スカーレット (第30回・2019/11/2) 感想

NHK総合・連続テレビ小説『スカーレット』(公式サイト)
第5週『ときめきは甘く苦く』の
『第30回』の感想。
※ 毎日毎日の感想なので、私の気分も山あり谷ありです。ご理解を。
※ また、称賛、絶賛の感想だけをご希望の方は読まない方が良いです。
再会した草間(佐藤隆太)から、生き別れた妻が別の男と店をやっていると聞かされる喜美子(戸田恵梨香)。そのまま草間を連れて店を訪ねると、遠慮する草間の背中を押して入店。ついに草間が妻と再会する。しかし草間は何事もなかったように、普通の客として振る舞う。喜美子も草間にあわせて、妻に声をかけられない。そして草間は厨房にいる妻の新たな男を見つけると近づく。一方、信楽の父・常治(北村一輝)から緊急の連絡が…
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
行先は決まっているから、引っ張らない。この潔さ!
凄い。もうアバンタイトルの数カット分の編集と演出、そして脚本が。
前回で、たっぷりと描いた再会した草間(佐藤隆太)と喜美子(戸田恵梨香)の会話をバッサリとカットして、サイン会での出会いを数カットの二人のカットバックと2ショットで処理して、その直後は、前回で喜美子が「行きたい所があります」を入れて、もう速攻「草間さんの奥さんがやってるお店です」だもん。
ここまで僅か 30秒。本作をちゃんと観ている視聴者なら、そして喜美子の人間性を理解しているなら、喜美子が草間と夕食を食べに行く店は、草間の妻と “今の夫らしき男” が経営している店しか無いに決まってる。決まっているから、引っ張らない。この潔さ!
“先” を想像させる時は少しだけ丁寧過ぎる位に描写して視聴者を焦らすが、決まっていることで焦らさない。この部分だけでも、今回が秀作の 15分間になるのは想像出来る…
嘘の付けない喜美子、本音を言う喜美子は、いつも商店街…
主題歌明けのシチュエーションも面白い。これ考えすぎかも知れないが、以前に喜美子が実家に送った初月給の全額「1,000円」が空き巣に盗まれて、父・常治(北村一輝)が “給料の前借り” を直談判しに、わざわざ信楽から荒木荘に乗り込ん来た時、喜美子と常治は「商店街」で大声で言い合ったり笑ったりしていた。
そして、今回も喜美子が大人の男性に本音を、意見をぶつけるのが商店街。前回の草間と喜美子の会話劇が終始、喫茶「さえずり」の店内だったから、店内から屋外と言う変化球的な面白さもあるが…
喜美子が人通りのある場所「商店街」でも、相手が(父は当然だが)年上の男性に “恥ずかしがらずに物言い” が出来ると言うのが、あの荒木荘の物干し場で大声で笑う喜美子と重なって、“嘘の付けない子” って感じが強調するのを、同じ「商店街」と言うシチュエーションで描くのは面白いと思う。
店内を照らす逆光の強弱で、三者三様の心情を映し出した!
草間の妻・里子(行平あい佳)の店に、草間と喜美子が入ってからの息を呑む展開。劇伴が消え、草間が開ける扉の音が大きく響く。里子がその音に振り向いて草間との再会が始まった。照明は夕日の柔らかさと持ちながら、窓の上の方はやや映像的には白飛びしていて強さもある “逆光” で三人を照らし出す。
逆光で透ける里子の頭の白い三角巾と、夕日を背負って暗めの照明になっている草間、夕日が当たらなそうな席に座る喜美子、この三者三様の照明と立ち位置が実に、それぞれの立場の違いを上手く表現していると思う。
喜美子が「ふっ~」と一つ大きくため息をつくと終わる劇伴…
しばらく緊張の時間が過ぎて、他の男性客一人が入って来る。その時の扉の音は小さいから、やはり草間の気持ちが扉の音で表現されたと言う訳だ。そして、まだ姿を見せていない厨房にいる“妻の今の夫らしき男” が「はい~」と里子の注文に答えた瞬間から、ピアノソロの劇伴が始まる。
短音が印象的な曲に合わせるかのように、喜美子が「ふっ~」と、一つ大きくため息をつくと、劇伴も終わる。前回の草間との会話劇でも、ピアノの劇伴が喜美子の心情を表していたが、今回はもっとハッキリとした演出だ。
会計→つわり→店外へ→離婚届→ナレーションの流れが秀逸
