【エンタメの歴史プチ講座】演劇の「舞台記録」を,更に面白くしようと試行錯誤したのが,映画やテレビドラマのカット割りでその原点こそが"演劇の観客一人ひとりの視点"だと言うこと

私の、脚本は"緻密な設計図"、俳優は"優れた建材"、演出は"器用な大工さん"論
先日、『ドラゴン桜[2] (第6話・2021/5/30) 感想』の中に私が書いた「脚本、俳優、演出には、それぞれの役割がある」と言うことを、建築に例えて書いた部分」に興味を抱いて下さった読者さんから、ご自身が「演劇に関わっているので、活用したい」とのコメントを頂きました。
【脚本プチ講座】を未読の方、是非一読を!(勿論、無料)
実は、このことは、既に『【脚本プチ講座】脚本家と俳優と演出家の関係とは? 良き脚本「強い物語」とは? ※現在放送中の連続テレビ小説『おかえりモネ』完全対応版』に、超詳細に書いておりますので、ご興味を持った方は読んでみて下さい。きっと、今後のテレビドラマや映画を見る際の参考になるはずです。
テレビや映画と、演劇の違いについて独自の論理展開します
そこで、今回は、前述の「演劇に関わっているので、活用したい」に、実際に私がお返事した内容をブラッシュアップさせ、その上で、テレビや映画と、演劇の違いについて、独自の論理展開をしようと思います。「テレビも、映画も、演劇も好き」と言う読者さんは、一読の価値があるはずです。
映像と演劇の大きな違いは、「視点の違い」である
「映像(ドラマや映画)」と「演劇」の大きな違いは、私は、「視点の違い」だと思います。「映像(ドラマや映画)」の “視点” は飽くまでも「カメラ」であり、最終的には演出家(監督)です。そして、演出家(監督)の意図によって「切り取られた映像」を観客は見せられて、テーマや結論に誘導されるのです。
「演劇」の "視点" は「観客一人ひとり」だけ!
しかし、「演劇」の “視点” は「観客一人ひとり」です。演出家や俳優が「見て欲しい」と思っても、観客は自分の興味のある部分だけを見るのです。それも、視点の画角(意味、わかりますか?)も、自分で決めます。だから、どこをどう見られても良いように作らないと、演劇のテーマや結論は観客に伝わりません。
舞台演劇では、ある意味で映像より「腕のいい大工の棟梁=演出家」が必要
例えば、今観ているのが、演劇の「殺人事件の現場のシーン」だとしますよね。作り手(ここでは、脚本家、演出家、舞台監督を主に表します)は「凶器」、それも「アップ」で “観客” に注目して欲しいのに、観客は「美しい女優さんが演じる死体」に注目してしまうなんてことは、良くあります。
そこを、上手く「凶器のアップ」に観客の目を惹きつける技術が、脚本と演出と演技に要求されます。
更に、「演劇」は、リアルタイム(DVDや録画で見るのは別物とする)で魅せるエンターテインメント作品です。従って、秒単位で観客の視点をコントロールして、観客が自由に見ても良い時間帯と、演出家の意図に沿って絶対に見てもらわないといけない場面を作って、メリハリを付けないと、飽きられます。
私も、二十代の頃は、小劇団を主宰している知り合いから舞台演出を頼まれたことがあります。映像と全く違う世界に、本気で戸惑いました。その意味で、脚本家が書く「緻密な設計図」は必要ですが、それ以上に、舞台と観客席、俳優と観客、そしてスタッフを完全に正確に制御できる「腕のいい大工の棟梁」が必要だと思います。
ここまでが、以前にコメント返信で書いたものを、少しブラッシュアップさせて部分。ここから、更に掘り下げるので、是非とも、私に付いて来て下さいね。
「最初に始まったのは"演劇"」とだけ覚えておいて下さい
先ほど「DVDや録画で見るのは別物とする」と書きました。実は、エンターテインメント作品の歴史の順序は次のようになっているのです。細かい年代は省きますから、順序だけ覚えておいて下さい。
まず、最初に始まったのは、「演劇」です。要は、舞台のような場所があって、そこで演技者が誰かに成りすまして演技をするのを、観客が見ると言うスタイル。本当は凄く歴史的に細分化されていますが、「最初は、演劇」とだけ覚えて下さい。もちろん、演劇はどんどん人気が出て来ました。あちこちで、上演されるようにもなりました。
"演劇"の次が、フィルム映画による"演劇の記録"
しかし、人気の演目や俳優さんは、そう簡単にあちこちに移動して演じることが出来ません。そこで次に発明されたのが、「演劇の記録」です。今風に言うなら「演劇の録画」。
