天使にリクエストを~人生最後の願い~(第1話[全5回]・2020/9/19) 感想

NHK・土曜ドラマ『天使にリクエストを~人生最後の願い~』(公式)
第1話『探偵挽歌』の感想。
酒浸りの生活を送る探偵・島田(江口洋介)は、資産家風の女・和子(倍賞美津子)から、余命幾ばくもない幹枝(梶芽衣子)の「最後の願い」を叶えるため富士宮に連れて行くという変わった依頼を受ける。助手の亜花里(上白石萌歌)に背中を押され引き受けるが、幹枝の本当の願いは、かつてそこで捨てた子供を探し出して謝ることだった。有力候補は暴力団の組長。だが島田には、暴力団絡みで子供を亡くし、妻と別れた過去があった。
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
原作:なし
脚本:大森寿美男(過去作/55歳からのハローライフ、64(ロクヨン)、精霊の守り人、なつぞら)
演出:片岡敬司(過去作/ミストレス~女たちの秘密~、みかづき) 第1話
田中諭(過去作/ぬけまいる、いいね!光源氏くん)
音楽:河野伸(過去作/おっさんずラブ、恋はつづくよどこまでも)
本作のタイトルを見て、ある2つの映像作品を思い出した
今作も、可能な限り事前情報を入れずに見始めた。冒頭から昭和のテレビドラマを感じさせる雰囲気。狭苦しい探偵事務所の裏部屋、太陽光の使い方などがとても印象的な映像で始まった。実は、『天使にリクエストを~人生最後の願い~』のタイトルを見て、ある2つの映像作品を思い出したのだ。
ドラマ『傷だらけの天使』に通じるアンチヒーローもの
その一つが、1974年10月~1975年3月に日テレ系で放送された萩原健一&水谷豊出演のドラマ『傷だらけの天使』。内容はヒッピー風な二人の若者の怒りと挫折を描いた、アンチヒーローものの探偵ドラマだ。
仕事をやる気はゼロの元刑事の島田修悟(江口洋介)なんて、屋さぐれた雰囲気や長髪は、『傷だらけの天使』の木暮修(萩原健一)に少し呼応し合う感じもある。「人生最後の」とサブタイトルがついているが、どうやらシリアス一辺倒の作品でないことを、序盤で提示したのは「暗過ぎるのはイヤ」と言う視聴者の囲い込みには一役買ったはずだ。
「BAR黒猫」でのブルースハープの切ない劇伴も悪くない
酒浸りの島田が訪れた「BAR 黒猫」も、どことなく昭和チックだが、結構、演出が細かいと思ったのが、島田が呑んでいたロックグラスに入っていた「丸氷(球形の氷)」が手彫り(手作り)に見えたこと。
最近は、機械で製造した「丸氷」を使うバーが多くなったが、本来はバーテンダーがアイスピックで大きな氷から創り出すのが、バーテンダー―の腕の見せ所でもあったのだ。と言うことは、「黒猫」のバーテンダー・今久保忠雄(蛍雪二朗)も、腕のいいバーテンダーと言うことで、そこが行き付けなら、島田もただの酒浸りでないことが、薄っすらと読み解ける。
それも、飲んでいる酒が、ボトルを見た感じでは、バーボンなどのウイスキーではなく、コニャックやブランデーの類。「探偵=バーボン」が、ハードボイルド映画のお約束だが、ここも敢えて捻っている。ブルースハープの切ない劇伴も悪くない。うん、なかなか私好みのいい滑り出しではないか。
多用した「ジャンプカット」で令和に"昭和感"を持ち込んだ
島田が「黒猫」を出て、回想シーンを見る限りでは、かつて仕事の巻き添えで一人息子を亡くし、妻・時恵(板谷由夏)と離婚した感じ。その後に、島田が路地を酔っぱらったフラフラと歩くシーンや、島田が息子を銃で撃つことになる高山を追いかける回想シーンなど複数のシーンで、「ジャンプカット」と言う編集技法が使われた。
「ジャンプカット」は、1959年のゴダール監督のフランスの長編映画『勝手にしやがれ』が発祥とされている。当時、上映時間が長すぎるとプロデューサーから指示されたゴダール監督が、フィルムをランダムに切り貼りして短縮し、その結果、映像がコマ送りのように飛ぶようになって、世間では “スピード感のある独創的な作品” として大きく評価され、のちに、その手法を「ジャンプカット」と呼ぶようになった。
