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「MIU404」ロスを全11話の再深掘り&名台詞まとめで自己治療

「MIU404」ロスを全11話の再深掘り&名台詞まとめで自己治療
©TBS

全話を振り返り、既出の感想に書けなかったことを中心に

『MIU404』の放送が終わって、丸1週間以上が経過し、同放送枠で『MIU404』とは全く違った「バディが活躍する刑事ドラマ」が始まり、余計に “MIU404ロス” が強くなったため、勝手に、『MIU404』の全10話を振り返り、私が既出の感想に書けなかったことを中心に書いて、自己治療してみようと思う。

今読むと、第1話の感想は意外な程にアッサリとしていた

まず、私が本作にのめり込んで、映像の深読みをするきっかけになったのが、第3話『分岐点』、ラテ欄『いたずら通報事件"連続した犯行の狙いとは?!』に登場した、架空の高校「バシリカ高校」と言う学校名。

どうして、このような学校名を脚本家の野木亜希子氏は命名したのか? そこを深読みすることから始まった。従って、初見の時の第1話と第2話の感想は、今読むと意外な程にアッサリとしている。

例えば、第1話の感想は、

あくまでも、個人的な思いですよ。もう、全くタイプが違う凸凹コンビのバディが活躍する刑事ドラマは食傷気味なので、兄弟のような、能力や性格は全く違えど、正義感だけでなく、何か似ている部分や共通点もあるような、これまでの刑事ドラマに登場した凸凹コンビとは違うタイプのバディに期待したいです。

と、感想を締め括っている。しかし、何十回も録画を見直しているうちに、新たな発見はあるものだ。

第1話を見る前の私は、正直、野木亜希子氏が描く刑事ドラマだし、ドラマ『アンナチュラル』と通ずる世界観を持った作品と聞いていたし、設定が普通の所轄の警察署や警視庁の刑事課でなく、初期捜査(24時間)が勝負の「機動捜査隊」を描くドラマだから、犯罪者の人間性を掘り下げるような人間ドラマになるのではないかと、勝手に思っていた。

最初に驚いたのは、警察車両と犯人車両のカーチェイス

しかし、蓋を開けてみると、全く違った。最初に驚いたのは、最近の刑事ドラマでは、すっかり見る機会が減った、警察車両と犯人車両のカーチェイスだ。警察車両からガツンとぶつかりに行くわ、ゴロゴロと車は回転するわ。

あれは、1979年から1984年にかけてテレビ朝日系で放送された『西部警察』を彷彿させた。特に、サイドエアバッグに押しつぶされる39歳の星野源さんを、令和2年に見ることになるとは思わなかった(もちろん、良い意味で)。

また、38歳の綾野剛さんは、「新人刑事は走ってなんぼ」と言われた1972年から1986年に日本テレビ系で放送された『太陽にほえろ!』を思い出させたし、テンポの良さや危機一髪の時でも粋で洒落た会話が入る点は、1986年から1987にかけて日本テレビ系で放送された『あぶない刑事』の雰囲気さながら。

如何に昭和の時代は "ドラマが力" を持っていていたか

ただ、昭和の刑事ドラマ好きなら、「機動捜査隊」と聞いて外せないのが、 1961年から1977年まで15年半もNETテレビ(現在のテレ朝)系で放送された『特別機動捜査隊』だ。

なにせ、1959年4月に、年々凶悪化する犯罪の初動捜査を確実にするために、警視庁刑事部捜査第一課に「初動捜査班」が設置されたことを受けて制作されたドラマが『特別機動捜査隊』。

当時は大変な人気で、1963年に当時の警視総監がこのドラマのファンだったために、それまでの「初動捜査班」と言う名称を「機動捜査隊」に改称し、捜査第一課から独立させ、現在の全国警察49隊(警視庁3隊・他の道府県1隊)に配属されている「機動捜査隊」となったのが事実なのだから、如何に昭和の時代は “ドラマが力” を持っていていたのが分かる。

野木亜希子氏の脚本の連ドラは、こんな特性がある

このように、『MIU404』は、昭和の時代の名作刑事ドラマの数々へのオマージュが詰まっていることは、第1話で良く分かった。しかし、第2話でも、私はまだ本作の本当の姿、全容は見えていなかった。

