エンディングカット〔全1回〕 (第1話・2022/3/19) 感想

NHK・土曜ドラマ『エンディングカット』
公式リンク:Website、Twitter、Instagram
第1話〔全1回〕『エンディングカット』の感想。
迫田結(芦田愛菜)は美大進学を目指す高校三年生。両親が経営する小さな美容室の一人娘だ。最近、父の和俊(佐藤隆太)の様子がおかしい。店を母の七海(広末涼子)に任せて、自分は出張カットばかりしているのだ。不審に思った結は父を尾行するが、たどり着いたのは葬儀場だった。和俊は「エンディングカット」という、ご遺体の髪を切る仕事をしていたのだ。
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
原作:新井まさみ(NHKオーディオドラマ「エンディング・カット~私たちが選んだ最後の家族の時間~」)
脚本:大池容子
演出:原英輔(過去作/オーディオドラマ「エンディング・カット」、おかえりモネ)
音楽:小田朋美、石若駿
挿入歌:中村佳穂「circle」
制作統括:松川博敬(篤姫、てっぱん、カーネーション等の演出担当)
既に2019年にラジオドラマとして放送、受賞した名作!
遺体の髪を切る「エンディングカット」と言う実在の職業をモチーフにした、一つの家族の別れの物語を描いたヒューマンドラマが今作。
と言うのも、今作は既に2019年2月2日にNHKラジオ『FMシアター』でラジオドラマとして放送され、令和元年度文化庁芸術祭ラジオ部門大賞を受賞した、既に評価されている作品を原作にした「実写ドラマ版」なのだ。
もちろん、私はそのラジオドラマを聴いて、感想も投稿済みだから内容は見る前から知っていた。因みに、ラジオドラマ版では、当時14歳の芦田愛菜さんが、「中学二年生の七海」を演じていた。その意味で、今作のベースになる部分だけプチ解説してみたい。
FMシアター「エンディング・カット~私たちが選んだ最後の家族の時間~」 (2019/2/2) 感想
今作の美容室と設定には、実在のモデルがある
今作のモデルとなったのは、三重県員弁郡東員町の「(株)あっとほーむ エンディングCut ピュア」(公式サイト)と言う実在の美容室だ。そして、この美容室は、理容師・美容師は、胎毛筆(赤ちゃんの髪の毛で作る筆)に始まり、故人の髪を遺族の依頼によってヘアーセットする、「ゆりかごから墓場まで」をコンセプトにした会社。
劇中にも登場した理美容室へ行くことの出来ない高齢者等の居る施設や病院や自宅に行って理美容サービスを行う「訪問理美容」を始め、映画『おくりびと』で知られるようになった納棺師の資格を持つ理美容師が「エンディングメイク」と言われる死化粧を行う「死化粧師」の派遣もやっている会社がモデルになっている。
まあ、能書きはこれ位にして…
"死の受容の過程"を慎重に丁寧に希望を持って描いたドラマ
美大を目指す高校三年生の主人公・迫田結(芦田愛菜)が、エンディングカットの仕事をする父親・和俊(佐藤隆太)の姿を通して、決して避けて通れない母・七海(広末涼子)の死に向き合いながら成長していく物語だった。
死ぬことが分かっている七海の自身の「死の過程」と、大切な人の「死の受容」と、そのために必要な「儀式の意味」を描きながら、「人間の尊厳の永遠性」を3人のそれぞれの立場だけでなく、他の脇役たちの “受容の過程” も挟みながら、慎重に丁寧に暗くならないように描く配慮に満ちたドラマだったように思う。
死の過程に大切な「儀式の意味」がシッカリと描かれている
今期は偶然だろうが、「妻や母を亡くした、遺された家族の再生ドラマ」がもう1作品放送中だ。どっちが良いとか比べることは出来ないが。私は、大きな違いとして、前述の「儀式の意味」を描いているかどうかがあると思っている。
仏教で言うなら、通夜、告別式、初七日、納骨式、四十九日法要、一周忌法要と、悲しみに暮れている暇が無い位に行事がある。葬儀屋さんや菩提寺との折衝もある。当事者になると分かるが、とても面倒でややこしいことだが、一つひとつをクリアすることで、大切な人の「死の受容」が少しずつだが出来ているような気持ちになる。
「人間の尊厳の永遠性」の確認作業が凝縮された家族の絆の物語
それは、決して故人を忘れることとは違う、「人間の尊厳の永遠性」の確認作業のようなことを、75分間のドラマにギュッと集約したのが今作だと思う。ラジオドラマでは出来なかった「映像で見せる心情描写」や、映像ならではの “演技の間” の使い方など、新鮮に見えた。
あとがき
東日本大震災から11年、そして奇しくも、その被害や苦しみが癒えぬ数日前に宮城県・福島県に震度6の地震。そして、ロシアのウクライナ侵攻による民間人の多くの死の報道が、未だに続く日本で、テレビ各局の連ドラが最終回を迎えつつある時期に、単発の『土曜ドラマ』でNHKが今作を放送した意味を考えてしまいました。
実は今年は珍しく、東日本大震災関連のドラマが無かった(と思います)のです。昨年は「10年目」と言うことで数本が放送されましたが。
また、コロナ禍で貧困に苦しんでいる人たちや、自ら死を選んでしまう人が増えている今、家族の絆、人間の尊厳、いのちについて、改めて考えるドラマとして、放送した価値はあったと思います。もちろん、好みはあると思いますが…
※見逃し配信は、NHK+(リンク)にて。
★本家の記事のURL → https://director.blog.shinobi.jp/Entry/16674/
- 関連記事