「逃げるは恥だが役に立つ」ムズキュン特別編 [再放送] (第5話・2020/6/16) 感想

TBSテレビ・『逃げるは恥だが役に立つ』ムズキュン特別編 [再放送](公式)
第5話『ハグの日、始めました!』の感想。
家の中でぎくしゃくせずに済む解決法として、恋人同士になろう!というみくり(新垣結衣)の突拍子も無い提案に驚きを隠せない津崎(星野源)。みくりは「恋人のおいしいところだけがほしい」とハグの提案をされるのだが、小賢しい作戦で攻め立てられ津崎はどんどん追い込まれていた。そんな中、少しずつみくりに心を開きはじめ、距離が近づいたように思えた2人に新たな試練が襲い掛かるのだった…。ハグ大作戦は成功するのか?!
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
原作:海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社「kiss])
脚本:野木亜紀子(過去作/重版出来!、アンナチュラル、コタキ兄弟と四苦八苦)
演出:金子文紀(過去作/G線上のあなたと私、恋つづ) 第1,2,6,7,9,最終話
土井裕泰(過去作/重版出来!、カルテット、凪のお暇) 第3,4話
石井康晴(過去作/花より男子シリーズ、花のち晴れ、テレウスの船) 第5,8,10話
音楽:末廣健一郎、MAYUKO
オープニングテーマ:チャラン・ポ・ランタン「進め、たまに逃げても」
主題歌:星野源「恋」
今回は特別編の編集が良いので感想も少し演出と編集寄りで
今回は、冒頭から、未公開シーンが分かり易く編集されており、意外と多くの視聴者が気付いたのではないだろうか? ただ、当blogの感想の主旨としては、未公開部分を探すでは無いので、今回も気付いて欲しい部分にのみ絞り込んで、いつも通りに感想を書こうと思う。
とは言え、結構、第4話までより、特別編の編集が与えている印象の差が大きいので、感想も少し演出と編集寄りになるかも知れない…(謝)
津崎が首を傾げる動作が1回増えただけで、印象が変わった
で、早速で恐縮だが、2分30秒頃。みくり(新垣結衣)に言われて、ハグされたい時が良く分からない津崎(星野源)の首を傾げる動作が、みくりとミラーリングする場面で、本放送時は2回なのに、特別編で1回分追加された。
そのために、余計に平匡の悩んでいる様子とお茶目な雰囲気が増していた。僅か1回の首を傾げる動作の追加で、ここまで印象が変わるのか…と言う感じだった。
津崎が会社で沼田と日野にからかわれるシーンの高速編集
最初に、この第5話を見た時に一番感じたのが、本作のカット割りの細かさ。当時の感想でも、その点を強調している。どうやらそこは、スタッフも相当に意識しているようで、例えば、7分40秒くらいからの、津崎が会社で沼田(古田新太)と日野(藤井隆)にからかわれるシーン。
細かいカット割りで3人の会話劇が暫く続いた後に、まんざらでもない津崎を斜め横からのアップで見せた後、突然みくりの「平匡さんが一番好きですけど」のインサートが1カット入る。
するとニヤけた津崎が真正面のアップになっていて、ふと我に返った瞬間に、一瞬津崎の丸まった背中のカットが入る。そして津崎は机の下に顔を隠す。カメラも机の下から津崎を狙う。そこにモノローグは続きながら、また一瞬だけ津崎の丸まった背中のカットから机の下へ続く。
そして、冷静さを取り戻して津崎が顔を上げるカットは、最初と同じ真正面受けだがやや引いたサイズになっていて、更に津崎を左右からそれぞれ沼田と日野の反応を入れ込んだカット割りで正面で終了。この間、僅か24秒に、11カット。この細かなカット割りが、実に津崎の「思い込みの強さと慌てっぷり」を描いているのだ。
僅か24秒間に11カットでも凄いのに、特別編は更に加えた
しかし、この特別編には、もう1カット足されていた。沼田と日野が津崎に抱きついて、更に津崎の「あッ 大丈夫なんですけど(休憩室の同僚に向かって)見ないで下さい」の台詞が加えられた。これによって、津崎の「思い込みの強さと慌てっぷり」のシーンに、しっかりとオチがついた印象が強くなった。