ただ、私は以前から、第2話の感想にも書いた通り、野木亜希子氏の脚本の連ドラは、こんな特性があると思っている

。私(を、含めた視聴者)が、野木亜紀子脚本の連ドラの本質を、第2話から徐々に理解をし始め、次第に自然と作品の世界観に引きずり込まれて、最終回では見事に相手(野木氏)の懐に収まって、感動と余韻を楽しめるようになるように作り込まれている…」と信じており、そこだけは間違っていなかったと思う。

昭和の刑事ドラマに令和の要素を盛り込んだのが素晴らしい

ドラマ『MIU404』の素晴らしいところはたくさんあるが、特に良かったのは、前述の通りに、昭和の名作刑事ドラマへのオマージュを含みながら、令和の時代の要素をしっかりと盛り込んで、単なるレトロ風な刑事ドラマにしなかったこと。

例えば、煽り運転の恐怖、親から幼児虐待を受けた殺人犯と我が子を自殺で亡くした中年夫婦の逃走劇、ホームを失った高校生たちの苦悩、殺人未遂事件の被害者が絶望を希望に変え息絶えて殺人被害者となった女性の生き様とマネーロンダリング、外国人留学生を取り囲む厳しい社会…

更に。元刑事の殺人事件を通して罪を裁くはずの法律の限界、トランクルームのドアの内側と外側の人生の機微、善意のつもりのSNS拡散の怖さ、フェイクニュースに対する免疫力の重要性など、各話のエピソードの中に、今の日本の何処でも、どの瞬間でも起こり得る可能性がある “現実” が描かれた。

本作の中に実感を湧かせ、虚構の世界をリアルに見せたもの

また、コロナ禍での撮影と言う事情を活かして、今も風評被害に苦しむ屋形船を活用して、カーチェイスとは違った、西欧映画のような水辺を使ったアクションを入れたりたり、密にならないためにドラッグ工場をクルーズ船にしたりと、コロナ禍だからこそのロケ撮影の工夫も盛り込んだ。

更に、設定としては、ユーチューバーをモデルにしたナウチューバー “REC” や、SNS投稿の追跡や防犯カメラの映像解析を担うスパイダー班なども “今どき設定” として十分に効果を発揮した。これらの全ての要素が、本作の中に “実感” を湧かせ、虚構の世界を “リアル” に見えたのだ。

スパイダー班の部署は、桔梗の字幕の緑色に合わせた可能性

因みに、スパイダー班の部署は全体的に緑色の照明が当たっており、 桔梗(麻生久美子)の字幕の色が「緑色」だから、桔梗の台詞がスパイダー班のシーンに被ると、映像全体が緑色になって、より不気味で何かが起こりそうな感じに仕上がっていた。

第1話から最終回まで、私が好きな名台詞をまとめてみた

さて、毎回の感想の中でも、度々、本作中の名台詞を引用して来たが、今回は第1話から最終回まで、回を追って名台詞に迫ってみようと思う。

この第1話の伊吹の台詞が、本作の背骨となって最終回へ…

まずは、第1話/初回15分拡大『激突』、ラテ欄『野生刑事VS!理性刑事 新バディ誕生! 誰よりも早く犯人を追え!』の中から。最も印象的な台詞は伊吹(綾野剛)が、煽り運転事件を解決し、行方不明になった老婦人を探し出した時に言った、この台詞だ。

伊吹「機捜っていいな
   誰かが最悪の事態になる前に止められるんだよ
   超いい仕事じゃ~ん! なっ」

最初は、ちょっとした事件でも、最悪の事態になる前に、誰かがそこに注視し、“スイッチ” になって “ゼロ” に戻すと言う機捜の任務そのものが、ドラマ『MIU404』の全話に貫く背骨(テーマ)になって行くことを予言した台詞だ。

そして、この伊吹の台詞が、最終回での久住(菅田将暉)を逮捕した後の志摩(星野源)の「最悪の事態になる前に俺たちが止めた」と言う台詞と “対” になっていたと言う仕掛けに違いない。

"悪の存在全体"への、被害者からのメッセージへ通ずる台詞

第2話『切なる願い』、ラテ欄『走る人質監禁立てこもり! 犯人の目的は』は、赤い夕陽に染まる富士山と、赤く光るパトライトが美しかったラストシーンが印象的な回だった。

物語としては 、幼少期に父親から虐待を受け、ネットカフェ難民を経て、やっと就職した先で上司からのパワハラを受けて、思いがけずに殺してしまった加々見(松下洸平)が、父親を「あいつ」と言った悲痛な叫びがこれ。

