俺の家の話 (第3話・2021/2/5) 感想

TBS系・金曜ドラマ『俺の家の話』(公式)
第3話『親バレ厳禁!! 覆面レスラーでリング復帰』の感想。
さくら(戸田恵梨香)と死ぬまでにしたいことをつづった寿三郎(西田敏行)の「エンディングノート」を見た寿一(長瀬智也)達。寿一はノートの隅に書かれて線で消された部分を見つけ、思案する。一方、寿一を訪ね、かつて所属していた「さんたまプロレス」の会長・コタツ(三宅弘城)らがやって来た。伝説級のレスラーを引き連れてきたコタツは、寿一に戻ってきてほしいと訴える。
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
原作:なし
脚本:宮藤官九郎(過去作/あまちゃん、ゆとりですがなにか、いだてん)
演出:金子文紀(過去作/G線上のあなたと私、恋つづ、逃げ恥) 第1,2話
山室大輔(過去作/天皇の料理番、グランメゾン東京、テセウスの船、キワドい2人) 第3話
福田亮介(過去作/初めて恋をした日、恋つづ、恋する母たち)
音楽:河野伸(過去作/おっさんずラブ、恋つづ、天使にリクエストを、知ってるワイフ)
冒頭3分間のテンポの良さと内容に、満点をあげたい
冒頭から凄いな。第3話から見始めた人でもサクッと分かるように、1分半でちゃちゃっと主人公・寿一(長瀬智也)の人物設定をタクシーの移動中でやってのけちゃうのだから。その上、プロレスラーのマスクと、感染対策のマスクの入れ替えをやって、劇中の時間が「コロナ禍」なのまで伝えてしまうのだから。
更に、さくら(戸田恵梨香)に「介護に『まさか』は ないんです」と尤もらしいことを言わせた直後に “遺産目当てヘルパー” の設定まで、ピッタリ3分。そう。このテンポの良さこそ、秀作ドラマの必修科目として満点をあげたい(偉そうだが…)
「介護はイベントだと思った方がいいですよ」と「楽しまなきゃ」も、在宅介護の的を射てる!
ケアマネージャーの末広涼一(荒川良々)が奇しくも言っていた「介護はイベントだと思った方がいいですよ」も、介護経験者としては正に言い得て妙な台詞だ。
私自身、10年以上に亘って両親の在宅介護(私は両親と別居していたが)をしていた身として、「要介護者」、特に要介護1や2の頃は “安定期” と “緊急事態” が “まだら” に来るから、都度都度の変化へ全力で対応すると本当に疲弊してしまう。
でも、100%ケアマネージャーさんを信頼していたから、仕事中に電話があって「お父さんが急に○○になりまして…」と前段を聞いただけで「あ、あ、あの~、で、私は何をしたら…」と動揺すると、「大丈夫です。報告義務があるので電話しただけで、全部こちらでやっておきました」なんてことが何度もあった。
そう言う意味では、イベント関連の仕事をしている私が言うのも変な感じだが、良い意味で、ホント良い意味で「このイベントには終わりがある」と思うことも、「終わりが見えない介護」を続ける秘訣の一つだと共感した。ついでに、舞(江口のりこ)が言った「楽しまなきゃ」も的を射ている… と、思う。
寿三郎が「シルバーカー」を贈られるシーンも本当にリアル
寿三郎(西田敏行)が初めて「シルバーカー」をプレゼントされるシーンも、本当にリアル。
私の父親なんて「要支援2」で、医師から杖を使うように言われて私が病院の売店ですぐに買って来たら、病院から家に帰る時は嬉しそうに使っていたが、帰宅した途端に「お父さんは老いぼれじゃない! 杖なんか使うか!」とそっぽを向いて、次に杖を使ったのは1年ちょっと後の「要介護1」認定が出て、自分でも杖が必要になった頃だったから。
その代わり、家の中に取り付けるバリアフリーの手摺りなどは機嫌よく使う。やはり、「屋外」と「屋内」では “見られる自分” の意識が違うのだと思う。でも、若い女性ヘルパーさんが来ると、頑固に手摺りは使わないとか(笑)
やはり「イベント」に付き合う気持ちは、心のどこかに仕舞っておいて、都合良く自分でアレンジして使い倒したら良いと思う。因みに、私も「介護は一種のイベント」派だったから、買ったのは「父の杖」が最初で最後。あとは、ずっとリースで済ませた。
だって、好みも状態もコロコロ変わる時期があるのだから。それがあるうちは、ある意味で「あの時は楽しかったなぁ」って。そのうち、悪い状態で安定しちゃうと、ホントに辛いから…
「能 → スーパー世阿弥マシン → 体幹 → 能」のスパイラルが秀逸過ぎる!