逆にない方が、直後の百合(石田ゆり子)とのシーン展開にテンポの良さが出ていたわけだが、特別編の方がコミカル度が若干増したと言う感じ。なかなか、編集の難しさを知る勉強になる編集だと思う。
コロナ禍だからか、「ハグ」の特別感を強調する編集に
この当時は「ハグ」と言うのに、それほどの特別な意味を感じなかったが、例え夫婦であっても、今のコロナ禍では、外出先から帰って来てハグするにしても、その前にうがいと手洗い、場合によってはシャワーを浴びて、自衛するべきご時世(と、私は思っている)だから、こうやって、津崎とみくりがハグの練習をするのを見るだけで、心の疲弊や緊張感が解れて来る。
因みに、ここのみくりがハグをするために津崎に両手を広げるカットも、みくりが「照れますね」と言うまでの尺も長くなっており、より、「ハグ」の特別感を強調する編集になっていた。
「ハグの日」を制定しようと話し合う場面も特別編は違った
さて、尺の短いカットを繋ぎ合わせて、所謂「高速なカットバック」の編集をすることで、そこに居る登場人物の心情が刻々と変化していく様子を描くのは、前述の津崎の会社で説明した。それと同じ編集が成されているのが、19分からの津崎とみくりが食卓で「ハグの日」を制定しようと話し合うシーン。
最初の約30秒間は、前述の通りの編集で、「ダイアローグカット編集」とも言われる、要は「台詞と台詞の間をあまり開けずに畳み掛ける」手法を使っている。そして、本放送時のこのシーンは最後までその手法で突き進んだ。しかし、特別編では、例えば、以下のやり取り。
みくり「もう一度 ハグチャレンジを申請すべきか決行悩みました」
津 崎「じゃあ日にちを制定することに異論は?」
特別編では、みくりの台詞と津崎の台詞の “間” が長くなっていた。これが、20分4秒の津崎の「よろしくお願いします」まで続く。イメージで言うと、みくりはポンポンと提案を続けるが、津崎は “ほんの少しだけ考えている” ような感じだ。
全部で6か所伸びており、計算した訳ではないが、恐らく20フレーム(1秒間=30フレーム)くらいの短い尺だけ足されている。ここで足した効果は、会話のスムーズさ。序盤のカット割りのままだと少々せっかちで窮屈な印象だが、後半はお互いの意見を尊重して会話をしている印象が強くなった。
スムーズさと滑らかさ。これ、この第5話で津崎とみくりの関係についても、同様に大事な事柄だから、編集とテーマが平準化されたと思う。因みに、「ハグの日」が決まった後に、みくりが箸でご飯を口に運ぶカットも、追加されたような気がする…
公園で百合に"結婚してる感"を見せるシーンの映像の妙
さて、第5話の演出家は、本作初担当で代表作は『花より男子シリーズ』や『クロサギ』の石井康晴氏だ。今回はこれまでよりも小ネタは少なめだが、先に書いたように絶妙なカット割りで登場人物の心情描写を魅せるテクニックは、本作初担当なのに全く違和感がない。
そんな石井氏の演出と編集が光ったのが、31分22秒からの公園でのシーン。ここから最後のクライマックスまでは、当然に秀逸な脚本と、的確な演技があるからこその名シーンなのだが。
まず、このシーンは、本作が得意とする広い屋外ロケで “ちまちました内輪の話” を面白楽しく描くパターンだ。人々の地面への影の長さと日光の強さから、かなりの早朝ロケであろうことは推測できる、しかし、家族連れのエキストラを大量投入することで、早朝っぽさを薄めた上に、津崎とみくりの “ちまちま感” を強調している。
因みにビルの上からのカットの、公園に立つ津崎とみくりには一切 “影” がないから、別撮りだろう。
百合の存在を忘れてからの展開が絶妙過ぎる
ここからの展開が絶妙なのだ。このまま、ざっくりと時間経過して百合(石田ゆり子)に “結婚感” を見せれば済む話なのに、敢えてぐるりと遠回りをする。まず、津崎がみくりに幼少期のピクニックでの母親が作った「瓦そば」の思い出話をすることで、実は「津崎の両親」を描く。
