スカーレット (第22回・2019/10/24) 感想

NHK総合・連続テレビ小説『スカーレット』(公式サイト)
第4週『一人前になるまでは』の
『第22回』の感想。
※ 毎日毎日の感想なので、私の気分も山あり谷ありです。ご理解を。
※ また、称賛、絶賛の感想だけをご希望の方は読まない方が良いです。
信楽の実家が空き巣被害にあった知らせ。さらに喜美子(戸田恵梨香)の給料を前借りするため、父・常治(北村一輝)が大阪に向かっていると聞き、喜美子は動揺する。平常を装って働いていると案の定やってくる常治。女中の先輩・大久保(三林京子)を交えた久しぶりの親子の再会だが、緊張感が漂う。常治と喜美子は給料の前借りをどちらが切り出すか、大久保に隠れて押しつけ合っていると、大久保から思いも寄らぬ事実が明かされ…
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
アバンタイトルが "意外なシーン" で始まった…
前回のラストで、喜美子(戸田恵梨香)の初月給の全額「1,000円」が空き巣に盗まれた信楽の川原家。そしてラストシーンは、喜美子の職場に乗り込んで給料の前借りの直談判をしに大阪やって来ちゃった喜美子の父・常治(北村一輝)のカットと、来阪することを知り愕然した喜美子のアップのカットバックで終わった。
だから、今回は、その驚いた喜美子の表情繋がりでアバンタイトルが始まると思ったら全くハズレた。ドタバタ騒動とは無縁の、住人たちもいないし、日差しの角度から推測すると朝ご飯の片付けも終わって、ホッとした頃だろうか。
絨毯の染み抜きを教え教わるカットの構図に注目して欲しい
これまた、前日の喜美子が暗めの部屋で ちや子(水野美紀)と話していたを ちや子の部屋の方向から撮影したカット割りと、ほぼ同じサイズで、画面のやや上手(右側)奥の小さな四角形のエリアに、女中の先輩・大久保(三林京子)と喜美子が配置された構図。
先日のカットと違うのは、前回は手前が暗くて奥が明るく、前回は喜美子がカメラ目線方向で ちや子が背中向きだったのに対して、今回は大久保が “強さ” を強調する下手(左側)に立って上手向きで、喜美子は “苦悩” を強調するために上手に正座して下手向き。
カメラの構図は同じなのに、照明の明暗と人物配置で、2つのシーンが喜美子にとって真逆を意味することが分かる。こう言う演出も私好みだ。なお、この理論が分かり難い読者さんは、以前に投降した『[演出プチ講座] 映像の掟~画面内の人物の位置や視線(目線)の向きには意味がある~』を面倒でも読んで頂けると分かり易いと思う。
大久保は両手で大きな荷物を抱え、常治は軽いカブを持って…
で、アバンタイトルで描かれたのは、前回で描かれた川原家と喜美子との電話の回想で、もう “心ここに在らず” の喜美子。と、遂に荒木荘へやって来ちゃった常治と、大久保のご対面のシーン。このカットも面白い。常治も大久保も手ぶらでないの。大久保は両手で大きな荷物を抱えて持って、常治は両手に軽いカブを持って立っている。
こう言うのを見ると推測しちゃう。お互いに “何かを抱えてる人間同士” ってことを映像で描いているのではないかって。それに、二人共も手ぶらだと印象に残らないが、何かを持っているだけで「おやっ!」って違和感を作れる。それが良い意味で、第22回のアバンの “ツカミ” になっているのだ。なかなか考えられたシーンだと思う。
絨毯の染み抜きを健気にやっている喜美子に微笑む常治…
主題歌明けの脚本と演出と演技も楽しい。数秒だが、女中の仕事(絨毯の染み抜き)を健気にやっている娘の様子を見て、ちょっと嬉しそうな常治のカットがあった。これも良い。いくらクズ親父でも父親だから娘の働く姿を見てホッとするのは当然だから。
大久保が常治に接客するカットでも演出が統一されている
でも、どこか似たもの同士の性格の父と娘なのだから、久し振りに再会した途端に言い合いになっても不思議でないのに、この脚本家と演出家は敢えて無言で対峙させて、音声は喜美子の妹・直子(安原琉那)の電話の声で代用することで、気まずさとコミカルさを創出。
