最愛 (第5話・2021/11/12) 感想

TBS系・金曜ドラマ『最愛』
公式リンク:Website、Twitter、Instagram
第5話『9年ぶりの再会… そして15年前の夜何が起こったのか?』の感想。
梨央(吉高由里子)は、弟の優(高橋文哉)とついに再会を果たす。一方、大輝(松下洸平)は15年前に大麻事件を起こした元陸上部員の長嶋(金井成大)を訪ね、事件当夜に関してのある重要な証言を得る。そんな中、真田グループの情報を嗅ぎ回るしおり(田中みな実)について調査する加瀬(井浦新)は、後藤(及川光博)との接点を突き止める。
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
原作:なし
脚本:奥寺佐渡子(過去作/夜行観覧車、Nのために、わたし、定時で帰ります) 第1,2,3,5話
清水友佳子(過去作/夜行観覧車、わたし、定時で帰ります、朝ドラ「エール」) 第4話
演出:塚原あゆ子(過去作/アンナチュラル、グッドワイフ、グランメゾン東京、MIU404) 第1,2,5話
山本剛義(過去作/凪のお暇、コウノドリ2、わたナキ、オー!マイ・ボス!恋は別冊で) 第3,4話
村尾嘉昭(過去作/アンナチュラル、Nのために、キワドい2人、死にたい夜にかぎって)
音楽:横山克(過去作/わろてんか、映画「ちはやふる」シリーズ、ドリームチーム、メネシス)
主題歌:宇多田ヒカル「君に夢中」
「奥寺佐渡子×塚原あゆ子」しか創れないアバンタイトル
毎回、期待をして観ているのだが。今回の冒頭からの数分間は、鳥肌が立った。クレジットタイトルを見なくて、誰が創ったのか一目瞭然の秀逸なアバンタイトルに…だ。
遂に9年ぶりの再会を果たした梨央(吉高由里子)と弟・優(高橋文哉)の “9年間” を、次回までの “おさらい” を入れずに、シーン頭(最初)から優のモノローグで、グイグイと畳み掛ける脚本と演出のコンビは、「奥寺佐渡子×塚原あゆ子」しか出来ない。
「今回が最終回」と言われても、反論できない程の濃密で緻密な素晴らしいストーリー展開
とにかく、静かに始まりながら、音楽で不穏な雰囲気と緊張感を醸し出して、僅か1分ほどで、視聴者を第4話のラストの続きへ、すんなり誘(いざな)う。もう、この1分間を見ただけで、今回が、今作の重大な折り返し地点であり、いよいよ怒涛の後半戦の開幕を予感させる、素晴らしいイントロダクションだ。
いや、この第5話は称賛の意味で言いたい。「突然、エンディングで、「今回が最終回です」と言われても、反論できない程の濃密で緻密な素晴らしいストーリー展開だった…」と。
「ただの刑事たちの会話劇」に終わらせない塚原あゆ子氏の演出
と言うわけで、今回の感想は前半戦とは言え、本作の最終回の感想を書くつもりのハイテンションでビシッと綴る。
とにかく、カット割りが凄い。アングルも画角も良いが、それよりなにより素晴らしいのが “ワンカットの長さ” と “編集に於ける前後のカットの選び方” だ。やや、専門的になるから、嫌な人は飛ばして構わない。
例えば、4分頃の刑事部屋でのシーン。実際には、刑事たちが事件捜査の進捗状況をやり取りしているだけなのだ。しかし、言葉では表せない程の素晴らしさで、回想シーンを入れ、その回想シーンにも最適なエフェクト処理をして、「ただの刑事たちの会話劇」に終わらせない。
たった1秒間にも満たないようなワンカットだけで、刑事たちの一体感を描く演出力
中でも特筆すべきは、大輝(松下洸平)以外の刑事たちが喋っている時の、所謂「受けの大輝」の魅せ方の妙だ。座った姿勢から、立ち上がり、一旦カメラは大輝の背後に回って、真正面へ。あの背後に回った、たった1秒間にも満たないようなワンカットだけで、刑事たちの一体感を描いた。
