天使にリクエストを~人生最後の願い~(第3話[全5回]・2020/10/3) 感想

NHK・土曜ドラマ『天使にリクエストを~人生最後の願い~』(公式)
第3話[全5回]『貧民狂想曲』の感想。
末期がんで入院中の元ホームレス・武村(塩見三省)の素性を調べることになった島田(江口洋介)は、「アパートで荷物の整理をしたい」という願いをかなえる。だが、「俺は爆弾犯だった」と漏らした武村の一言が心に引っ掛かる。そんな中、島田は、小説を書くのが生きがいだった武村が、生活保護受給者の宿泊所で自分の作品を施設職員に侮辱された過去があることを知る。そこへ、武村が病院を抜け出したという知らせが届く。
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
原作:なし
脚本:大森寿美男(過去作/55歳からのハローライフ、64(ロクヨン)、精霊の守り人、なつぞら)
演出:片岡敬司(過去作/ミストレス~女たちの秘密~、みかづき) 第1,2話
田中諭(過去作/ぬけまいる、いいね!光源氏くん) 第3話
音楽:河野伸(過去作/おっさんずラブ、恋はつづくよどこまでも)
第3話から演出家が交代し、"一粒で二度美味しい"ドラマに
詳しい説明は、第1話の感想を参照して頂きたいが、第2話まで本作の編集技法の特徴である “スピード感のある独創的な作品” らしさを強調する「ジャンプカット」が、第3話では影を潜めた。第2話までは、その「ジャンプカット」が如何にも昭和40年代の古き良きドラマを令和に持ち込んだ作品に仕上がっていたのだ。
手持ちのカメラや、ピン送り(1カットの中でピントを異動させる撮影方法)などは引き継がれているが、劇伴の付け方含めて、その他の演出も前回までとかなり雰囲気が違う。それも当然、第3話から演出家が交代しているからだ。
従って、若干の違和感はあるものの、第3話から、財団「サイレントエンジェル」の活動を描く、謂わば「第2部」と言った感じの内容になっているから、ここは好意的に “一粒で二度美味しい” と受け取ろうと思う。
"生きる人間の尊厳"を描いた骨太な人間ドラマ&人生讃歌
さて、以前に私の感想にも書いたように、本作については予告編以外の公式サイト上の次回のあらすじは読まないようにしている。なぜなら、事前情報なしで見た方が、断然に面白いからだ。
そして、この第3話については、現代に蔓延る生活保護受給者を食い物にする “貧困ビジネス” と、1960年代の学生運動家や活動家との、何らかの物語ではないかと、勝手に想像していた。しかし、蓋を開けてみると、全編が正に “生きる人間の尊厳” を丁寧、且つドラマチックに描いた、骨太な人間ドラマ、人生讃歌だった。
"嘆きのブルース"に聞えた武村の「くだらねえよ…」が秀逸
今回も、私の心にグサッと刺さる多くの台詞が登場した。そのうちの二つを紹介しようと思う。一つ目は島田(江口洋介)が、末期がんで入院中の元ホームレス・武村(塩見三省)が、本名を隠して偽名で生きて来たことを問い質した時の、武村の次の言葉だ。
武村「単なるペンネームだよ。
つまらない本名を捨ててペンネームを名乗るうちに
いつの間にか それだけに なってしまっただけの話だ。
くだらねえよ…」
武村の、生活保護受給者の宿泊所で自分の作品を施設職員に侮辱された過去のエピソードを引用して、“偽名” を “ペンネーム” と置き換えた洒落た台詞だ。
いや、単純に洒落て終わってはいない。爆弾でなく自身が描いた小説で身近な世の中から変えて行こうと、生き方を変えた武村が、自分の小説を侮辱受けたことをきっかけに、侮辱への怒り、侮辱からの逃避だけの “くだらねえ人生” になってしまったことへの「嘆きのブルース」にさえ聞えて来た。
曖昧な部分があってこそ、人間の奥深さが表現出来る
ドラマの後半で、午後5時に爆発するようセットされた自分が作った爆弾を抱えて死のうとする武村から逃げることなく、逆に一緒に5時を迎えるつもりで武村を抱きしめた島田。しかし、午後5時を過ぎても爆発しなかった。意図的に爆発しないように作っていたのか、爆発するように作れなかったのか分からない。