そして、寿三郎のエンディングノートの「家族旅行」の文字を見た寿一が家族旅行を計画して、更に「高齢者の親を持つあるある」的な、最後の家族旅行のくだりへ進むのかと思いきや、武藤敬司(本人役)と蝶野正洋(本人役)が観月家に突然現れて、寿一が “スーパー世阿弥マシン” として復帰すると言う展開へ急ハンドルを切った。
前述のテンポの良さと同様に、この「レスラーは辞めない」とは思ってはいたが、想像を超える衣裳付きで復帰させる展開には、度肝を抜かれた。だって、「能 → スーパー世阿弥マシン → 体幹 → 能」のスパイラルは読めないもん!
寿一の"能面が外れる"と"本来の力が復活する"くだりで…
また、寿一が能面が外れると本来の力が復活するくだりで思い出したのは…
能の演目「調伏曽我(ちょうぶくそが)」の不動明王役が専用に使う面で、室町時代の名役者・金剛氏正が、不動尊像の面部を割り着けて舞ったところ、顔から外れなくなり、無理に取ると血痕が残ったという伝説となっている「肉付き面」だと伝えられる重要文化財「不動」の存在を思い出した。
宮藤官九郎氏が、これを引用したのかは不明だが、興味のある方は、詳細はこちらに解説がある。
寿一が、さくらを"さくらを父親の残りの人生に必要な人として認めた勇気や切なさ"が台詞の言い回しに!
24分頃、さくらに寿一がこんなことを言った。
寿一「親父には あんたが必要なんだ。
家族にしか できないことがある
でも 家族には できないこともある」
長瀬智也さんは「家族には できねえこともある」と脚本から言い回しを少しぶっきらぼうで乱暴な言い方に変えていた。それが演技指導か長瀬さんのアドリブかは分からないが、この台詞が、この時点での寿一が真剣に父親の残りの人生と向き合う決意をするきっかけになる重要な台詞だと思うし、実際にそう進むから、ここのアレンジは凄いと思う。
そして、さくらを父親の残りの人生に必要な人として認めた勇気や切なさが、「できねえこと」に十分込められていた。こう言うさり気ない素敵な芝居をするから益々「俳優・長瀬智也」のファンになるのだ。それと、このシーンで流れた軽快なトランペットとエレキギターの劇伴が、シリアスでコミカルな雰囲気を上手く盛り上げたのも良かった。
能もプロレスも描写に手抜きが無くて、本格的だからスゴイ
そして、さくらが「私の家の話」を始める展開へ。前回で素性がバレたさくらの基本的な人物設定の説明がまだだった。
いつかやるとは思ったが、まさか第3話のど真ん中で『新作能 私の家の話』として、脳の音楽に使われる横笛の「能管」の高らかな音色から始まる演出も新鮮だし、プロレスのシーンがゴングの音で始まるのと対比されており、本当に本作は「能とプロレス」と言う真逆の芸能を見事にリンクさせ比較して繋げて描いている。
そして、能もプロレスも描写に手抜きが無くて、本格的だからスゴイの一言だ。間違っているかも知れないが、『新作能 私の家の話』の中で、アル中のロシア人が登場したが、あのウォッカの瓶を持っていた男がつけていた面が、大酒飲みで悪態をつく役「大悪尉(だいあくじょう)」の面(参考)に似ていた。
意図的な使用なら、美術スタッフも相当本気モードで作り込んでいるに違いない。
"介護認定度が下がった喜び"を介護者視点で描いた新鮮さ
「要介護1」から一時的に「要支援2」になることも、介護あるあるの一つではあるが、本作はそんな “あるある” を介護者ではなく、「要介護者(この時点では正確には「要支援者」と言うべきか)」の視点で、私が前回の感想で書いた、「要支援2」と「要介護1」の壁は想像以上に高く分厚いと言うことが、どれだけ寿三郎の気持ちを前向きにしたのかに、上手く利用した。
