スカーレット (第20回・2019/10/22) 感想

NHK総合・連続テレビ小説『スカーレット』(公式サイト)
第4週『一人前になるまでは』の
『第20回』の感想。
※ 毎日毎日の感想なので、私の気分も山あり谷ありです。ご理解を。
※ また、称賛、絶賛の感想だけをご希望の方は読まない方が良いです。
女中をしながら、新聞社でも試しに働き始めた喜美子(戸田恵梨香)。職場の清掃や、お茶出しが主な仕事だ。男ばかりの同僚に負けじと、勇ましい女性記者ちや子(水野美紀)の仕事ぶりに喜美子は圧倒される。荒木荘に戻ると、役者志望の住人・雄太郎(木本武宏)の映画出演が決まったニュース。「お金よりも夢が大事」という雄太郎の言葉と、深夜まで働きづめのちや子に触発され、喜美子は将来を見つめ直す。深夜まで考えていると…
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---
まえがき
この感想の投稿時点で、前々回の「Web拍手」が 106回、前回が 77回も頂戴し、コメントもたくさん頂き、ありがとうございます。
そのお礼と言う訳ではありませんが、今回から最上部の “連続テレビ小説『スカーレット』” の部分の色を、これまでの濃いめの赤色から、本作に於いて “陶芸に使用する火や甲賀の山々” からのイメージカラーである「緋色=深紅色=スカーレット色」にしてみました。違い…分かり難いですかね(謝)
意図ある映り込み。私は、こんな細かい演出が好きなのだ
まあ、気にしなくても全く問題ない部分なのだが、前回でもちょこっと気になったのが、今回のアバンタイトルでも使用された女性記者ちや子(水野美紀)が新聞社のシーン。
男ばかりの同僚たちに負けじと、勇ましくやり合ってから部屋を出て行く…。この部屋を出て行く直前に、ちや子が自分の机から荷物を持ち出しながら「そんなもん手当たり次第じゃ~」と言うカットがある。その時の ちや子の後ろに書棚があって 、そのガラスに坊主頭の男性記者の更に後ろに黄色い文字が映り込んでいる。
良く見ると ちや子と反対側の窓に書いてある「デイリー大阪」の「イ」と「大」の一部であることが推測出来る。
と言うことは、ちや子の 先輩の平田(辻本茂雄)の後ろに窓があって(実際に、平田の背中には日差しが当たっている)、それが映り込んでいるって設定(まあ、本作をずっと見て来た人なら気付いていると思うが、今日は「即位の礼」で祝日だから、初見の人もいるだろうってことで敢えて書いてみた)だ。なぜなら、他の窓はブラインドが下ろされており「デイリー大阪」は見えないから。
このシーン、何度見ても、とても新聞社が戦場って雰囲気が出ていて好きなのだが、あの黄色の文字があると無いとでは全然違う。なぜなら、このシーンの登場人物たちはほぼ全員白のシャツに地味な服装ばかり。もちろん、喜美子(戸田恵梨香)も。部屋の内装も地味。
そんな中に “黄色の差し色” が私には “職場の緊張感” の演出に一役買っていると思うのだ。だって、わざわざ映り込ませている訳だから、意図ある映り込み。私は、こんな細かい演出が好きなのだ。
「信楽焼の欠片」が今後のフラグですますよ~的なのが良かった
主題歌明け、まず前述の “意図ある映り込み” の窓が映ってホッとした。
そして、先日、喜美子が平田に鑑定を依頼していた「信楽焼の欠片」が、金銭的な価値は無いものの、室町時代の物だと言うことが分かった。朝ドラのヒロインだから、金銭的な価値が無いから要らない…となるはずは無いのは十分承知だが、逆に年代物だから やたらと大切に扱い過ぎるのも不自然。
で、今回の喜美子は「ほな大事に持っときます」と欲深くもなく、かと言って雑に蓋を閉めるでもなく、如何にもこの「信楽焼の欠片」が今後のフラグになりますよ~的に、さらりと流したのが良かった。やはり、たまには「喜美子と信楽焼職人」が繋がって行くような雰囲気は味わいたいから…
喜美子と平田の会話中のフラグの立て方もさり気なく良かった
そして、4分頃にも、さり気ないフラグが立った。ちや子の同僚・タク坊(マエチャン)が平田の前で ちや子の仕事っぷりを馬鹿にするような言い方をして、平田が叱るシーンでだ。
喜美子「『ぶんやのほこり」て…」
平 田「ああ ブン屋いうのは新聞屋のこと」
喜美子「ああ…」 平 田「誇りっちゅうのは…
(机の上の埃を指で触り)このほこりやないで」
喜美子「フフッ」
平 田「仕事が好きなんや。好きやから おろそかにはせん。
最後まで責任持って やり遂げる。
入社してから並みいる男を押しのけて 女一人」
ここの喜美子も、平田の言葉に多大な影響を受けたようには見えないが、馬耳東風と言う感じでもなく、何となく 「誇り」と「やり遂げる」のキーワードに少し引っ掛かりを覚えたって感じ。いや、私には、喜美子がそんな気持ちだと、戸田恵梨香さんの演技から見えた。やはり、見え見えのフラグより、この位が本作にはちょうど良いのだ。
だって、この先の展開が読めない楽しさもあるし、喜美子を支える人たちの “輪” が少しずつ広がるのを観る方が今は楽しいから…。そして、この直後の平田が語る「ちや子の武勇伝」の回想シーンにインサートされる喜美子のアップが、今度は次第に「女一人」に痺れて来るのが楽しかった。
久し振りに「草間流柔道」の単語を発したのも良かった
5分過ぎには、新聞社での仕事が終わった喜美子が、歌声喫茶「さえずり」で役者志望の住人・雄太郎(木本武宏)と待ち合わせ。さぞや平田が語った「ちや子の武勇伝」に触発されたと思われる喜美子が、久し振りに「草間流柔道」の単語を発したのも良かった。こう言うのが連ドラ、朝ドラをずっと見て来たお楽しみ、醍醐味だ。
そして、この時点では不明だが、とにかく新しい人生の出発を分かち合おうと意気投合する喜美子と雄太郎。目をキョロっとさせてアイスクリームを頬張る喜美子の純真無垢な感じに、心が和んだ…
まさか、雄太郎と黒澤明監督『生きる』が呼応し合うとは!
