収」と言うのもある
- プロの脚本家は「伏線と回収」をどのように捉えているのか
- 現実の脚本では、様々なエピソードの中に伏線と回収を設定
- 【補足】「伏線」と「フラグ」「前振り」「布石」の違い
- 「伏線と回収」が秀逸な映画を、1本だけご紹介します
- 後半で次々と伏線を回収し、最後に衝撃のラストが!
- あとがき
- 最後の最後に。脚本関連の書籍でおすすめの一冊です。
ドラマや脚本に於ける "伏線と回収" は如何なるものか?
現在放送中のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』への SNS やネットニュースなどで、最近、度々話題になっているのが、「ドラマや脚本に於ける “伏線と回収” は如何なるものか?」と言う点ですよね。
私も、当ブログで「伏線」と「回収」と言う単語は使います。ただ、私自身は、ドラマや脚本に於いて「伏線」と「回収」について、さほど重要視はしていません。
ですが、今回は、「なぜ、私が伏線や回収に対して拘らないのか?」を含めて、10代の頃の映画学校での脚本や演出の授業から、今までに学んだこと、また、ドラマや映画の脚本では無いですが、イベントや映像制作に於いて私が書く「進行台本」や「映像シナリオ」で培ったものを、少し書こうと思います。
「伏線」と「回収」の単純な構造や仕掛けについて
「伏線」と「回収」を考える際に、多くの人は「回収が見事だ!」とか「神回収!」とか言いますよね。でも、このような人は、私に言わせれば、そもそも「伏線」と「回収」が何であるのかと言う根本的なことが分かっていない人なのです。
そう、「回収」を考えるためには、「伏線」がきちんと張られていないとダメなのです。では、最初に、「伏線」と「回収」の単純な構造や仕掛けについて書きます。
「伏線」は、主に"起承転結"に於ける"転"のために張る
「伏線」は、主に “起承転結” に於ける “転” のために張るケースが一般的です。もちろん、それ以外の部分に張ることもあります。しかし、基本的には物語が大きく動く “転” のために張ります。因みに “転” とは、物語が急展開する時や、アッと驚く展開の時です。
そう、物語がひっくり返るイメージ。そして、脚本家は、その “転” をどれくらい大きくひっくり返せるかで、物語の面白さが大きく変わるので、念入りに伏線を張ります。当然、上手くひっくり返せれば、脚本やドラマの完成度もずっと高くなりますから。
良い"伏線"には、視聴者が受け入れやすい"理由"が必要
但し、過剰に大きく物語をひっくり返そうとして、「奇抜な伏線と回収」をセットで物語に組み込むと、物語が唐突になります。要するに、「唐突さ=ご都合主義」と言うものです。例えば、ピンチになった主人公がいるとします。
そこに主人公を助ける脇役(仲間)を登場させたい。そんな時に重要なのが、「どんなキャラクターが」「どんなタイミングで」「どのようなカタチで」助けに来るのか… が重要なのです。
例としては、「助ける仲間=敵だったキャラ」と言うのがありますね。敵が翻るってパターンです。でも、これ、相当に上手くやらないと「なぜ?」ってなりますよね。そう、これがご都合主義。他にも、突然、仲間が天から降って来るみたいなパターンもありますよね。でも、これも「いきなり?」ってなりますよね。だから、ご都合主義。
結局、奇抜に “仲間” を登場させるには、視聴者が納得できる、受け入れやすい “理由” が必要なんです。その “理由” は、出すタイミングも重要で。あとから出しても良いですが。これも上手くやらないと「後出しジャンケン」と言われてしまいます。
ですから、登場する前に “理由” を “何気なく” 示しておくのです。そうすれば、視聴者は「なるほど。あれがあったから、今ここで出て来たのか!」となるのです。そう。これの “事前に提示する理由” こそが「伏線」です。そして、“視聴者の納得” が「回収」なわけです。
従って、伏線は “転” の前、“起” や “承” で張っておくのが無難です。
「伏線の張り方」には、大きく分けて"2つ"ある
さて、大まかに「伏線」と「回収」の関係が分かったところで、今度は「伏線の張り方」に話を進めます。「伏線の張り方」には、大きく分けて、「気付かせるタイプ」と「気付かせないタイプ」の2つがあります。
「気付かせるタイプ」の伏線とは?
まず、「気付かせるタイプ」は、伏線を張った時(出した時)に、視聴者に「んっ?」と引っ掛かりを覚えさせる手法です。この “覚えさせる” のが重要です。視聴者の記憶に残るため、伏線を回収する時に分かり易くなります。では、どうやって、気付かせるか? 簡単です。唐突なシーンにすれば良いのです。
今までスムーズで順調に流れて来たストーリーに、突然、これまでとは無関係なシーンを作るだけです。そうすれば、自然に “違和感” が生じて、視聴者の記憶に残ります。ただ、この手法を使う時は注意が必要です。あまり長い尺のシーンにしてはいけないと言うことです。
なぜなら、唐突で違和感があるシーンが “長い” と視聴者の違和感が増し過ぎて、折角の集中が “途切れて” しまうからです。ですから、使う場合は、映像でも、数カット、数秒のシーンに留めておくのが賢明です。
また、「気付かせるタイプ」は基本的に作品を “安っぽく見せてしまう” と言う欠点があります。一般的には「予定調和」と言いますね。そうなると、もはや、伏線とは言えなくなります。
「気付かせないタイプ」の伏線とは?