従って、昭和30年代後半から日本映画でも度々使われるようになり、昭和40年代のテレビドラマでは多用された。令和2年のドラマで意図的に使用したと考えれば、島田の周辺の描写には “昭和感” を醸し出そうと言う意図が伺われる。この先の、内容は実に “令和感” のある現代ドラマなのに…だ。この落差が本作の見所だ。
倍賞美津子さんの「探偵さん」の台詞に鳥肌が立った
本作には幾つかの期待があったが、その一つが、倍賞美津子さんが「探偵ドラマ」に出演されると言うこと。
40歳代後半過ぎの読者さんなら覚えているかも知れない。1979年9月~80年4月まで日テレ系で放送された、主演・松田優作の探偵ドラマの名作『探偵物語』の中で、準レギュラーの登場人物で愛称「ボインちゃん」と呼ばれた敏腕弁護士・相木マサ子を演じたのが今や大女優の倍賞美津子さん。
その倍書さんから「さすが探偵さん」と言う台詞を聞いただけで、『探偵物語』の大ファンの私は、鳥肌ものだった。いやぁ、スタッフは狙っているに違いない。『探偵物語』での倍賞美津子さんと松田優作さんも、高圧的な女性弁護士に工藤俊一がやりこめられるシーンが良くあったから。
そして、劇伴もコミカルに切り替わって、どことなく “探偵さん” の雰囲気。ホント、これ好きだ。
シリアスとコミカルのバランス構成が、お見事だった
その後は、どことなく「ロードムービー」のような楽しさもあり、「探偵ドラマ」のスリリングさもあり、「終末期医療ドラマ」のような真面目な部分や切なさもあって、不思議な感覚のドラマとして進んで行った。
ほぼ終始 “手持ち” のハンディカメラ映像だが、ブレ加減が絶妙で見ていて不快感は無く、むしろロードムービーらしさを装飾した。また、エンドクレジットと次回の予告編が組み合わさった映像も洒落ていて良かった。やはり、全体的にシリアスとコミカルな部分のバランス構成が上手いドラマに仕上がったのがお見事だと思う。
"縦軸"と"登場人物らの過去"の絡ませ方も絶妙
また、主人公が息子を亡くした “縦軸” の本編への挟み込み方が巧みで、主人公の過去と、関係者の過去が、根っこで絡み合っていて、それでドラマ全体が構成されており、 “縦軸は縦軸” と別扱いしていないのも、他の連ドラとの個性になっており、「最終章」的な盛り上がりを作らずに済む短めの「全5回」だからこその、上手い構成だと思う。
あとがき
いやぁ、若い人向けか? とは言いづらいですが、一定層の人には是非とも見て欲しいドラマだったと言う印象です。
劇中に登場する「エンジェルカー」のモデルになったのは、日本では2年前から始まったターミナルケア(終末期の看取り)を受けている方を対象に、 その方が望む場所へと無料でお連れする「願いのくるま」と言うボランティア活動。その活動を周知させるPRドラマとしてNHKらしいと思います。
また、脇役を含めた俳優陣のキャスティングが素晴らしかったです。例えば、捨てた息子がヤクザの組長になっていた母親を演じた梶芽衣子さんと言えば、昭和の頃は、任侠映画『野良猫ロックシリーズ』や『女囚さそりシリーズ』の主演を務め、『仁義なき戦い 広島死闘篇』ではヒロインを演じ、ヤクザ映画のイメージが強い女優さん。その梶芽衣子さんが組長の母親なんて実に面白い配役のアイデア。
また、主演の江口洋介さんも、キッチリ決めたルックスでなく、故・原田芳雄さんを感じさせる風防やアクションや歌唱シーンなど、実にカッコ良かった。若手の上白石萌歌さんと志尊淳さんが緊張感の中の良き清涼剤になっており、その辺も見ていて肩が凝るような事もありませんでした。
また、本作は、2020年6月6日から放送が予定されていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、クランクイン前日に緊急事態宣言が発令され、スタジオセットが組み立てられた状態で2ヵ月待機し、偶然にも当所の放送回開始日にクランクインしたと言う、大変な苦労の中で撮影された作品です。大切に最終回まで見届けようと思います。
最後に。公式サイトやYahoo!テレビで「次回のあらすじ」を読まないことを強く推奨します。私は、感想を書く都合で読んでしまって、後悔しておりますので。
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