加々見 「あいつがしたことをわからせて
    僕がこうなった責任を あいつが取るべきなんだ」

この台詞を広域に解釈すれば、若者たちを痛みつけたり、若者たちから搾取したりするような奴らが、若者たちに責任を押し付けて逃げ切ろうと言う “悪の存在全体” への、被害者からのメッセージにも聞こえて来る。

誰の言葉に気持ちを動かされるのかで「スイッチ」は変わる

第3話『分岐点』、ラテ欄『いたずら通報事件"連続した犯行の狙いとは?!』は、前述の「バシリカ高校」が登場する回。

狼が来ると言う嘘を何度も知らせる羊飼いの少年が、 本当に狼が襲って来た時に大人に信じてもらえず、羊を食べられてしまうと言うイソップ寓話『狼少年』(別名『嘘をつく子供』)と言う古典を題材にしていると妄想し、古典的な教訓を『狼少年』とは真逆の結末(少年たちが全員救われない)を作り、野木脚本は、『現代版・狼少年』の、その先を作ったのもお見事だった

そんな第3話で印象的だった台詞が、志摩が九重(岡田健史)に語った台詞だ。

志摩「誰と出会うか 出会わないか
   この人の行く先を変えるスイッチは何か」

人が罪を犯すのは、明らかな目的を持った必然の場合よりも、偶然が度重なって罪を犯すことが多い。だから、誰と出会うか、誰の言葉に気持ちを動かされるのか、また一度は避けられても、また違う “分岐点” となる「スイッチ」がやって来ると言うこと喩えた台詞だ。

野木脚本が現在の社会問題を地上波ドラマで扱う意義と呼応

また、第3話では、「自己責任」、「連帯責任」、「現行の少年法の問題」、「未来の日本の治安」などのキーワードを巧みに積み重ねながら事件が進んで行く。それを桔梗のこんな台詞が代表する。

桔梗「私は それを
   彼らが教育を受ける機会を損失した結果だと考えてる
   社会全体で そういう子どもたちを
   どれだけ掬いあげられるか。
   5年後 10年後の治安は そこにかかってる」

「自己責任」と「連帯責任」を責め立てる今の日本に蔓延する世論の動向に対して桔梗が言ったこの言葉は、野木脚本が現在の社会問題を誰もが見る無料の地上波ドラマで扱う意義にも繋がる。

野木脚本には、私が名付けた脚本の技「時限爆弾」がある

第4話『ミリオンダラー・ガール』、ラテ欄『殺人未遂事件…撃たれた被害者女性が一億円を手に謎の逃走!?』は、野木脚本ならではの特徴が活かされた放送回だ。普通の脚本では、ある物事が起こる前段階で、それに繋がる要因が “さり気なく” 示され、のちにその結果と分かる物事を描く「伏線」と「回収」と言う手法を用いる。

また、敢えて “さり気なく” ではなく、 “あからさまに” 多くの視聴者が分かるように示すのを「フラグ」と言う手法もある。これらのことは、多くの人がご存知のはず。しかし、野木脚本には、私が勝手に名付けた脚本の技「時限爆弾」と言うのがある。

その前に、「伏線と回収」と真逆の手法「スライス・オブ・ライフ」を説明したい。アニメ映画『この世界の片隅に』でも採用されたように、淡々と事象を提示していくだけの手法だ。淡々と流れる時間経過と、その都度発生する事象を追って行き、最後に何かを感じ取ってもらうと言うやり方だ。

第4話には、2つの「時限爆弾」が巧みに仕掛けられていた

この第4話は、裏カジノの罠にかかって風俗嬢にされた上に、裏カジノで働いていたところを逮捕された青池透子(美村里江)が、銃撃され余命を悟った一世一代の「賭け」に出る。

その賭けとは、暴力団から持ち逃げした大金を女子児童慈善団体「ガールズインターナショナル」に寄付することだった…と言うお話。どちらかと言えば、「スライス・オブ・ライフ」的な作品だ。しかし、第4話には、2つの「時限爆弾」が巧みに仕掛けられていた。

1つは、透子が作ったとされる「ピンク色のウサギのマスコット」だ。最初は、あまりにも “さり気なく” 登場するため「伏線」のように感じるが、3分後には宝石店で今回の大切なアイテムになることが分かる。そう、3分後には「回収」したように見せかけるのだ。

でも、この1つ目の「時限爆弾」が本領を発揮するのは、ドラマの終盤になった時。そこで、野木氏は2つ目の「時限爆弾」を “さり気なく” 投下する。それが、女子児童慈善団体の巨大なポスターだ。