7分過ぎの舞台は夜の「荒木荘」。雄太郎の映画出演が決まったと言う吉報が、さだ(羽野晶紀)と医学生の圭介(溝端淳平)に知らされる。有頂天の雄太郎に対して、いつもどおりの冷静な女中の大久保(三林京子)の対比も面白い。そして、本作とは全く関係ないが、雄太郎が言った、この台詞にガーンと来てしまった。
雄太郎「黒澤 明の『生きる』が 僕の脳天 貫いてん」
いやあ、私の人生に、特に映像関係の仕事に進もうと決意をさせた数々の名作映画の 1作が、この巨匠・黒澤明の名作『生きる』なのだ。もう 100回以上は観ていると思う。『生きる』が登場したなら少しだけ脇道に逸れさせて頂きたい。
『生きる』を見た人には釈迦に説法だと思うが、黒澤明監督作品の中でも、神や人間の本質を追求した作品の頂点とされた名作で、「生きる」とは何か? を真正面から捉えながら、お役所仕事のような官僚主義への批判を、仕事への意欲をとうに無くしていた市役所で市民課長を務める主人公が、余命を知ることで市民課長の自分しか出来ない仕事に命を賭ける…と言う物語だ。
劇中で志村喬さん演じる主人公が「ゴンドラの唄」を口ずさみながらブランコをこぐシーンは、本作の名シーンだ。今の仕事や現状に悩んだり、モヤモヤしたりしている人には、是非とも主人公の生き様を観て欲しい映画だ。
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喜美子の小さな心の中で、6つの思いがぐるぐると廻っている
さて、話を感想に戻そう。映画で役を貰って嬉しそうな雄太郎と、その話を聞く さだと圭介に喜美子が夕食の給仕をする姿が何とも “しっくり” 来ていた。やはり、演技に定評のある戸田恵梨香さんが「中卒の15歳」を演じるからこそ、相手の台詞を邪魔せずに動いては、台詞に的確に反応する表情を見せる。この辺の緻密な演技と演技指導は安心感がある。
そして、雄太郎の「お金より大事なもん 僕は見つけた」への喜美子の反応も、さり気ないフラグになっていた。
今さら言うまでもないが、喜美子の小さな心の中では、「お父ちゃんが探して来てくれた仕事」と「お金が欲しい」と「誇り」と「やり遂げる」と「女一人」、そして先日の “俵おむすびセット” を作ってくれた「大久保への感謝」の “6つ” がぐるぐると廻っているのだ。それが喜美子の表情に表れていた。いいな、あの演技…
終盤の悪夢から絵を描く喜美子を見守るちや子の展開が素敵
11分頃の、喜美子が女中の仕事を終えて、大久保に何も言い出せないまま、夜の床に就いたあとの、悪夢? のシーンも良かった。最近の朝ドラでは不必要に死人がヒロインの夢枕に立ったり、絵から抜け出してヒロインと握手したりするが、やはり、生きている人間が生きている人間に影響を与えるのが自然。
ここも恐らく想像の域を出ないが、前述の映画『生きる』で描かれる「今の自分がやるべきことを真剣に考える」と、通じるものがあると脚本家が捉えて書いたのだと思う。だから、将来を見つめ直そうとする喜美子に共感出来るのだ。
それも、あれこれ悩んでいるように描写せず、ただ今の自分が描きたいと思う想像の花の絵を描くことで、心の中を “無” にするしかない未熟な喜美子を意図的に描いたような。
そして、ここでも ちや子との会話の中に「描くの好きやねんな」「大好きです! 楽しい!」にも、小さなフラグ。(多分)チェロとピアノの静かで優し気な二重奏の劇伴が映像にピッタリ。本当に良く出ていると思う。
あとがき
本日のラストカット。ちや子の部屋側からのカメラアングルで、画面のほぼ 3/4が暗がりで、画面の 1/4だけの襖の隙間から見える貴美子の部屋の、更に奥に小さく映った笑顔の喜美子の笑顔で、どうやら次回で喜美子が 1つの選択をしたことが描かれそうだと分かりました。
人生を “生きる” 上で大切なことを、周囲の大人たちから教わって、自分の歩む道を選んで行く喜美子の青春時代を丁寧に描いていますね。人生も朝ドラも先を急ぐ必要はないのです。じっくり進むこと、それが良いのです…
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