もう1つの「気付かせないタイプ」は、張るのが非常に難しいです。なにせ、伏線を自然に埋め込んで、物語の流れを阻害しないように溶け込ませないといけないですから。
ただ、成功した場合の成果は大きいです。まず、視聴者が「なるほど! 面白い」と思ってくれます。また、作品全体の構成力の高さが評価されます。所謂、「名作」と言われる作品は、この「気付かせないタイプ」の伏線の張り方が、絶妙な作品が多いです。
失敗した場合は、取り返しがつきません。要するに、視聴者が伏線に “気付かないまま終わっちゃう” 時ですね。だって、伏線を覚えていないと言うことは、前述の “理由” に視聴者が納得できないと同義だからです。従って、これも「ご都合主義」と評価されてしまいます。
両方の伏線に使える"修正の仕方"を伝授します
では、ここで脚本を書くテクニックとして、前述の「気付かせるタイプ」と「気付かせないタイプ」の伏線の両方に使える “修正の仕方” をお教えしましょう。これを知らない、知っていても出来ない、やらない脚本家が多いですが。
まず、全体を読み返してみて、回収が唐突に感じたら、伏線を張ったシーンを全体の中で分かり易くするのです。まあ、これは当然ですよね。もう1つは、伏線を回収した時に、《解説のナレーション》 を入れたり、《伏線を張ったシーンを回想シーンとして再提示》する方法です。これなら、視聴者が「そうだったのか…」と納得できますよね。
ただ、後者は注意が必要です。まず、「説明=野暮なこと」だからです。野暮なことはカッコ悪いですよね。それと、「説明=物語の流れを止める」からです。従って、説明する際は、野暮ったくならず、スマートに終わらせるために、出来るだけ尺を短く処理する必要があります。
イレギュラーな伏線をご紹介
さて、ここまでを読んで、だいぶ「伏線と回収」について理解が深まったのではないでしょうか? そこで、イレギュラーな伏線をご紹介します。
それは、「回収する見込みが立っていない伏線を張る」と言うテクニックです。基本的に、伏線と回収は “セット” で考えるべきなのは、既に学んだ通りです。しかし、それが不可能な場合があるのです。例えば、長期連載モノの漫画や、逆に途中で連載打ち切りになる漫画、それに最終回まで内容が決定していない連続ドラマなのです。
大人の事情や世間の評判などが理由で、準備していた結末と違った結末にしなければならない場合も当て嵌まります。
この場合は、例えるなら「種だけを蒔いておく」と言うことです。どの種から芽が出て、花が咲き、実が生るかは分かりませんが、先々のことを考えて「種を蒔いておく」のです。これで失敗する連ドラが最近多いですね。要するに、種の蒔き過ぎで、全部を回収しなくてはならなくなった時、回収が追いつかないケースです。
このケースに陥る作品は見ていて途中で分かって来ます。「なんか、やたらと意味不明なシーンが多いな」って。それと、あっては困りますが、脚本家自身が伏線を張ったことを忘れている場合もあります。長期連載の漫画や、連ドラで見掛けます。この場合は「あの~、以前の設定と違うんですけど…」みたいなパターンですね。
「伏線が思い当たらない回収」と言うのもある
また、更にイレギュラーなものとして、伏線が思い当たらない回収があります。これは、前述した「気付かせるタイプ」と「気付かせないタイプ」の伏線の張り方の “下手” な時にも該当します。要するに、唐突に “結末” や “結論” 染みたものを提示してくるパターンです。
脚本家は、何らかの意図で、伏線や回収のつもりで提示したのに、視聴者には “心当たりがない” と言うパターンです。これは、ハッキリ言って惨めです。脚本家や演出家の自己満足とも捉えられかねませんから。と言うわけで、脚本家は伏線を張った場合はメモして残すべきです。
プロの脚本家は「伏線と回収」をどのように捉えているのか
さて、ここでプロの脚本家は「伏線と回収」をどのように捉えているのかを見てみましょう。私が参考にしたのは、ドラマ『コンフィデンスマンJP』等のオリジナル作品の脚本を数々手掛けた脚本家・古沢良太氏の『脚本家・古沢良太が“巧みな伏線回収”を「ズルい手段」と言う理由』と言うインタビュー記事です。
脚本家・古沢良太が“巧みな伏線回収”を「ズルい手段」と言う理由 |BEST TiMES(ベストタイムズ)
古沢氏は「巧みな展開は、どのように作るのか?」と言う質問に次のように答えています。
伏線を張って回収する作業って、実は全然難しくないんですよ。簡単です。むしろ「ズルい手段だな」っていう気もするくらいで。※原文ママ
そして、“ズルい” と言う理由については、次のように述べています。