このポスターは透子の逃亡劇中にさらりと登場して、1つ目の「時限爆弾」と同時に、終盤で大爆発をする。この、さり気なく投下して終盤で同時に大爆発をする「時限爆弾」こそ、野木脚本の醍醐味なのだ。

透子は死と決断の"スイッチ"で、自身の絶望を希望に変えた

従って、第4話の名台詞は、台詞と言うよりも、巨大看板に書かれた文字だ。

「逃げられない 何もできない 少女たちに。
 逃げられない少女たちを救ってください…」

更に、小さな文字では、「恵まれない少女たち、なんて呼ばないでほしい」「あなたの支援は少女たちを差別や貧困から救ってくれる」とも書いてあった。

透子は自身の死と決断によって、殺人未遂事件の被害者から殺人被害者となったが、自身の絶望を希望に変えた。そして、透子がポスターを見た時に入った「スイッチ」と、大金を寄付した時の「スイッチ」が、逃げられない少女たちの新しい生活への「スイッチ」になると、私は透子と共に信じたい。

外国人技能実習制度を描いた第5話で心に響いた2つの台詞

第5話『夢の島』、ラテ欄『同時コンビニ強盗!? 留学生の夢と恋心』は、外国人技能実習制度を主軸に、長時間労働、最低賃金違反、パワハラ、民間ブローカーだった監理団体など広く深く描いた回だ。

ベトナム人留学生チャン・スァン・マイ(フォンチー)が、大好きな日本に裏切れたら気持ちを伊吹にぶつけた次の台詞も印象的だった。

マイ「欲しいのは 文句ない 言わない お金かからない 働くロボット
   日本 嫌い なりたくなかった」

また、今回の真犯人だった、「日春野日本語学校」の事務員・水森祥二朗(渡辺大知)が言った叫びだ。

水森「この国に来るな! ここはあなたを 人間扱いしない」

この叫びのドラマの放送日が、奇しくも本来であれば、外国人が大勢日本にやって来ていたはずの「東京五輪2020」の開会式当日であると言う、何とも皮肉な現実。

ガマさんの"スイッチ"が、まだ悪い方へ入り続ける前の言葉

更に、伊吹の師匠で “ガマさん” こと蒲郡(小日向文世)は、本作全編に於いて最重要登場人物の一人と言っても過言でない。そのガマさんが伊吹に言った、次の台詞もある意味で「時限爆弾」とも言える。

蒲郡「何だってそうだ まともにやろうとする人間と
   抜け道探して 悪さする人間がいる」

なぜなら、この台詞が、のちに殺人犯となるガマさんが言うのだから、人生とは一瞬先は闇。スイッチ一つで幾らでも分岐点は悪い方へ悪い方へ「スイッチ」が入って行くのも、これまた人生なのだ。

伊吹らしい、純粋さや真っ直ぐさを良く表した表現だが…

第6話『リフレイン』、ラテ欄『相棒を救え! 過去の事件に隠された希望』は、 「相棒殺し」の汚名を着せられた志摩の過去を探る伊吹の話。

伊吹「俺が 4機捜に来たのがスイッチだとして
   玉突きされて入った俺が 404で志摩と組むことんなって
   2人で犯人追っかけて その一個 一個 一個 全部がスイッチで
   なんだか人生じゃん? 一個一個大事にしてぇの。
   あきらめたくねぇの。志摩と全力で走るために」

伊吹らしい、純粋さや真っ直ぐさを良く表した表現だが、まさか第5話でも「人の善悪」を教えてくれた蒲郡が、のちに殺人犯となる「スイッチ」を踏みまくるのを、伊吹が気付けなかった悔しさを今思うと、切なく辛い…

立ち位置に悩む九重の心を動かした陣馬の"大きなスイッチ"

また、陣馬(橋本じゅん)が九重(岡田健史)に言う、この台詞も良かった。

陣馬「間違いも失敗も言えるようになれ
   バーンって 開けっぴろげによ
   最初から裸だったら 何だって できるよ」

父親が警察庁刑事局長で自身も警察庁採用のキャリア組と言う九重が、何か悩みを抱えているような雰囲気を察して出た言葉だが、叩き上げのアナログ人間・陣馬のこの言葉は、自分の立ち位置に悩む九重の心を動かした大きな「スイッチ」だ。