ついつい介護者は数字に目が行ってしまうが、当の本人にとっては第三者に「良くなっている」と言うお墨付きをもらった嬉しさは計り知れないのだろう。そこを私は自分の親へ気付いてやれなかったことを悔やんだ、いいシーンだった。
長瀬智也さんが「活動休止と 解散ほどの違い」と言う深さ
43分には、寿一にとっては “まさか” の元妻・ユカ(平岩紙)の恋人との妊娠が発覚。
寿一「夫婦をグループに例えるなら 活動休止と 解散ほどの違い
だが… その差は歴然と…」
この台詞も深い、深過ぎる。長瀬智也さんと宮藤官九郎の関係性があるから、書けるし、言える台詞だ。
だって、長瀬さんは2021年3月をもってTOKIOからの脱退し、且つジャニーズ事務所を退所、更に芸能界からも引退して音楽関係の裏方として新しい仕事の形を作り上げていくことを既に発表済みだから、これをレスラーのマスクを付けた鏡に映る長瀬さんの声で聞かせる脚本も演出も素晴らしい。
寿一が、「世阿弥」なのに「万媚」の面を付けた不釣り合いについて考えてみた
私の拙い能の知識で、寿三郎が、寿一が世阿弥なのに万媚(まんび)の面をつけていることを不思議がっていたのを、プチ解説してみる。
「世阿弥」と言うのは今の能を成立させた能の世界に於ける表に立つスーパースターのような人物。一方で、万媚と言うキャラクタは、人の顔色をうかがって、気に入るように振る舞う、そう媚びを売るキャラ。だから、名前と顔が合わないと言うわけ。
更に、ここで世阿弥を台詞に盛り込んだのには、こんな意味もあると推測する。世阿弥が確立した大きな功績の一つに、愛する人との別離と再会を描く「物狂能(ものぐるいのう)」があるのだ。もう、お分かりだと思うが、この「物狂能」こそが、『俺の家の話』へ通じているのだ。恐るべし、能とプロレスと “親と子” を見事に一つにまとめた内容だった。
あとがき
今回は演出家が交代したせいもあるのか、小ネタが少なめでしたね。それでも「盗んだバイク」や「如意棒に尿意」など、書き切れない程のクドカンらしい小ネタが散りばめられていました。
余命は限られているものの、介護認定は「要介護1」から「要支援2」に下がったことで、全てが有料(金銭が発生する)関係になったので、これまでの介護のドラマから、一段進みました。とにかく、詰め込むだけ詰め込んでも、整理整頓させて、楽しく、シュールに魅せてしまうのがクドカンのドラマのスゴさ。今回も満腹です。
また、本作の感想繋がりで、こんなことがあったことをご報告します。前回の感想のあと、これからコロナ禍でお母さまの介護を始めようとする読者さんから、現状報告や悩みの長文のコメントを頂きました。【非公開希望】ですので、公開することは出来ませんが。
私の「折角、『俺の親の話』と言う家族が介護をするドラマで出会った読者さんだけには、ドラマと現実の違いと知った上で、次回も、私と一緒に笑って泣いて、また笑ってドラマを楽しみたい…」に共感して、書いて下さったようです。
独居、在宅、施設と場所は変われど、親の介護を始めると何かと悩みが出て来ます。それこそ、身内だから相談できないこともあります。また、誰かに相談して即解決するような問題ばかりではありません。でも、誰かに愚痴をこぼすだけでも、心にたまったものを吐き出すだけでも、介護を続ける気持ちが楽になる時はあります。
【非公開希望】コメントでは、こちらからアプローチが出来ませんが、必ず私は読みますので、それでも良ければ “ポンコツなオアシス” ですが、当blogを使って下さい。
最後に、本家ブログの第2話の感想に「65回」もの Web拍手を頂き(本記事、投稿時点)、ありがとうございました。
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