フィルム映画は、「演劇の記録」のために発明されたと言っても過言ではありません(諸説あります)。従って、初期の映画は、ほぼ全てが「演劇の記録」。そう、今で言う「舞台中継」風の映像だったのです。
そして、その頃の映画のフィルムも撮影機(カメラ)も、投影機も大変高価なものでした。ですから、1台のカメラを客席の一番後ろに置いて、舞台全体をず~っと録画すると言うスタイルでした。これが、映画の始まりでもあります。
「1台のカメラを客席の一番後ろに置いて、舞台全体をず~っと録画すると言うスタイル」の崩壊
ここから、映画は独自の道を模索します。「ず~っと、引きの画(遠くから舞台全体を見た映像)では、退屈だよ。何か、退屈しない方法は無いかな?」と考えました。そして、客席を入れない状態で、「演劇の録画」の工夫を探したのです。それが、「1台のカメラを客席の一番後ろに置いて、舞台全体をず~っと録画すると言うスタイル」の崩壊です。
複数のカメラマンが、自分の見たいところを撮影して、一本の作品に編集したのです。ここまで辿り着くには長い年月がかかりましたが、時代を飛ばして、こう覚え下さい。「カメラが自由に動けるようになったのが、 “カット割り” の始まり」だと。
その後の映画の発展は、ここで綴ると膨大になるので止めておきます。こうして考えると、演劇と映像の違いが、“観客の視点” であることが、歴史からも分かると思います。
少しお勉強から離れて、エンターテインメントの世界の話を
では、少しお勉強から離れて、エンターテインメントの世界の話をいたしましょう。まず、大前提として、私は、演劇と映像に上も下も無いと思っていると言うことです。ただ、好きなのは映像であると言うだけ。そこを頭の隅っこに置いて、次の話を聞いて下さい。
良く「テレビに出なくなった俳優さんが、演劇に出ている」とか、「映画より演劇を主体に活動している俳優さんがいる」なんて、噂話を聞きませんか? これには、私の持論がありまして…
実は、「映画やテレビドラマ向きでない俳優やタレントさんがいる」ってこと
まず、テレビや映画では、多数のカメラによる多アングルの撮影、アップや引きの際の演技の切り替えなどを出来るだけ短時間に行う必要があるので、本当に難しいことです。ですから、「俳優」や「タレント」なら全員が出来るなんてことはあり得ません。要は、「映画やテレビドラマ向きでない俳優やタレントさんがいる」ってことです。
そう言う人は、一度、映像業界から演劇業界へ移ります。もうご存知のように、演劇は基本的に「視点が1つ」ですよね。ですから、多少、演技が下手でも、舞台の後ろの方にいれば、観客にバレません。また、演劇は基本的に有料なので、ファンは温かい目で見てくれます。
そして、舞台の稽古や本番を通して、自分の演技などを見つめ直して、テレビドラマや映画に戻って来る俳優さんは、たくさんいます。
映画より演劇を主体に活動している俳優さんの心理は?
でも、「映画より演劇を主体に活動している俳優さんがいる」のも確かです。それは、カメラマンに切り取られた自分の演技ではなく、生身の自分の演技を観客に体験してもらえるからだと、私は推測しています(私は、演じる側をやってことがないので)。
むしろ、「たった1つしかない一人ひとりの観客の見たいものになりたいと言う欲求や欲望」もあるでしょうし、「舞台と言う生身の芸術だけが伝えられる力への魅力」もあるかも知れません。
舞台演劇も、テレビドラマや映画も、個性的で面白い
いずれにしても、舞台演劇でしか味わえない、生身の人間が演じる魅力や、限られた空間の楽しみ方、迫力、照明や音楽との一体感は、テレビドラマや映画とは違ったものがあります。逆に、テレビドラマや映画では、今やCGなどの撮影技術の進歩で、何でも出来てしまうと言う底知れぬ面白さや楽しみ方がありますし、今後も出て来るはずです。
あとがき
テレビドラマや映画と、演劇について、いろいろ書きました。どうでしょうか? 少しは何かの足しになりましたでしょうか。
でも、テレビドラマや映画や演劇も、違わないのは、やはり「脚本と演出と演技の関係」です。そこを押さえておけば、「なぜ、俳優さんたちは良いのに、このドラマは面白くないのか?」や「どうして、このドラマは、いつまで経っても面白くならないのだろう?」の答えが見つかるかも知れません。
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