具体的に説明するのは難しいんですけど、たとえばアッと驚く展開を見せたいときとか、物語を急展開させたいとき、普通にその場面を描くと「この人なんでこんな行動するの? 急すぎない」と見ている人は思ってしまう。でも、そこから遡って伏線を入れておくと、見る側は納得してくれるんです。「ああ! あのとき、ああいうことを言っていたから、こんな行動をしたのか」って。だからズルいやり方なんですよ。伏線も一切なく、キャラクターの心変わりを丹念に描いていくことで物語を急展開できるなら、そっちのほうが凄いことだと思います。※原文ママ
やはり、伏線は上手く仕掛けるのが大前提で、それ以前にやらないで済むなら、その方が脚本としては面白いし、凄いと言うことです。
当然のことだと思います。なぜなら、「気付かせるタイプ」だろうが、「気付かせるタイプ」だろうが、分かる人には分かるのが仕掛けですから。仕掛けずにアッと言わせることが出来るなら、それが最良に決まっていると言うことです。
現実の脚本では、様々なエピソードの中に伏線と回収を設定
以上が、伏線と回収に関する解説です。何となく、分かって頂けたでしょうか? 今回は「起承転結」に於ける「転」での使い方に限定しましたが、現実のドラマなどの脚本では、様々なエピソードの中に伏線と回収を設定しています。それが、次々と連鎖反応を起こして、ドラマに深みが出たり、面白さが増したりするのです。
【補足】「伏線」と「フラグ」「前振り」「布石」の違い
また、補足をします。「気付かせるタイプ」の伏線と、一般的に言う「フラグ」「前振り」「布石」とは厳密には異なります。今回では詳細な解説は避けますが、ざっくり言うなら…
●「フラグ」は、お決まりのパターンが待っている時に立てる “合図”
●「前振り」は、本題に入る前の “きっかけ”
●「布石」は、先の展開のための “手配”
です。まあ、3つ共に「お知らせ」みたいなものです。一方の「伏線」は「仕掛け」です。ちょっとした違いですが、お分かり頂けますか? この辺は、「脚本プチ講座」の次があったら、その時に改めて解説します。
「伏線と回収」が秀逸な映画を、1本だけご紹介します
最後に、伏線と回収が秀逸な映画を、1本だけご紹介します。出来るだけ、多くの人が見たことは無いと思われる作品から選びました。その映画は、2016年に劇場公開された、“衝撃のラスト” で魅せるSFスリラー映画『エクス・マキナ』(公式サイト)です。
物語の骨格は、「人間とロボットの禁断の恋バナ」と「ロボットが自分を作ったご主人様である人間を亡き者としようとするスリラー」の二重構造ですが、登場人物も場所も限定された “極めて最小限のアイテム” で見事に構成される引き締まった無駄のない物語で、人間と人工知能の主従関係を巡る心理戦を、斬新なストーリーと映像で魅せて行きます。
後半で次々と伏線を回収し、最後に衝撃のラストが!
秀逸なのは、本当の実験の目的と言うを巧みに隠しながら物語が進んで行き、後半で実験の目的が明らかになりますが、更にその先に衝撃のラストが待っていると言う、圧倒される回収です。これ以上書くと、ネタバレになりそうなほど、前編が伏線だらけなのです。
興味を持った方は、是非とも見てみて下さい。ただ、不気味な雰囲気が苦手な方は、避けた方が良いかも知れません。ただ、必見の価値は十分にあります。Amazonサイトのレビュー評価をチラッと読んでも、本作の秀逸さは分かると思います。
あとがき
『[演出プチ講座] 映像の掟~画面内の人物の位置や視線(目線)の向きには意味がある~』と『【脚本プチ講座】脚本家と俳優と演出家の関係とは? 良き脚本「強い物語」とは? ※現在放送中の連続テレビ小説『おかえりモネ』完全対応版』に続く第3弾『【脚本プチ講座】伏線と回収とは?「ご都合主義」や「予定調和」になる理由を解説!』は、如何だったでしょうか?
本当は、実際の脚本や映像を見ながら解説すると分かり易いのですが、今回は、脚本を書く立場と、視聴者の立場の両方から、伏線と回収を掘り下げて解説しました。皆さんの、ドラマ鑑賞ライフのお役に立てれば幸いです。
最後の最後に。脚本関連の書籍でおすすめの一冊です。「更に、脚本を掘り下げてみたい方」や「脚本家が、どんなことを考えて “ウケる脚本” を書いているのか知りたい方」におすすめです。
本当は、実際の脚本や映像を見ながら解説すると分かり易いのですが、今回は、脚本を書く立場と、視聴者の立場の両方から、伏線と回収を掘り下げて解説しました。皆さんの、ドラマ鑑賞ライフのお役に立てれば幸いです。
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★本家の記事のURL → https://director.blog.shinobi.jp/Entry/16675/
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