伊吹は "機捜の太陽" なのだ

そして、第6話で絶対に外せない名台詞が、これだ。

志摩 「まあ 安心しろ 俺の生命線は長い」

相棒を亡くした志摩への気遣いは当然に、伊吹のポジティブさや明るさもしっかり表現された上に、ドラマのオチとしての面白味まで凝縮されている。

ラストでは、志摩が死んだ相棒に出来なかった握手をするように手のひらをできなかった握手をするように手のひらを向けたところへ、伊吹は生きている相棒に手のひらをドーンと差し出すのが、まるで大きな太陽のように見えた。やはり、伊吹は “機捜の太陽” なのだ。

九重の父の「人生を俯瞰で見た時の昔のスイッチ」の重要性

第7話『現在地』、ラテ欄『休日にまさかの遭遇 指名手配犯を追え!』は、冒頭で、 猫を「ドラえもん」に、トランクルームのピンク色のドアが「どこでもドア」に比喩した、私にとっての名シーンで始まるストーリーだ。

この第7話で描かれたのは、本当は機動捜査隊に入隊したかった九重の父・篤人(矢島健一)が、かつての自分の夢であった機捜の仕事をしている息子に言った言葉に代表された。

篤人「お前が羨ましいよ」

これまでの本作では前述の通りに、「目の前のスイッチ」をどう選択すべきか、または「少し前のスイッチ」のことが描かれて来た。しかし、この九重の父の台詞は、長い人生を振り返っての「本人が人生を俯瞰で見た時の遠い昔のスイッチ」の重要性を描いたのだ。

人生を俯瞰で見ないから「現在地」が見えずに絶望した男達

第7話が興味深いのは、このように「本人が人生を俯瞰で見た時の遠い昔のスイッチ」の重要性を描きながら、サブタイトルの「現在地」も同時に描いていることだ。退職金詐欺に遭い、トランクルームに住み着いた倉田(塚本晋也)は、“ケン” と名乗っていた遺体の男性・梨本健(佐伯新)が、こんなことをぼやいていたと言っていた。

梨本「このまま この生活から抜け出せないのなら…
   死んでるのと同じだ」

そして、倉田自身も

倉田「私もね 思います
   何で ここにいるんだろう いつまで こうしてるんだろう
   いらないものを置いとく この箱の中で ただ 永らえて
   意味があるんだろうかって この箱の中で」

と、言っていた、中年男性性2人は社会と関わりのない箱の中にいるから、人生を俯瞰で見ることが出来なかったから、自分の「現在地」が見えずに絶望したのだ。

生活に困った人たちへの野木脚本の優しさであり…

また、コスプレイヤー「ジュリ」の顔を持つ弁護士の清瀬十三(りょう)…

清瀬「親が ヤバいか何かで 家出中なんでしょ?
   10代の女の子のためのサポートセンターに行きな
   私の名刺も 何かあったら連絡して
   悪い大人もいるけど ちゃんとした大人もいる
   諦めないで まずは福祉や公共に頼る 君たちは 一人じゃない」

個々の事情や個性を無視した “十把一絡げ” な大人の指導でなく、的確に個々の事情に合った指導をした。単純に描きがちな “家族第一主義” ではなく、理にかなった個々への対応を描いたのは、生活に困った人たちへの野木脚本の優しさであり、きめ細やかな行政サービスや個別対応がまだまだ足りない福祉や自治体、果ては国家、政治へのメッセージだ。

倫理と法の秩序を大切にするべきだと言う志摩の信念

第8話『君の笑顔』、ラテ欄『未解決の連続殺人!? 警察官になった理由』は、遂に『MIU404×アンナチュラル』の “世界観の融合” である「不自然死究明研究所(UDIラボ)」が登場し、UDIラボの臨床検査技師・坂本誠飯尾和樹(ずん))が登場する記念すべき回だ。愛する妻を理不尽に殺され、犯人を殺してしまった伊吹の師匠である元刑事の蒲郡の話だ。

ガマさんの妻・麗子(丸山瑠真)の「ひき逃げ事件」にあった日が「2019年4月5日 金曜日」で、この日は、第1話『激突』で、伊吹の異動初日で煽り運転を受けた日だ。そして、翌日の4月6日に、犯人と接近戦になった伊吹が「轢かれた 殺された 正当防衛だよ?」と言って、犯人に拳銃を発砲しようとするが、志摩は「発砲の要件に適ってない」と説得。