更に、2人の前にやって来た大久保は、今度は両手に常治が持参した “カブラ” を持って登場して、いつもの厳しい大久保から、接客上手な女中に変身。お陰で、益々言動が不自然になっちゃう喜美子、そんな娘につられて常治も余計にソワソワ。大久保だけが落ち着いた対応と、3人の関係を明瞭に描き分けた。
3人の立ち位置も前述の通り。大久保が上手向きで常治が下手向きで、喜美子は上手や下手に動いては目線の方向もコロコロと変わる。ちゃんと演出も統一されている。これが良いのだ。だから楽しいのだ。
大久保の本音が聞けたのが良かった…
さて、6分過ぎから、大久保と常治の直接対決が始まった。先制攻撃を仕掛けたのは、大久保の意外な “喜美子の褒め殺し” 作戦。いや、褒め殺しでなく、本心だ。大久保は、ずっと喜美子のことを、「気が利かないところもあるが、薄給で良く働く子」と捉えていたのだ。
そして、オドオドしている常治の化けの皮を剥がすために、敢えて褒め殺しのように言って、常治の本心を引き出そうとしているように見えた。
まず、内職のタネ晴らしから、ドボトボ歩く父と娘の展開が見事
そして、ついに大久保が喜美子にストッキングの補修をさせていた理由を打ち明ける。それも「喜美子がお金のために一生懸命に内職している」ことを、直接喜美子に言わず、間接的に常治に喋る形で。こう言うやり取りを見ると、大久保の “優しさ” や “懐の深さ” や “年の功” や “生き様” などの人間性が自然と視聴者に伝わる。
1足 12円の内職を 128足で「1,536円」で月給より高いとは! そんな一方的な大久保の“喜美子の褒め殺し” 作戦に完敗した喜美子と常治が荒木荘を出てカメラに背を向けて、トボトボと歩く姿の情けなさや切なさや安堵が複雑に混ざり合った感情を、ボトルネックを使ったスライドギターと、ブラシを使ったドラムが奏でるブルースの劇伴が更に雰囲気を盛り上げた。
ホント、本作の劇伴はジャンルが豊富で飽きさせない。そして、劇伴に耳を傾ける余裕も作っている。前作なんて劇伴の “げ” の字も覚えていないのだから、大したものだ。
続く、真剣な表情から歓喜の表情への展開は見事過ぎる!
で、どうなるかと思いきや、背中向きだった喜美子と常治が、今度は真正面を向いたカメラアングルになって、深刻な表情から一変。大久保の粋な計らいで思わぬ “大金” を手にした父と娘の歓喜の表情に笑ってしまった。
そして喜美子は「これ 全部持ってってええよ」と言い、常治は「ああ 全部は あかん 半分でええ 半分でええ…」と返すが、なおも喜美子は「ええよ ええよ」とお金を渡す。これぞ川原家って感じのシーンに見入ってしまった。
観ているだけで、登場人物らの"人となり"が分かるのも凄い
前回の終盤での喜美子、の「うちの嫌いなこと… 途中で放り出すことです」と言った強い意思表示から、空き巣騒動を経由して、来阪した常治と、喜美子を認める大久保と、大久保に救われた喜美子の 3人を描いて、喜美子の人間性と家族愛と大久保の優しさを見事に映像にした。
それも、言いようによっては “僅か 12分間” で。観ているだけで、どんどん喜美子や大久保や常治の “人となり” が分かるように作り込まれている。これは、お見事としか言いようがない。
大久保と喜美子が一緒にカブラ料理を作る始めるシーンも感動的
13分過ぎの、大久保と喜美子が一緒にカブラ料理を作る始めるシーンも感動的だった。今度はヴァイオリンの優雅な劇伴に、テキパキと喜美子を指導する大久保のコミカルさとのコントラストが絶妙。そして、ラストカットは、言わずもがなの “あの構図” で、今度は大久保と喜美子が真正面を向いて台所仕事をする。
これで、この先の展開がまた分からなくなった。でも、そこが良いのだ。きっと巧みに計算されている。脚本も演出も。だから、あれこれフラグを立てても、きっちりと回収出来る。これは、安心して楽しめる朝ドラになって行く可能性が高まったぞ。
あとがき
喜美子にとっての、「荒木荘」と言う大阪の家族愛と、信楽の実家の家族愛を同時に描きながら、僅か 3人の登場人物だけのやり取りで、各自の人間性まで掘り下げちゃいましたね。これはスゴイです。と言うか、朝ドラは、この程度は最低限やって貰わないと困ります。次回にも期待します。それにしても「3年は帰らん」を強調したのは何故なんだろう…
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