でも、こう言う曖昧な表現を本作は度々用いる。第2話では、感想で触れたように、若い頃に息子を捨てた幹枝(梶芽衣子)と、結果的に息子であった暴力団組長・山本(六平直政)が、互いに持っていた思い出の本「にあんちゃん」の表紙が母と息子で違っていたのも、その一つ。これを曖昧と受け取る向きもあると思うが、私は、大人のファンタジーとして受け止めている。
何でも、伏線があってキッチリ回収するばかりがドラマでない。どこか、曖昧な部分があってこそ、人間の奥深さが表現出来ると思うから…
島田から武村への人生讃歌であり、島田と武村の友情の台詞
さて、もう一つの私の心にグサッと刺さる多くの台詞が、5時を過ぎても爆発しなかった爆弾を目の前にして、島田が武村に言う、次の言葉だ。
島田「あんたは ちゃんと価値のある生き方をしてきたじゃないか。
それは 爆弾で吹き飛ばしていいようなものじゃない。
どんな理由があろうと 爆弾犯がしたことは間違いなんだ。
あんたの小説の方が ずっと価値がある爆弾だよ。
慶応義塾大学の校章の由来にもなっている、英国の作家エドワード・ブルワー=リットンが1839年に発表した歴史劇『リシュリューあるいは謀略』の中に登場する名台詞に「ペンは剣よりも強し」と言うのがあるのは、ご存知だと思う。
この台詞を平たく読むと、「ペンは剣よりも強し」を噛み砕いたように聞こえるが、この台詞には、島田の武村への “人生讃歌” が込められていると思う。そして、愛する息子を自らのミスで亡くし、妻とも別れ、やさぐれた人生を歩んで来た島田と、自暴自棄で生きて来た武村との “友情” も読み取れる。とても、いい台詞だと思う。
劇中歌、高田渡さんの「生活の柄」に少し語ってみたい…
また、毎回、エピソードに合わせた「歌」が登場するのも、本作の楽しみだ。今回は江口洋介さんが歌ってくれた、高田渡さんの「生活の柄」。
高田渡さんと言えば、“エンケン”こと遠藤賢司さんと1960年代から活躍した日本のフォークシンガー代表する歌手の一人。ギターの名手であるが、彼の演奏は「歌の伴奏」に徹しているのが特徴で、良かったら、私がおすすめの次の動画を鑑賞して頂きたい。
この「生活の柄」は、1971年のアルバム『ごあいさつ』に収録されているのだが、高田渡さんは作曲を担当。作詞は沖縄出身の山之口貘さんで、沖縄から上京して極貧の放浪生活をしていた頃の苦労を赤裸々に綴った作品。
そこに、アメリカのカントリーミュージックでよく使われるカーター・ファミリー・ピッキング(親指で低音部を弾き、人差し指で高音部をピッキングするギター奏法)で「G」と「C」と「D7」の3つの明るいコード進行だけで作られているのが特徴。
普通に聴くと素朴な田舎の風景を歌ったようなフォークソングに聞こえて来るが、徹底的に無駄を排除した音の構成は、聴くと分かるが相当に洗練されている。50年近く前の楽曲だが、古さの中に新鮮味がある。これが高田渡さんの音楽。おっと、ドラマから話がズレてしまった…
あとがき
9月25日に放送されたNHK『あさイチ』のスペシャルゲストとして出演された江口洋介さんが、塩見三省さんの演技を絶賛されていました。鬼気迫るものがあると。塩見三省さんは、2014年に脳出血で倒れられて、手足の麻痺を懸命なリハビリの末に俳優に復帰されました。
その塩見さんのご病気を敢えて脚本家が登場人物「武村正介」の病気に合わせて書いたと言う第3話の脚本。塩見さんご自身の実体験を重ねた演技は素晴らしかったです。
回を重ねる毎に、ディープでシリアスな内容になりますが、そこに射す一光がドラマの “救い” と “未来” に繋がって、素敵な人生讃歌のドラマになっていると思います。一人でも多くの方に見て頂きたい作品です。
※次回(第4話)の感想は、放送翌日ではなく、10月11日(日)以降になると思います。
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