そして、草間が会計を済ませようとすると、女の子と母親の客が入って来て、母親の方が「里ちゃん つわりは どう?」と衝撃的な一言をさり気なく言って座る。結局、草間は里子に対して注文と会計しか話をせず、喜美子と店を出て来る。このタイミングで、またピアノソロの劇伴の続きが流れる。
カットが店内に戻ると、何となく切なそうな里子が、草間が “半分以上残した焼き飯” を片付けている。そして、読みかけの新聞を退けると、新聞の下に草間宗一郎と書かれた「離婚届」と「幸せに 宗一郎」とだけ書かれた大学ノートの切れ端が置いてあった。
メモを手に泣く里子。そして、前回と同様にピアノにヴァイオリンが絡んでくるタイミングで、このナレーションが被って来る…
N「離婚届を 草間さんが置いていったことを
喜美子は知りません」
前回の会話劇でも、ピアノとヴァイオリンのアンサンブルの劇伴は、喜美子の心情を代弁している。前回では、 草間の奥さんが生きていたことに喜ぶ喜美江に、草間が「僕じゃない 別の人と店をやってる」と答えたあとに。今回は、喜美子自身が何とか草間と里子の関係にけじめをつけさようとしたものの、何も出来なかったことを劇伴で表現した。
そして、それだけでは弱いと思ったのか、このナレーションが脚本にあったから、あの劇伴を演出家が選んだのかは分からないが、明らかに喜美子の心情を的確に補強している。この辺の脚本と演出と演技の絶妙な組み合わせは、朝ドラで見るのは久し振りだ。
「喜美子の失恋物語」と「草間の離婚話」を比べると…
これ、少し時間軸を巻き戻して考えてみると、もっと凄いことが分かる。先日の「喜美子の初恋と失恋物語」と「草間と里子の離婚話」を比較してみるのだ。前者は、もう喜美子の切ない気持ちを直球勝負の脚本と王道的な演出で描いて、視聴者を喜美子に共感させるのに成功した。
今回もオーソドックスと言ってしまえばそれまでだが、ただ、脚本に書かれている台詞以外の「ト書き」や「間」の描き方が、より活かされている。もちろん、俳優の存在感と演技力があるから可能なのだが、似たような切なくてシビアなエピソードなのに、きちんと一週間の中で描き分け、視聴者を飽きさせない工夫には脱帽だ。
緩急の付け方が徹底していて、気持ちが良い15分間だった
そして、何も知らない喜美子は “子どものように” 飴玉を食べながら、それを草間にも渡して食べさせて笑顔。そして今度は「商店街」の片隅で、喜美子が草間に自分の夢を語る。で、草間の名刺を貰い、手紙を書くのを約束。このまま終わるのかと思いきや、やはり喜美子は「商店街」で大声を出す。
そう、あの草間流柔道の礼の儀式を組み込んで、明るい劇伴に乗せて、お互い笑顔での別れ。そして、明るい劇伴のまま常治から電話がかかって来て、「お母ちゃんがな 倒れた」で劇伴ストップ。もう、こうして文字で表現するのが物足りない位に、最初の30秒から最後の1秒までメリハリ、緩急の付け方が徹底していて気持ちが良い15分間だった。
あとがき
今朝は早くから仕事だったので、急いで録画を見て感想を書こうと思いましたが、あまりにも情報量が多くて、3回観ましたが、まだ飽きません。そして、書きたいことも山ほどあります。でも、今回は下記の草間についても書きたいので、この位にしておきます。先週、今週とかなり完成度の高い朝ドラになっており満族です。
これ、いつかは書こうと思って機会を待っていたのですが、今回が丁度良さそうなので、草間と言う登場人物についての私の思いを綴ってみます。草間には謎が多い。放送開始直後は「謎の旅人」と言う表現がピッタリでした。現代を舞台にしたドラマでは、あまり登場しない設定の人物が草間。
前回と今回を見ても、まだ草間は、心のどこかに傷を抱え、過去に辛い経験をした人で、他人の痛みや辛さを分かって寄り添える人…の印象は変わりません。だから、幼少期の喜美子と最初に出会った時も、前回で再会した時も、今回のエピソードも、草間と喜美子は互いを思いやり、互いに刺激し合える関係として描かれるのが、とても自然に映る…
私は、これで草間が退場するとは思いたくない。いや、絶対に期待したいのは、また月日が流れて、草間と喜美子が再会した時、更に互いが以前よりも成長していたり、思わぬ影響力を与え合ったりするのが見たいです。
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