スカーレット (第41回・2019/11/15) 感想

NHK総合・連続テレビ小説『スカーレット』(公式サイト)
第7週『弟子にしてください!』の
『第41回』の感想。
※ 毎日毎日の感想なので、私の気分も山あり谷ありです。ご理解を。
※ また、称賛、絶賛の感想だけをご希望の方は読まない方が良いです。
喜美子(戸田恵梨香)のお見合いが破談。さらに水を酒と偽り飲まされ、父・常治(北村一輝)が激怒。喜美子が火鉢の絵付けを学ぶ了承を得るのに失敗する。翌日、喜美子を後押しできず謝る母マツ(富田靖子)と、居合わせた妹たちに、喜美子は見ない方がいいと忠告されながらのぞき見た絵付け師・深野(イッセー尾形)の創作する様子と、秘められた半生を明かす。貧しい幼少期、従軍した戦争体験。喜美子はある決意を家族に告げる。
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
なかなか、計算されたアバンタイトル!
今回も、アバンタイトルから演出が、ちゃんと計算されている。前回のラストシーンでは、喜美子(戸田恵梨香)の作った “おはぎ” を食べるのがラストシーンで、視聴者に “先” を見たくなるような仕掛けを施した上に、ちゃんと “おはぎ” で “家族” を描くことで、単純に「喜美子の進路」を描くドラマでないことを提示した。
しかし、今回のアバンでは、喜美子の「お母ちゃんのおかげで分かったわ 自分が何したいんか…」のあとの、母・マツ(富田靖子)の「どういうこと?」の台詞で切って、メインタイトルに繋げた。
このことで、マツの台詞と視聴者の気持ちが一体となり、いよいよ “先” が描かる期待感も高まるし、前々回、前回、そして今回がつながったエピソードになっていることも強調された。なかなか、計算されたアバンだと思う。
ゆったりした劇伴に、スローモーションの深野と絵の具が幻想的…
そして、主題歌明け。喜美子が何をしたいのかを家族に話すのかと思いきや、焦らす。それも、喜美子の変顔で楽しく焦らす。そして、一般的に「生みの苦しみ」と言われる創作活動を “明るく楽しく” 描き始めた。演出的に興味深かったのは、見ない方が良いと忠告されながらも、覗き見した絵付け師・深野(イッセー尾形)の創作する様子。
ゆったりした劇伴に、少しだけスローモーションにした深野の絵付けする感情豊かな表情と、白い火鉢に筆の絵の具が染み込んで行く様が、何とも幻想的だった。
深野の台詞が秀逸! 本作の名シーンの一つに入れるべき!
その後は、深野の秘められた半生が描かれるのだが、最初は喜美子が川原家で家族に伝える形式で始まり、次に回想に映って夕刻の絵付け室で深野が喜美子に話す形式へ。この辺は、イッセー尾形さん一人の名演技が見事なドラマの緩急を作り出す。戦時中に従軍画家をやる以前の幼少期の話になると、こんなことを言っていた…
深野「お金がないし。
欲しいもんは 何でも 僕が代わりに絵で描いたった」
幼少期は両親のために絵を描くと「ええよぉ」と褒めてくれ、笑いながら絵を描いていたこと。そして、笑いながら描いていた絵が、戦地では殺し合う人を描くしかなかったこと。そして戦後は、「もう あかんわ。もう描けん」と他の仕事を転々として、「そんな時 こいつと出会ったんやぁ」と深野が目の前の火鉢を指さす。ここの深野の台詞が実に秀逸。
深野「火鉢によ 絵が描いてある。えっ! うわ~! 思てな。
こんなとこに絵!? 暖とるために絵なんていらんやん? なあ?
そやけど 描いてあるんや。どういうこっちゃ!?
あっ そういうこっちゃ そうか~
これが戦争が終わったっちゅうことや。
火鉢の絵ぇ見てな 実感したんや。まあ… なんと ぜいたくな…
なんと ぜいたくなことを日本は楽しむようになったんや。
僕は叫んだわ。『火鉢に絵! ええよぉ!』」
「笑いながら絵を描ける幸せ」こそが、深野の火鉢に絵付けをするモチベーションであり、平和な日本を喜ぶことであり、深野の人生そのものであることが、この秀逸な台詞とイッセー尾形さんの演技で見事に描かれた。だから、深野の言葉に喜美子の心が大きく動かされるのも、実に自然に映る。これ、本作の名シーンの一つに入れるべきだと思う。
川原家と絵付け室の "2つのシーンの切り返し" が巧み!