次は、途中でみくりが席を離れて、津崎の実家への電話で、ほのぼのとした家族関係を。続いて、元ヤンでみくりの親友・安恵(真野恵里菜)との電話のシーンでは離婚のシリアスシーンを。
この明暗のある2つのシーンを並べ(津崎とみくりは、それぞれ一方しか知らない)た状況を創り出して、いよいよ津崎とみくりが「人生」を考えるくだりへ進んで行く。因みに、43分頃、みくりと安恵の電話のやり取りが終わったあとに、安恵の娘・蝶(読み:ひらり)の泣き顔のアップと、俯くみくりのバストアップも追加されているような気がする(未確認)。
モノローグを一切排除した公園のシーンは興味深い
この屋外の公園のシーンは、敢えて本作の特徴であるモノローグを一切排除している点も興味深い。契約結婚中の津崎とみくりが、百合に “結婚してる感” を見せるために来た公園で、津崎は自分が知らない両親の「幸せエピソード」を語り、一方のみくりはやっさんの「離婚」の話をすると言うナンセンスさとシリアスの絶妙なバランスはお見事。
「罪悪感を二人で背負う」と言う正直さと真面目さ
この、かなりいい雰囲気の会話劇を、百合の存在を忘れていたと言うハプニングであっさりと中断してしまう思い切りの良さ。そして、「ロビーではハグをする」と言う馬鹿馬鹿しい行動へ。でも、そこは津崎が冷静な判断を下して…
平 匡「百合さんがホントのこと知ったら
妹の桜さんに嘘をつかなきゃいけなくなるし
それは つまり 百合さんに
罪悪感を肩代わりさせるということです
僕達の罪悪感は
僕達で背負うしか ないんじゃないでしょうか」
みくり「私達で…」
平 匡「はい 僕達二人で」
このやり取り、本当にいいなって思う。論理的思考回路の二人だからこその「罪悪感を二人で背負う」と言う正直さと真面目さが滲み出ている。
台詞はみくりだけにして、津崎の心情は視聴者が想像する
このやり取りで十分にクライマックスように盛り上げて、1分間以上のハグ。最初は背景も手前もぼかして、津崎とみくりにだけピントが合っているロングショット(引いた画)で全身を見せて、その後は、単純にアップの津崎とみくりをカットバック(切り返す)するだけの編集なのだが。
台詞をみくりだけに絞り込むことで、津崎の感情は視聴者に委ねるかたちになっている。だからこそ、津崎がみくりの頭を撫でるくだりまで、視聴者はみくりの気持ちになってドラマを楽しめると言う仕掛けなのだ。
特別編で、津崎がみくりの頭を撫でる場面の良さが際立った
その上で、特別編は更に津崎が頭を撫でる直前、49分30秒くらいに、みくりの背中に合った津崎の手をみくりの頭に乗せる1カットを足した(と思う)。これで、「僕達二人で」が更に強調された。そして、そのハグを百合が見て、大団円。
いやあ、初見の時も思ったが、この公園のシーンの脚本と演出と演技の全てが、ここまでやるか、ニクイなぁって感じだ。
あとがき
とにかく、みくりと津崎が、論理的思考で頭が良いと言う設定が、効果的に物語に反映されているのが楽しいです。その時々の感情を論理的に解釈して、行動する。だから、生活の全てが計算尽くしなのに、結果的に行き当たりばったりで、棚から牡丹餅的に上手く行ってしまう。それが、微塵もご都合主義に見えないのは、お見事です。
そして、今回の恋ダンスには、古田新太さんと藤井隆さんがリモートで初参加。回を重ねる毎に、リモートの部分が増えて行くのも楽しいですね。次回は、旅館で大爆笑の回ですね。楽しみ、楽しみ…
今後も再放送の感想を書くかは未定です。書きたくなったら書きます。何せ、本放送時の感想で、いつものような演出解説はやり尽しておりますので、そちらを読みたい方は、下記のリンクを参考にして下さい。全話の感想を含めて『逃げ恥』関連の全ての情報のリンクが掲載されております。演出のちょっとした勉強にもなると思います。
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【ムズキュン特別編 [再放送]の、これまでの感想】
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