でも、伊吹は「規則なんて、どーでも良くない? 誰も見てない。防犯カメラもない。ここにいるのは俺と志摩ちゃんと、このクソ野郎だけだ」と言うくだりがあった。

ガマさんの奥さんが車に轢かれて殺された日の翌日が、志摩が煽り運転の犯人を正当防衛だと主張して殺そうとした日と言う皮肉な運命。こう言う細かい伏線も見逃せない。そして、蒲郡の「処刑人にも 良心の呵責がある」に対する志摩の答えが、これだった。

志摩「ガマさん 何があってもあなたは人を殺しちゃいけなかった
   全警察官と 伊吹のためにも」

逮捕されて連行されていく蒲郡に志摩が掛けた言葉だが、どんなに辛い事情と激しい感情があっても、元警察官であっても倫理と法の秩序を大切にするべきだと言う志摩の信念が込められた名台詞だ。

ハムちゃんの望む「表の世界」を、この国は目指すべき

第9話『或る一人の死』、ラテ欄『衝撃の急展開!! ついにあの男が動き出す』は、闇カジノの存在を警察に情報提供したことで、影の実力者・ エトリ(水橋研二)に狙われた “ハムちゃん” こと羽野麦(黒川智花)が伊吹に言った言葉だ。

麦「表の世界だけ。悪い人が捕まって 頑張ったら報われて
  正しいことをした人が後悔しないで済む世界」

麦の望む日本をストレートに語った台詞だが、この台詞から現在の日本が、頑張っても報われず、正しいことをしたら後悔する世界であると言っているのと同じ。

一部の業界団体や政治家たちが私腹を肥やし優遇を受ける一方で、そのザルから零れた人たちは、頑張っても報われないから、生きるために正しいことをしない選択をする。今のコロナ禍に通じる名台詞でもあるのだ。

この台詞に説明は要らない

相棒を死なせてしまった志摩と、恩師の罪を止めることが出来なかった伊吹。大切な人の危機に “間に合わなかった” 二人が、必死に力を合わせて、古井戸の深い闇の底から羽野麦と成川岳(鈴鹿央士)を救出した伊吹と志摩が言った言葉も印象的だった。

伊吹「間に合った!」
志摩「間に合った」

この台詞に説明は要らないと思う。

点と点を強力に結び付けることは、悪いことばかりでない

第10話『Not found』、ラテ欄『見えない敵との戦い 4機捜存続の危機!』は、ハムちゃんに危機が迫る話。伊吹と志摩が 特派員 “REC” こと児島弓快(渡邊圭祐)の家で聞き込み捜査をしている時に志摩がこう言った。

志摩「あなたは点と点を強引に結び付けて
   ストーリーを作り上げてるわけだ」

そして、警察署の地下駐車場で桔梗が取材のカメラたちに迫られ、「404エラー」と「503エラー」の間違いを指摘された際には桔梗が…

桔梗「何でもかんでも結び付けて陰謀にしないでください」

と言った。 個別に点在する事実を結び付けたことによる最大の被害者が “ハムちゃん” こと羽野麦。しかし、そのハムちゃんを機捜のメンバーたちが、強力に結び付いて救おうとしていることとも呼応している、深い意味が込められた二つの台詞だと思う。

未来を変えれば、俯瞰で見た人生は違って見える

また、ハムちゃんの人生を狂わせたエトリが死んだことを受けて、伊吹が言った台詞も良かった。

伊吹「なあ志摩ちゃん
   死んだ奴には勝てないって言ってたけどそれ違うよ
   生きてりゃ何回でも勝つチャンスがある」

死んだ人間が入れた「スイッチ」によって、ねじ曲がった結果であろうとも、「生きてりゃ何回でも勝つチャンスがある」と言って、生きていれば過去は変えられなくても、未来を変えれば、俯瞰で見た人生は違って見える…と言っているのだ。だから、伊吹と志摩は、ハムちゃんが望む「より良い世界」のために、走り続けるのだ。

「生きて償え!」と、志摩は久住を突き放さなかった…

第11話/最終回15分拡大スペシャル!!『ゼロ』、ラテ欄『最終決戦! 4機捜が迎える衝撃ラスト』での名台詞と言うと、この台詞をまず挙げたい。遂に志摩と伊吹が久住を逮捕できる段階になった際に、屋形船の中で、志摩が久住に言う台詞だ。

志摩「生きて 俺達と ここで苦しめ」

普通の刑事ドラマなら、ここは「生きて償え!」になるはず。しかし、人生に点在する分岐点に、「自分が信じられる人がいること」と「自分から助けを呼べる人がいること」が、“自分も相手も救う” ことに繋がる大切なことなのだ。だから、志摩は久住を突き放さなかった。