やはり、以前にも書いたが、撮影現場で、自分がカメラのモニターに映った違和感を直接、(普通は、ADを経由するのに)ディレクター本人がカメラマンと演者に伝えると言う塚原あゆ子氏独自の演出手法が余すことなく活かされている。だって、あのワンカットのために、カメラとライティングを全部移動修正するわけだから。
でも、それをやった効果は十分過ぎる程に出ていることに、気付いて欲しい! 因みに、塚原氏が気付いた違和感とは何か? 私が想像するに、前述の通り、「刑事たちのこの事件への一体感の創出」に違いない。
視聴者の誘引方法が、良い意味で、えげつない程に巧みに練られている
さて、演出について語ったから、今度は脚本だ。
梨央が優と逃避行を続けながら、過去の事実を思い出し。一方の大輝は、概要の事情は既に承知済みの上で、二人を追い掛ける。これが、今回の大まかな筋書きだが。
私がハッとしたのは、第2話だったろうか、事件が詳細に描写された時の “あるテン(点)” が、大変気になったまま、第5話まで連れて来られた状態で、加瀬(井浦新)が、優が犯したされる事件の謎に繋がる “あるコト” を掴んだこと。恐らく、この “あるコト” が、後半戦の “カギ” であり、“コア(芯)” になるのだろう。
で、後藤(及川光博)は後藤で自社の不正を隠ぺいするために陰で暗躍し動く。この辺の、過去と現在、そして私たちが見たくてしょうがない “未来” であり “本当の結末” までの視聴者の誘引方法が、良い意味で、えげつない程に巧みに練られている。
私たちは、この脚本に最終回まで引き摺り回され続けるに違いない
表面上で分かっている事実を如何にドラマチックに並べても、それはただの “前半戦のおさらい” でしか過ぎないことは十分承知しているから、きちんと後藤を使って、ストーリーを二重構造にした上に、現在と過去、人物関係も利用して “パラレルワールド” まで構築し、視聴者を飽きさせない工夫を施しまくっている。
正直、(良い意味で)十分過ぎて食傷気味だが、脚本家の中に “どこまでもさり気なく巧みに飽きさせない心理” が充満している限り、私たちは、この脚本に最終回まで引き摺り回され続けるに違いない。幸せなことだが…
切ないのに美しい"引き裂かれる運命"の描写は見事だった!
終盤の、梨央と政信と優の父・達雄(光石研)のノートパソコンに残っていた、達雄の真実の告白動画の再生シーンから始まる、緊張感と緊迫感溢れるシーンも、素晴らしかった。「何もかんも全部 私一人がやりました」と “真実” を、中盤に登場した墓参りのシーンへ上手く重ねて、墓まで持って行った父の最期の愛。
その愛を知った梨央と優の複雑な心情と離ればなれだった期間への思いを全部背負って、苦悩と葛藤と刑事の使命感で、二人を引き離した大輝。技術的には難しい手持ちカメラでのスローモーションを多用したカット割りと、ドローンの俯瞰映像で魅せる、切ないのに美しい “引き裂かれる運命” の描写は見事だった。
あとがき
一体、このドラマにとっての “最愛” とは、私たちが日常的に感じる「最愛」と違うのでしょうか?
大輝は梨央と優へ、梨央は雄へ、優は贖罪を背負いながら、それぞれの相手に “交錯しない最愛” を向けています。この、決して普通には「最愛」と言えない “交錯しない最愛” が最終的に、“互いに向き合える最愛” になるのでしょうか? いや、まだ大どんでん返しが待っているような。
それにしても、本作の各話のストーリーと演出家のコンビの組合せが絶妙過ぎます。何せ、まだ、『アンナチュラル』チームの村尾嘉昭氏が、登板していませんから。何が起こっても不思議ではないと思います。
★本家の記事のURL → https://director.blog.shinobi.jp/Entry/16218/
- 関連記事