そして、場面は回想から川原家に戻る。直前の深野の言った言葉を、喜美子が逐一説明したのが分かるような、マツや妹たちの受けの芝居も、とても良い感じ。冒頭から10分過ぎまで、ちゃんと映像も演技も繋がっている。そして、また絵付け室。で、また川原家。この二つのシーンの切り返しの編集がとても良いと思う。
と言うか、切り返さないと描けない。だって、川原家で喜美子が一方的に説明するのでも、絵付け室での深野と喜美子のやり取りだけでは、前者だけでは深野の心情が中途半端になり、後者だけでは喜美子の気持ちが描き切れない。だから必然的に場所と時間軸を行き来させるしかないのだが、褒めたいのは、どの台詞をどの場面に使うってこと。
喜美子が代弁するか、深野の台詞にするか…みたいな部分。それが上手く行っているから、作り手たちが視聴者に伝えたいことも的確に伝わるし、映像的にもテンポが生まれるし、「イッセー尾形劇場」にもならず、ちゃんと主人公の喜美子が話の中心に存在している。これ、本当に良く出来ていると思う。
最近の朝ドラで、ここまで就職を真摯に描いたのは久し振り
そして、10分過ぎ。深野が究極の選択を喜美子に突き付ける。
深 野「そもそも君は… 絵付けやりたいんか?
絵付け師になりたいんか? どっちや?」
喜美子「そういうことの前に うちにはお金が…」
深 野「お金の話なんかしてへん」
喜美子「ほやけど…」
深 野「負けたらあかん。
何かやろ思た時に お金がないことに気持ちが負けたらあかん。
どっちや?」
絵付けやりたいんか 絵付け師になりたいんか」
これ、好きなことを生業にする人、したい人の全てがぶち当たる分厚い壁であり、やりたいことを仕事にしている人は乗り越えないといけない高いハードル。朝ドラで、こう言うことを、ここまでヒロインに真正面から突き付けたのって、最近にあっただろうか? こう言う部分を真面目に描こうと言う姿勢は応援したい。
チェロの劇伴を使って喜美子の決断に説得力を持たせた!
そして、11分の川原家の会話も良かった。喜美子の一番下の妹・百合子(住田萌乃)は、喜美子の言っている意味が分からない。マツは「遊びでやるか 仕事にするか?」と的外れ(マツは、的外れで良い。それが、マツの存在意義だから)。上の妹の直子(桜庭ななみ)は「お金になるか ならんかや」と現実的な解釈なのも、直子らしい。
そして、大阪の荒木荘で大久保から「一人前の女中」として認められるまで必死に頑張った喜美子の解釈は…
喜美子「覚悟があるかどうかやな」
実に喜美子らしい解釈だ。そして、前回で描かれた、マツの他の会社で週一回絵付けを教えてくれると言う提案と、この度の深野の言葉から導き出した喜美子の答えがこれ。
喜美子「うちは フカ先生についていきたい」
ここから、ちょっと重苦しいチェロのソロの劇伴がスタート。ここでちょっとウンチクを。 チェロは音域的に人の声に一番近い楽器。人の声に近いと言うことは、人間の可聴域に丁度合い易い。だから、チェロの発する音は低音から高音までしっかりと人の耳に届く。だから、落ち着く。
チェロの音色が響くことで、喜美子の「決めた。うちは フカ先生の弟子になる」の決断が、思い付きでなく熟考した結果であると見える。今回もお見事だ。
あとがき
ラストの居酒屋のシーンも、上手く作りましたね。喜美子の決断で終わっても良いのに、大野雑貨店から、おしぼりを経由して、喜美子の父・常治(北村一輝)が、目の前の男が深野と知る…なんて、これまた喜美子の絵付けに反対した常治が次回でどんな反応をするのか、また “先” が見たくなりますね。
どうやら、このまま良い感じで今週は終わりそうですし、週明けにはどうかな?と思った演出家も回を重ねる毎に良くなって来ているので、かなり安心出来る朝ドラになって来たと思います。
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