そして、この「生きて 俺達と ここで苦しめ」は、機動捜査隊の「初動捜査」を描くドラマである本作が、第1話から描き貫いて来た、ある一つの選択肢が例え間違ったとしても、生きてさえいれば何度でもスイッチが訪れて、やり直せることを明示した。

伊吹と志摩のTシャツに書かれた「I Love Japan」へ繋がる

先の志摩の台詞が、犯罪者の未来を示す台詞だとすれば、次の桔梗の台詞は、日本の警察組織の未来を示しているようにも思う。

桔梗「小さな正義を ひとつ ひとつ 拾った先に
   少しでも明るい未来があるんじゃないですか?」

例え、日本中がどんなに歪んだ社会になろうとも、人々がどんなに悪意に満ち溢れようとも、法を守り、希望を持ち、小さな正義を一つひとつ拾っていく。それが、警察が作って行く「明るい未来」であり、 第9話で取り上げた麦の台詞にあった “悪い人が捕まって、頑張ったら報われて、正しいことをした人が後悔しないで済む世界” である「表の世界」なのだ。

そして、その「明るい未来」こそ、 伊吹と志摩が着ていたTシャツに書かれた「I Love Japan」に繋がる…

久住は心や過去まで警察に囚(捕)われていないと信じて…

また、病室の回想シーンでの、完全黙秘を続ける久住と、伊吹と志摩の会話も印象的だ。志摩が久住に「どこで育った?」と聞くと…

久住「何がいい? 不幸な生い立ち?
   歪んだ幼少期の思い出 いじめられた過去 ん? どれがいい?
   俺は… お前たちの物語にはならない」

本作は、「罪を犯す or 罪を犯さない」と言うスイッチの選択肢次第で、全ての人々が「罪を犯さない人」と「犯罪者」に分れること。また、「罪を犯す or 犯罪に巻き込まれる 」と言うスイッチの(望もうが望まないかに関係無く)選択肢次第で、これまた全ての人たちが「加害者」と「被害者・犠牲者」に分かれること。

ちょっとした人生の分岐点となるスイッチの入れ間違いで、その後の人生が変わってしまうことを描いて来た。

だから、警察は「犯罪者」や「加害者」の “犯罪心理” を読み解くために、過去にどんな分岐点があり、その時どんなスイッチを入れたのか、プロファイリング的に決めてかかってしまう。 それが功を奏することもあるが、最近の犯罪心理学や捜査方法では、犯罪者を「型」に嵌めてもあまり意味が無いとされている。

だから、久住は、自ら古いプロファイリング手法に対して、アンチテーゼを示したのだ。その一つの彼の表現方法が、素性を隠して、様々な架空の物語を持った人格を演じて人々を翻弄して来たことでもある。

彼は、誰かに物語として理解されることを拒んでいる。久住は、本当の自分の過去(物語)を理解されることを拒否している。そして、自分の物語を隠し続けることが、自分が苦しまずに済む最良の方法だとも気付いているのだ。

だから、久住は警察には捕まったが、自分の心や過去までは警察に囚(捕)われていないと信じ、警察に対しても、自分自身の心に対しても “完全黙秘” で闘い続けると思う。

高校生の久住は全てを洪水に流され絶望のどん底を味わった

また、一部の視聴者は、久住が東日本大震災の被災孤児であるとの見方があるようだが…

最終回の感想に書いた通りに、私は2009年8月9日に発生した関西圏に甚大な被害をもたらした台風21号で、当時は兵庫県に住んでいた「16歳の高校生の久住」が兵庫県佐用町での豪雨によって作用川が氾濫して決壊して洪水の被災者であると見ている。

とは言え、東日本大震災ほどの大災害でないが、高校生だった久住が、家族や家も洪水に流され、孤児になって絶望のどん底を味わったのは間違いないはず。

久住の完全黙秘は、野木脚本が久住に"希望"を与えた優しさ

第9話での志摩がRECに言った「あなたは点と点を強引に結び付けてストーリーを作り上げてるわけだ」を引用すれば、人は相手を理解する際に、点と点を自分の思い込みで勝手に繋いで過去(物語)を作ることがある。それが、時にネット上の「特定厨(ある情報から個人や場所を特定する人物の蔑称)」を生み出し弊害もある。

しかし、事実と事実を結び付けて相手のことを想像し、思いやる行為は、人と人が互いを分かり合い、手をつないで生きていくには必要なことでもある。あの病室のシーンが回想であり、その後がどうなったのかは「未だに完全黙秘」としか描かれていない。

そこに、脚本家・野木亜希子氏が、いつかは久住のことを理解し、共に苦しみ、最後には寄り添う人間が現れるかも知れないと言う “希望” を残したと思う。

「最終回 ゼロ」でなく「#11 ゼロ」であった意味…

そして、最終回で絶対に触れておくべき名台詞が、志摩と伊吹の以下のやり取りだ。

志摩「てかさ これから どうなるんだろうな~」
伊吹「毎日が選択の連続」
志摩「(頷く)」
伊吹「また間違えるかもな」
志摩「うん?」
伊吹「まあ間違えても ここからか」
志摩「そういうこと~」
志摩「密! 密!」
伊吹「ディスタンス ディスタ~ンス」
無線「警視庁から各局 神宮署管内 強盗事案入電中
   現場は清井橋交差点 近い局どうぞ」
伊吹「機捜404 ゼロ地点から向かいます どうぞ」

このやり取りのあとに、伊吹と志摩は、巨大な「0(ゼロ)」から初動捜査に向かう。新しくなった国立競技場を、空撮で巨大な「0(ゼロ)」に見立てたカットを2つ繋いで、競技場の天井の白い部分に「#11 ゼロ」のテロップが出て、『MIU404』のロゴが出て終わる。

そう、「最終回 ゼロ」でないのだ。そして事件が始まった。実は『MIU404』は最終回を迎えていないのではないだろうか? まだまだ続く、永遠の物語。そう解釈したら楽しくなる。

『MIU404』が私に教えてくれたこと…

また、本作を見て、改めて自分の日々を見てみると、意外な程に、小さなスイッチがたくさんあることに気付く。

でも、本作は、例え間違った選択をしても、生きていれば、何度でもやり直せることを教えてくれた。と同時に、目の前にやって来た一つひとつのスイッチを、如何に大切に選んで生きていくことこそが、人生の無限の可能性に繋がることも教えてくれた。

あとがき

「0(ゼロ)」は、全ての出発点でもあり、やり直し地点でもあるわけですよね。そして、無限の可能性も秘めている数字でもあります。また、「0(ゼロ)」は「○(丸)」と解釈すれば、全ての連ドラの最終回が、“丸く” 収まる結末ばかりでは「ない=0」し、本作の最終回は無限の可能性を秘めているとも受け取れます。

本作のテレビドラマとしての魅力を敢えて更に深掘りするなら、毎回、そして最終回を見終えても、常にテーマ染みたお説教臭さが一切なく、視聴者自らがドラマの「答え」を探し求める楽しさを与え続けたことだと思います。

リアルタイム視聴者はリアタイ視聴なりに逐次、先の展開を予想する楽しさを。じっくり観たい録画派は格好の餌食になりました。物事をじっくり考えることが少なくなり、手軽にSNSでやり取りする時代へ、「答え」を探求する重要性も提示してくれたと思います。

最後に、長文を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。これまで書いた『MIU404』に関する全ての投稿のリンクは、この記事の最下部にあります。


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【『MIU404』に関連した投稿】
ドラマ「MIU404」第3話に登場した「バシリカ高校」と言う学校名を勝手に掘り下げてみた
ドラマ「MIU404」第3話に登場した「バシリカ高校」の制服が、芳根京子主演「表参道高校合唱部!」と同じ! 両校に共通点も!!
ドラマ「MIU404」第3話の「バシリカ高校」校長室の"額に入ったメッセージ"を勝手に掘り下げてみた
ドラマ「MIU404」第4話を、イソップ挿話「ライオンとウサギ」に重ねて、勝手に掘り下げてみた
まさか「MIU404」と「博士が愛した数式」が繋がり、更に「アンナチュラル」にも繋がる!?


【これまでの感想】
第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話 第10話 最終回

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Author : みっきー

★管理人:みっきー

★職業:宴会/映像ディレクター(フリーランス)

★略歴:東京下町生まれ千葉県在住。ホテル音響照明映像オペレータ会社を経て、2001年独立。ホテルでイベント、パーティー、映像コンテンツ等の演出を手掛ける。活動拠点は都内と舞浜の有名ホテル等。

★ブログについて:フリーの宴席/映像ディレクターが、テレビ,映画,CM,ディズニー,音楽,仕事等を綴ります。記事により毒を吐きますのでご勘弁を。

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